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第152話 2つの明日

その参謀本部のイギリス人中佐はデイビーズと名乗った。痩せた長身の30歳代と思しき私達日本人から見たらいかにもイギリス人だよね、という感じの白人男性。


デイビーズ中佐は特に私達に起立、敬礼などは求めず、入室した流れでそのまま作戦の説明を始めた。こちら側に大佐を含む佐官クラスがわんさかいるからだろう。


「先程コールマン大佐からざっとした説明がありましたが、作戦の概要としてはあの通りです。連合艦隊が敵の空間近接防御システムの注意を引きつけ、航空隊が敵の指揮艦を沈める。それによりシステムがダウンしている間に特殊部隊を移民船団に突入させて敵のトップを押さえる、というものです」


こうして聞く限り作戦としてはそれぞれのパートで、それぞれがそれぞれの役割を果たすという単純な物だと思った。

作戦とは規模の大小に関係無くそうした物だと言われればその通りなのだろう。だけども、よく考えてみれば私はこうした多くの兵科が異なる部隊が連携した大規模な作戦に参加するのは初めてだ。


「この作戦の成否を決めるのは、敵の空間近接防御システムを制御するAI搭載の指揮艦を撃沈できるか否かにかかっています。その重要な役割を皆様、独立挺進艦隊の航空隊に担って頂きたいのです」


デイビーズ中佐の説明はこうだ。


・連合艦隊が残存戦力の総力を挙げて敵の空間近接防御システムの注意を引くように艦隊を展開する。


・連合艦隊が敵空間近接防御システムからの攻撃を引き付けて比較的手薄となっている箇所から第1機動艦隊の六式艦戦からなる航空隊の護衛、援護を受けた第1、第3、第6独立挺進艦隊のFAーv3からなる攻撃部隊が対艦ミサイル飽和攻撃で敵の指揮艦を撃沈する。


・指揮艦が撃沈され、敵の空間近接防御システムがシステムダウンして活動を停止させている間に第869特殊任務群がアメディオ支族の移民船団へ突入して政府と軍の中枢を確保して降伏させる。


デイビーズ中佐は土星と予定戦場となる土星内縁衛星軌道の立体画像で作戦を説明し、シミュレーション立体動画で各部隊の動きについても解説した。


ここで中佐の説明が一旦終わると質疑応答時間となり、会議出席者達から次々と質問が挙がった。


「第1独立挺進艦隊第1戦闘航空大隊のバルクホルン中尉です。我々のターゲットとなる敵の指揮艦は特定出来ているのでしょうか?」


この質問者はドイツ系らしい20代後半と思しき苦味走った長身の白人男性士官。バルクホルン中尉からの質問は実にもっともな質問で、実際に作戦会議でも何度か触れられているものの大型艦としか説明されていないかった。出撃して敵の砲火を潜り抜けても、肝腎なターゲットがどれかわからないのでは作戦の成功は覚束ない。


その質問に答えたのはデイビーズ中佐ではなく、意外な事にヤグモ支族の技術士官であるトキモさんだった。


「我々ヤグモ支族と地球軍との合同分析ではオーベラルスト級空母、ええと、地球軍のカテゴライズでは(ゴルフ)級?空母が改造されて転用されているようです。ですから航空隊の皆様はG級空母をターゲットとして狙ってくださればよろしいかと」


この回答にデイビーズ中佐が捕捉を入れる。


「敵の指揮艦が遊弋する宙域は特定されている。そこに突入し、兎に角、G級空母を狙って頂きたい。よろしいか?では他に質問は?」


デイビーズ中佐はバルクホルン中尉の質問をやや強引に終わらせると、次の質問を促した。そして挙手したのは若い長身の黒人士官。


「第3独立挺進艦隊第2戦闘航空大隊のスティーブン・ヒラー中尉です。先程航空隊が対艦ミサイル飽和攻撃をするとありましたが、実際どのような攻撃をすればよろしいか?また、飽和攻撃で撃ち漏らした場合はどうするのでしょうか?」


今度はデイビーズ中佐が回答する。


「FAーv3には大型対艦ミサイルユニットを装着して射程距離内に入り次第遠距離からの攻撃を実施、これで敵指揮艦を撃ち漏らした場合は機体に装備する対艦ミサイルによる近距離からの攻撃に切り替えての実施となる」


なるほど。もう作戦のシミュレーションは何通りも行われていているみたい。確かに遠距離と近距離、2段構えの対艦攻撃が出来るのは地球連邦軍のなかでも戦闘攻撃機であるFAーv3だけ。この作戦にはうってつけて言えるだろう。その分、作戦成功に関する私達の責任は重くなる訳だけど。


〜・〜・〜


その後、幾つかの質問がなされた。この場で明確な回答が出されなかった質問に関しては、後刻参謀本部から関係各部隊へと回答が送付されるとされたけど、私の予想ではその回答が寄越される事は無いだろう。


そして、作戦会議というよりは作戦説明会という内容だった会議は終わった。私が独立挺進艦隊に指定された会議室から退室しようとしたところ、何故かヤグモ支族のトキモさんから呼び止められた。


「あなたはパンテーン号の乗員乗客達を保護した艦隊のパイロットですか?」


「…はい、そうですが、(何で知ってるのだろう?)彼等に何かありましたか?」


「彼等は現在、我々ヤグモ支族の保護下にあります。今はヤグモとアメディオは対立していますが彼等が同族である事には変わりはありません。ですから、彼等を守り助けてくれた貴女に一言感謝の言葉を伝えたかったのです。有難う御座いました」


ウーメリンちゃん達はヤグモ支族の保護下にあると言う。トキモさんの口振りだと悪くない待遇みたいだった。


「パンテーン号のみんなは元気にしていますか?」


「ええ。戦時なので多少の不自由はあるでしょうし、監視下にもありますが」


それはしょうがない。少々窮屈かもしれないけど、戦時だらね。でもみんなが元気なようなら、それは良かった。


「現在、我々ヤグモ支族も地球連邦の同盟軍として参戦しています。この戦争でアムロイは徒に多くの人命と戦力を失いました。我々アムロイが故郷の惑星を追われて永い宇宙の放浪で追い詰められていたという事情はあったにせよ、侵略しようなどと考えず、どうして話し合いが出来なかったのか。そしてその場であなた方地球の人々にどうか私達を助けて欲しい、この太陽系に住まわせて欲しいと頼む事が出来たのであれば、その後の私達の歴史は今とは全く違ったものになったでしょう。私にはその事が悔やまれてなりません」


アムロイにも色々な考えの人がいるのはわかる。このトキモさんのように侵略には反対だった人々もいたのでしょう。私は内心、そんな事は今更だと思いながらも、一体何が言いたいのかわからないトキモさんの話を黙って聞き続けた。


「ですが、私はパンテーン号の亡命を知り、保護した乗員乗客達からあなた方の話を聞きました。そして私はアムロイ人と地球人が共に歩める可能性がまだ僅かかもしれなくてもあるのだと思えたのです。だから、私もこの作戦の立案に加わりました。この戦争を少しでも早く終わらせて、どうにか両種族が共に歩める日が来るようにと」


トキモさんはここで一息吐くと、更に話を続ける。


「ですから、この作戦にパンテーン号を守ったあなた方が参加するのも星の巡り合わせなのかもしれません。勝手な事ばかり一方的に言ってしまい申し訳ありません。ですが、どうか必ず空間近接防御システム指揮艦を沈めて下さい。私にはアレが私達の未来への入口を閉ざす醜い蓋に思えてならないのです」


悲しげな表情のトキモさん。でも、私にはそんな彼女の向こうにウーメリンちゃん達の姿が見えた気がした。そう、2つの種族が手を取り合える未来はまだ完全に失われた訳じゃない。この作戦でこの戦争が早く終われば、それは案外すぐ手が届く所に来るのかもしれない。


ただ、私は軍人で、今は戦争中。そうは思っても馴れ合いはしない。


「最善を尽くします」


私はそれだけ言うとトキモさんに挙手の敬礼をする。私の敬礼を受けたトキモさんは慌てて真似して私に左手で敬礼をした。いかにもな知的エルフ風美女があわあわして反対の手で答礼する様がおかしくて、私は思わずぷっと吹き出してしまった。それを見たトキモさんも釣られてぷっと吹き出すと、これから掴み取れるかもしれない明るい未来を先取りするかのように、私達はどちらからともなく笑い合った。








いつも『朝倉家の戦争』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話にご期待ください。


ダニエル・ブーン・デイヴィス

「彼はいつまでたっても、ドアというドアを試せば、必ずそのひとつは夏に通じるという確信を、棄てようとはしないのだ。

そしてもちろん、僕はピートの肩を持つ。」


ロバート・A・ハインライン

『夏への扉』より

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