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第15話 向けられる悪意

月曜日、何時も通り朝6時の起床から課業が始まる。先日、私は同じ班のみんなに根拠の無い私の名誉を毀損する噂への対応策を話した。正直なところ、そこまでの事はやりたくないという内容なのだけど、私だけじゃなく班全体の問題だからとみんなが協力してくれる事となったのだ。みんな、本当にありがとう。


あの日以来、木村と彼の班員達から地味な嫌がらせを受けるようになった。外出日の遣り取りが連中の中の変なスイッチを入れてしまったようだった。


始まりは噂や陰口といった私に対する直接的な嫌がらせ。私が行く先々でひそひそと何やら言われる、木村達に同調した一部の男子候補生達に「お前コネで入ったのか?」と詰められる、すれ違いざまに態とぶつかられる、食堂でわざとらしくコップの水をかけられる。遂には階段から偶然を装って突き落とされそうになったり、個人貸与品を隠されるに至って、私も行動を開始したのだ。


その日、私が教場に入ると、それまでザワザワとしていた同期生達が急に黙り込んだのだ。私達はお互いに顔を見合わせて、かねてからの計画を発動する事にした。


私達が席に着くと、件の木村がクラスの学生隊長である北條猛隊長に対して発言の許可を求めた。要は、先日の外出の際に私達がバスの車内で大声ではしゃいで騒いでいた、とする私達の班に対する弾劾であった。


だがしかし、私達はこれある事を予想して、すでに学生隊長、副隊長を始め木村の行為を不愉快に思っている(であろう)同期生達に根回しを行なっていたのだ。


実は、私達は "特待生" 絡みの校内での噂の出所が木村が班長を務める班であり、彼等が入校当時から噂を故意に流布していた事を女子候補生ネットワークを通じて突き止めていた。そして、多数の証言により証拠固めを行い、且つ、教官への相談実績を積んで逆に木村達が墓穴を掘るように追い込んでいたのだ。


木村達も馬鹿では無いようで、自分達が私に関する悪意ある噂を故意に流布している事を私達が調べている事に気付き、焦って今回の弾劾に及んだのだろう。(計算通り、ニヤリ)


木村は北條隊長から発言を許され、喜々として私達の弾劾を続ける。曰く、私達の班は士官候補生としての品位に欠け、如何に国民からの信用を失墜させているか、この戦時に許される事ではない、班長である朝倉候補生には班を代表してクラス全員に謝罪するよう求める、という事だった。


私は彼の戯言を聞き、この場で "特待生作戦" を開始するために、まずは彼の行動に乗ってみる事にした。


「木村候補生はあのように言っているが、君はどうなんだ?」


北條隊長は特に感情を込める事無く、淡々と私に対応を求めた。


「皆さん、木村候補生は多分に誇大な表現を用いられていましたが、私を含む同班の5名が公共のバス車内で士官候補生として品位を欠くような行いをした事実はありません。」


木村は私がここで謝罪すると思っていたのだろう。逆に彼が弾劾する行動自体を私が否定し、謝罪も拒否したため驚いた顔をしていた。そして、ここからは私のターンである。


「そもそも。私達の班が木村候補生からこのような弾劾される事自体が不愉快です。何故なら、木村候補生こそ、私に対し根拠無く悪意ある噂と不名誉な渾名を校内で流布させ私の名誉を著しく毀損した張本人だからです。それは、私が士官学校に入学出来たのは戦死した私の父のコネや、父の戦死を利用した軍上層部の不正関与によるもの、という噂と、それによって入学したという意味を持つ "特待生" という渾名です。」


教場内は静まり返り、私は敢えて木村を挑発するように一瞥する。


「!」


木村は苛立ったようで、何かを言いかけたが、その前に私は木村への弾劾を続けた。


「木村候補生は私達の班に士官候補生として品位を欠くと発言しましたが、それはそのままご自分に当て嵌まる事ではないでしょうか?他人の名誉を不当に貶める、これは士官候補生以前に犯罪であり、人間性として最低なものと言わざるを得ません。私はこの事に関し、木村候補生及び彼に同調した複数の候補生達に対して謝罪と訂正を求めます。これを拒否するのならば、学校側に本事態に関する調査と関係者の処分を求めます。」


「木村候補生、朝倉候補生はこのように言っているが、事実か?」


北條隊長から説明を求められた木村は、私から反撃され、逆に自分か弾劾されるとは思ってもいなかったのだろう、実に憎々しげに私を睨みながら反論を始めた。


「朝倉候補生の発言は事実無根です。一体何の証拠があって、あのような事を言うのでしょうか。理解出来ません。それこそ私に対する名誉毀損です。」


「証拠というのであれば、木村候補生及び木村候補生と同班の班員の4名から私が先程述べた噂と渾名を直接教えられた、という証言を30名分得ていますが?」


「そんな物に証拠能力は無い!」


激昂している。木村の焦りが強くなって来たようだった。


「何を根拠に証拠能力が無いと、言うのでしょうか?」


「その30人とやらが結託すれば俺達を陥れる事が出来るじゃないか!しかも、匿名であったなら尚更意味が無い!」


「誰も匿名とは言ってません。全員が実名を明かす事に同意してくれましたよ?」


木村は苛立ち、援護を求めるように自班の班員に目を向けたが、残念ながら全員に目を背けられてしまった。



私達が考えた作戦とは、こうだ。初めに私の噂や渾名の出元を調査して犯人を特定、出来るだけ多数の証言を証拠として得る。その過程で木村達に私達が噂や渾名について調査している事を察知させ、同時に教官と助教への相談を重ねる。その相談の事実と私達が木村達を嗅ぎまわっている事実とで木村達を包囲し、徐々に追い詰める。


こちらからの反撃は嫌がらせを受けながらも機会を窺っていたけど、今日、上手い具合に木村達が暴発してくれました。木村達が噂や渾名を流布させていた証拠を私達が持っているのに対し、木村達はやっていない事を証明する手段は無いのだ。


しかし、飽くまで完全に追い詰めるような事まではせず、ここに北條隊長と言う逃げ道も用意した(北條君、ごめんね)。


果たして、木村は北條隊長に泣きついた。


「北條隊長、私は事実無根です。隊長はどっちを信じますか?」


北條隊長は黙って腕を組み、半眼のまま木村の訴えを聞いていた。因みに、北條隊長はガタイのいい、長身のイケメンで、坊主頭で無口である事から修行僧と渾名されている。そして、同い年とは思えないカリスマ性を持っているのだ。


「朝倉候補生は木村候補生達が流言を流布したという多数の証拠があるという。それに対して木村候補生は流言を流布していないという事を証明するのは非常に困難だ。それは理解しているか?」


「は、はい。」


「この場合、木村候補生が極めて不利と言わざるを得ない。しかし、自分も含めて士官候補生に過ぎない我々には誰を裁く権限など無い。そうであるならば、この問題の解決方法は、士官候補生らしく古式に従い一対一の決闘でどうか?」


北條隊長の仲裁案に木村が一瞬ニヤリと笑った。


これを聞いたクラスの候補生達が異議を唱える。


「隊長、それじゃあ朝倉さんが不利になりませんか?」


そう言ってくれたのは、副隊長の花月舞さん。少し大柄だけど、スタイル良くて黒髪のショートカットが似合う美人さんだ。後でお礼を言っとかなくちゃ。


「朝倉候補生はどうか?」


「異議ありません。私が勝った場合は木村候補生にはクラス全員の前で噂と渾名を広めた事を認めた上で、土下座で謝り訂正してもらいます。」


「木村候補生はどうか?」


「私も異議ありません。私が勝った場合は朝倉候補生には士官学校からの退学を要求します。」


木村の要求に教場内はざわめいた。あまりに無謀な要求であり、決闘の趣旨と北條隊長の意図を理解していないと思われても仕方がない。まあ、応じる義務も無いけどね。


「木村、貴様は、」

「北條隊長、私は構いません。」

「しかし、いいのか?」

「ええ。」

「わかった。双方、決闘は本日の課業終了後、17時から、場所は格技棟とする。」


朝の自習時間内で、この遣り取りは終わった。班のみんなには想定通りだったので、そのまま席についていたけど、花月さんは態々私の席まで心配して来てくれた。


「朝倉さん、大丈夫?」

「うん、大丈夫、任せて。ありがとう花月さん。」


さて、木村一味にはこの落とし前、どうつけてもらおうかな?






お読みくださり、ありがとうございます。

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