第144話 降臨
3Dホログラムにより空母海鳳の士官室に降臨した第6独立挺進艦隊司令ガチンスキー大佐。四角張った厳つい顔は恐ろしげな笑いを浮かべて上機嫌そうであった。魔王?
旗艦ハールバールの艦橋は空調が効いているはずだけど、黒を基調とするダブルのロングコートを着込み、地球連邦軍の制帽を目深に被っている。その右手にはお気に入りの大昔の元帥杖 (レプリカ)を持ち、髑髏が彫刻された握りを忙しなく左の掌にバシバシと当て、口元を歪めては押し殺した笑い声を漏らしていた。
『諸君、喜べ。我が艦隊は再び土星宙域へと戻る事となった。宇宙艦隊司令部からのご指名だ』
長年艦上で過ごした宇宙の男特有のどら声でガチンスキー大佐は吼えように全艦隊員へと語りかける(当番員も当然配置に着きながら音声のみ拝聴)。
『我々が木星で雌伏している間に土星宙域で何があったのかは皆目わからん。だが、行手に何が待ち受けようとも不敗、百戦錬磨たる我が艦隊は地球連邦の勝利のため行かなくてはならない!
決戦の宇宙が我々を読んでいるのだ。
我々の戦いは子々孫々にまで語り継がれるものとなるだろう。諸君の一層奮励に期待するところ大である!』
お気に入りのスタイルで言うだけ言ってガチンスキー大佐の姿は消えた。ガチンスキー大佐の勢いに圧倒されてか、士官室内は咳き一つ聞こえない。
聞こえなかったんだけど、こんな声が静寂に包まれた士官室内を駆け抜けた。
「要はさぁ、連合艦隊がボロ負けしたから、使える戦力を掻き集めているって事でしょ?」
エリカさーん、ひそひそ声で言ったんだろうけど、丸聞こえなんだよぉ!みんなそう思ったけど、敢えて口にしなかったんだよぉ!
途端にあちこちで始まるひそひそ話し。
「結局何があったの?」「誰かしらない?」
「戦況はどうなってんだよ」「からの、大勝利?」「ねーよ」
バン! 「静粛に!」
演台が激しく叩かれて私語は止み、全員が艦長の登壇に注目する。
「起立!艦長にぃかしらぁ〜中!」
主計科大尉の号令がかかり、艦長が答礼、私達は着席する。
「話は先程艦隊司令から聞いての通りで、司令が言った以上の情報は何も無いのが現状だ。何も隠してなどおらんから無責任な憶測は止めておけ。我々は再び土星に向かう、それが今の全てだ。以上」
艦長の手短に私達の置かれた現状を説明し、示達は終わり解散となった。
「エリカ、何やってんのよ〜」
「ごめん、ごめん。でも何で聞こえちゃったかな?」
「声がでかいからでしょ、普通に」
部屋へ戻る道々、エリカはパティと真樹に詰められていた。
〜・〜・〜
野村大尉が言っていた神託(?)は大当たり。木星宙域哨戒任務中であった第6独立挺進艦隊は土星に向けて進路を変更し、現在絶賛加速中だ。
実際のところ、土星奪還作戦の第2段階「セカンドアロー作戦」で何があったのか?
艦長が言った通り情報が無い中でああだこうだと言い合っても意味の無い事ではある。
だけど、STH群防衛戦「ファーストアロー作戦」を戦い抜いたものの、木星とアステロイド駐留艦隊の到着と共にもう用済みとばかりに木星に追い返された私達が、このタイミングで前線に呼び戻されるなんて、エリカが言った通り地球連邦軍の連合艦隊は負けてしまったか、大損害を受けたかしたのだろう。
あの戦闘でアムロイ軍の本土防衛艦隊は確かに壊滅していた。アムロイ軍はそれでもまだ手元に艦隊戦力を温存していたのか。それともAI制御の無人兵器だけに新たな艦隊戦力を編成出来たのか。
いずれにしても、あの時、地球連邦軍の連合艦隊は艦隊決戦で負ける要素は少なかったはずだけど、窮鼠猫を噛んだとか?それとも想像を絶する新兵器とか?特殊な戦術を駆使ささたとか?
幸いな事に、現在の木星と土星の位置関係は近く接近している。艦隊は1ヶ月を待たずして土星宙域に到着する事が出来るそうだ。
果たして土星で私達を待つのはアムロイの新規戦力か?はたまた想像を絶する兵器か?
もう一度XFAー1で戦えるって喜んでしまったのは、やはり私って戦闘狂なのかなとちょっと悩む私だった。
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それでは次話にご期待ください。
ああ私のダニーよ バグパイプの音が呼んでいるよ
谷から谷へ 山の斜面を駆け下りるように
夏は過ぎ去り バラもみんな枯れ落ちる中
あなたは あなたは行ってしまう
ダニーボーイより




