第149話 会議は続く
作戦会議は依然続き、そして私の心は踊らない。
しかし作戦会議はいよいよ佳境に入ろうとしていた。
会議を仕切る参謀本部の黒人大佐はセカンドアロー作戦でアムロイ軍が使用した新兵器シュルツランツェもどきについて触れる。
「敵の空間近接防御システムは我が軍のシュルツランツェと酷似した兵器システムである。だが、我が軍の分析によれば、その運用に関してシュルツランツェとは決定的に異なる部分がある事がわかった。その点についてはこれより専門家に説明を譲る事とする」
そう言って黒人大佐はその場を下ると、代わりに会議室に現れたのは、なんとアムロイ人の若い女性。
その女性は長身、色白に艶やかな黒髪。ちょっとキツそうだけど、理知的な美人。両耳は長く先っちょ尖っている。
意外な人物の登場に、会議室は俄かにザワりだした。その大半は男連中が彼女の容姿について色々と言っているんだろうなぁ、という事は想像に難くない。
そのアムロイ人女性は会場のザワつきなど特に気にした風でもなく、スタスタと先程まで参謀本部の黒人大佐(コールマン大佐というらしい)がいた会議室正面の席に着いた。
「チョッハーマイオ(どうもこんにちは)、親愛なる地球人類の皆さん。いきなりのアムロイ人登場で驚かれましたか?私はアムロイはヤグモ支族、支族軍技術開発本部から派遣されて参りました、トキモ・コーエーと申します。以後、皆様とは長いお付き合いとなるかと思いますので、何卒宜しく御願い奉り候」
……
因みに「チョッハーマイオ」というのはアムロイ標準語で「どうもこんにちは」の意味。「チョッ」が「やあ」とか「どうも」などを意味し、「ハーマイオ」が「こんにちわ」を意味する挨拶の言葉。
ヤグモ支族のトキモさんは翻訳機も使わず、アムロイ語の挨拶から始まって淀みなく日本語で挨拶の口上を述べた訳だけど、何で最後は時代がかった候文になったのだろう?
案の定、会議室内は微妙な雰囲気。皆どう反応していいのかわからず、し〜んとなったかと思えば、次いで「これって笑うところか?」とか「外人言語鉄板ネタって奴か?」などひそひそとささやき合う声が聞こえ出す始末。
「さて、掴みはオッケーでしょうか?という事で早速アメディオ支族のコンチクショウどもが作り出したハレンチは武器について説明したいと思います」
いや、誰よ、この人に日本語教えた人は!
それで説明とか大丈夫なのかな?
「では、ここからは正確に説明するため翻訳機を使用したいとと思います」
あぁ、変な日本語喋ってた自覚はあったんだね。
「朝倉さん、アムロイって本当に"宇宙人"なんだね」
「ウーメリンちゃん達は普通だったけど…」
中山君が言う"宇宙人"とは昔から何を考えているのかわからない人とか、考え方が斬新だったり、突拍子もなかったりする人に使う蔑称な訳だけど、この場合はまさにぴったり。
私達地球人の戸惑いを知ってか知らずか、トキモさんはアムロイ軍の空間近接防御システムの説明を始める。
〜・〜・〜
翻訳機を使ったトキモさんの説明、というか解説は実に理路整然としていてわかりやすく、私もたちどころにアムロイ軍の空間近接防御システムについて理解する事が出来た。
アムロイ軍の空間近接防御システム、向こうで何と呼ばれているのかは知らないけど、これはやはりシュルツランツェと同じ物と言っていいみたいだ。
この戦争の当初、アムロイ軍が地球圏に侵攻した際、シュルツランツェの迎撃に遭ったアムロイ艦隊は全滅する前に自らが被った被害とデータを土星の本隊に送信していたという。
アムロイ軍の既存の艦隊が初戦で大敗し、大打撃を受けた。それによる人的資源の不足もあってアムロイ政府執行部は艦隊戦力をAI制御による無人艦艇を主力とするようにシフトし、土星圏の資源を使って無人艦隊を増強させると、地球連邦への通商破壊戦を開始したのだ。
うん、ここまでは何となくわかっていたよ。
ところが、占領して確保していた火星でヤグモ支族が地球連邦軍に降伏した事により、再び地球〜木星間航路が安定化し、更には地球連邦軍の輸送船団への護衛戦力増強と、土星宙域での挺進活動によりアムロイ軍の通商破壊戦も戦果が上がらなくなった。
「そこで現在アムロイ軍を牛耳っているアメディオ支族首脳は、無人艦隊による通商破壊戦により時間を稼ぎ、その間に再び地球圏へ侵攻するための戦力を整えるという今までの方針を変更しました。アメディオ支族の新たな戦略は地球圏から遠く離れた土星宙域に地球軍を引付け続け、それによって経済的負担をかけさせて弱体化を図る、というのがアメディオ支族の新たな戦略です」
確かに地球連邦軍の基幹艦隊たる月軌道艦隊や木星駐留艦隊、アステロイドベルト駐留艦隊に加え、その他の艦隊や補助艦艇などを長期間土星宙域に貼り付けるとか、莫大な予算が必要となり、地球社会全体に与える影響は甚大となるだろう。
「要するにアメディオ支族首脳は現有の艦隊を失ったとしても地球軍を土星宙域に引きつけ、やがて撤退に追い込めば次の芽が出ると思っているのです」
次の芽とは、地球連邦を交渉の席に引きずり出し、アムロイに有利な条件での生存権を認めさせるとか、若しくは再び地球圏へ侵攻を図るとか、まぁ、いろいろとあるのでしょう。
「ですから、私達ヤグモ支族は侵略には反対だったのです。平和裡に地球連邦と接触して話し合いで解決すべと。それをアメディオの連中は!」
自動翻訳機はトキモさんのアムロイ語を正確、且つ当たり障りの無い表現にして訳している。だけどトキモさんはこの下りを話している間、語気は荒く、元々キツめな目付きを更に釣り上げたその見た目からかなりアメディオ支族に憤っている事がわかる。
「えへん、失礼しました。アメディオ支族首脳は第6惑星内縁衛星軌道内を外縁衛星軌道から攻めて来るであろう地球軍を一切寄せ付けない聖域とするため、かつて自軍の艦隊に大打撃を与えた地球連邦軍の空間近接防御システムをモデルとしたのでした」
トオルハンマーにしても、シュルツランツェにしても、地球連邦がASCー1の発見以来いつか来るであろう異星人からの侵略に備えて長い期間と予算を費やして構築したものだ。どちらも、既存の技術によって構築されているのでそれほど予算はかかっていないというけど、だからといって決してお安い訳ではない。そして完成までに10年単位の年月がかかっている。それをアムロイはこの1年くらいで、しかも地球圏より広範囲になる土星内縁衛星軌道内をカバー出来るシュルツランツェをモデルとした空間近接防御システムを完成させ、実戦で大戦果を挙げている。
アムロイ、侮り難しというところか。
「この事実だけみれば、アメディオ支族が作った空間近接防御システムは、その戦果からも完成度が高い強力なシステムであるように思えます。
しかし、ですね。やはり、そこは急造したシステムです。更にシステム構築に際してあれもこれもとスペックを求めた結果、無理のかかった兵器となってしまっています。有り体に言えば、弱点があると言っていいでしょう」
強力な防御システムに弱点の存在。
あ〜、何となく、この後の展開が読めて来たよ。
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それでは次話にご期待ください。
アンタレス 「これだけは教えてやろう! 機械伯爵に会ったら、いいか! 撃たれる前に撃て! 相手が涙を流して、許しを請うても、容赦なく撃て! たじろいだり、ひるんだりしたらお前の負けだ! それが宇宙で生き延びる唯一の道だ!」
『劇場版銀河鉄道999』より




