第148話 シュルツランツェ
地球圏から遠く離れた土星の衛星イアペトゥス。ここで再会した私達朝倉家の親娘3人は、再会の喜びも束の間、作戦会議の始まりと共にそれぞれの部隊の元に戻らなければならなかった。まぁ、同じ基地の屋根の下にいるのだけれど。
イアペトゥス基地の会議場は急拵えの割に広く、元からあってアムロイ軍土星襲撃で放棄した基地の作りかけだった倉庫を改築したのだそう。
私達第6独立挺進艦隊からの出席者は結構前の席をあてがわれていた。これはかなり作戦に占める私達の任務の割合が大きいのか?なんて思ってみた。
「へえ、お母さんと妹さんに会えたんだ。凄い偶然だね」
中山君は、私が彼を放っぽり出したにも関わらず、私が母と妹に会えた事を喜んでくれた。
「本当、さっきはごめんね。でも、まさかこんな所で会うなんてね」
「僕の事は気にしないで。しかし、第1機動艦隊に、第869特殊任務群に、第6独立挺進艦隊か。一体どんな作戦なんだろう」
勿論、作戦参加部隊は私達だけじゃないけど、それぞれある意味特徴的な部隊だから目立ちはするよね。
間も無くして作戦会議が始まろうとしていた。ザワザワしていた会議室内は地球連邦軍連合艦隊司令長官、の代理である日系人大佐が入室すると忽ち静かになる。そして、会議の司会進行役士官の頭中の号令がかかった。
連合艦隊司令長官代理が司令長官のメッセージを代読し、参謀本部から来た黒人の大佐により「セカンドアロー作戦」の説明がなされる。
「セカンドアロー作戦」とは、STH群を囮にアムロイ軍の本土防衛艦隊を釣り出して包囲殲滅した「ファーストアロー作戦」によって戦力の低下したアムロイ軍の本隊を月軌道艦隊、木星駐留艦隊、アステロイド駐留艦隊からなる連合艦隊で破って一気にアムロイの"本国"たる移民船団を制圧下に置き、この戦争を地球連邦の勝利によって終わらしてしまう、という作戦だったそう。失敗に終わったようだけど…
連合艦隊は土星の外縁衛星軌道からアムロイ軍の本隊まで「無人の野を行くが如く」進撃するはずだったそうなんだけど、内縁衛星軌道に進入するや、アムロイ軍からの先制攻撃を受けたという。
「敵影の無い内縁衛星軌道のあらゆる方向からその攻撃はなされた。連合艦隊は敵の発見には至らないまま回避に動いた。だが、大戦力であった事が仇となり、戦場は混乱を極め、有効な回避運動が取れない状態のまま更なる攻撃を受けたのだ。結果として連合艦隊は大損害を受けて後方へ転進している」
後方へ転進ねぇ。きっとエリカなら「それって敗退とか、良くて撤退とか言うんじゃ…」とか言いそう。
流石に友軍の敗退を説明するのは辛いのか、参謀大佐の声は僅かに震えていた。
「セカンドアロー作戦」の失敗、連合艦隊の敗退という結果に会議室内は気まずい沈黙に包まれる。出席者達はこの沈黙を破る誰かの発言を待っているよう。
「参謀、質問!」
おぉ!勇者の降臨だ。皆の注目を集めたその質問者は、私も会った事のある男性士官だ。
「第869特殊任務群の三剣、階級は少佐です。先程連合艦隊が姿の見えない敵からの攻撃を受けたとありましたが、その敵の兵器については今現在どこまで把握しているのでしょうか、差し支えの無い範囲で結構ですのでお教え願います」
三剣少佐は誰もまだ質問を許していない事など気にもしてない体だった。そうした場合、普通なら質問者は何かしら注意されるとか、はたまた叱責されたりとかになるだろうけど、ここは大戦果を上げた戦場帰りの特殊部隊将校には誰もが一目置くのか、事実、参謀大佐は三剣少佐の質問に答えていた。
「それについては、この映像を見てもらいたい」
参謀大佐が指示を出すと、会議場の正面に「セカンドアロー作戦」のものと思われる戦闘記録の動画が映し出された。
それはおそらく艦隊の先鋒を務めた艦から撮影されたもので、その更に先行する複数の友軍艦が次々と攻撃を受けて撃沈されている。
映像をよく見れば、敵の攻撃はミサイルなどではなくレーザーによるもので、艦隊の正面からだけではなく上下左右、斜めからも射線があるのがわかる。
「このように敵影は無いにもかかわらず、四方八方からの集中攻撃を受けている。この情報を国防技術研究所で解析したところ、信じ難い、いや、認め難い事実が発覚した。それはアムロイ軍の兵器が我が軍の地球圏防衛システムたるシュルツランツェに酷似した兵器システムであるという事だ」
シュルツランツェ。二段階からなる地球圏防衛システムの月軌道より内側を守る近接防御レーザー兵器群をそう呼んでいる。
それは、地球圏の各所にあるレーザー砲衛星、宇宙基地、宇宙要塞、軍事コロニー、月面基地などから発射される高出力レーザービームをリフレクター衛星で反射させて中継し、どこに敵艦があっても死角なく多方から攻撃する事が出来る兵器システムだ。
更には軍事施設だけではなく、スペースコロニーや宇宙ステーションの通信用レーザーも出力を上げればこのシステムに加える事が出来、言うなれば地球圏全体がまるっと兵器になっているようなもの。
勿論、シュルツランツェも完璧では無い。現に私の父はこの地球圏防衛システムを突破したアムロイ軍の戦艦からスペースコロニーを守るために戦死したのだ。
しかし、まさか自分達が開発した兵器を模倣されて自分達が撃たれてしまうとは。この戦争において、地球人の一体誰が今日の戦況を予測出来ただろう。まさに、事実は小説よりも奇なりだ。
そして、アムロイは地球人よりも発達した科学力、文明を持つ種族。もしかしたら、いや、もしかしなくてもアムロイが作ったシュルツランツェは地球連邦軍が開発したシュルツランツェよりも完成度が高い兵器なのではないだろうか。
参謀本部は「セカンドアロー作戦」が失敗に終わった以上、是が非でも次の作戦は成功させようとするはず。どんな作戦考えているのか知らないけど、一体私達に何をやらせようとしてるのだか。
いつも『朝倉家の戦争』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話にご期待ください。
「助言者達との綿密な検討の末に、私は一つの道があると信じるに至った。我々は今ここに、ソ連のミサイルの脅威に、防御的な手段で対抗するプログラムを開始する。アメリカの安全が、ソ連の攻撃に対する報復によって保たれるのではなく、戦略弾道ミサイルを、我々自身の、また我々の同盟国の国土に達する以前に迎撃し、破壊できると知ったときに初めて、自由な国民は安楽に暮らせるのではないだろうか?」
ロナルド・レーガン『SDI演説』より




