第14話 特待生②
私達は教官室で帰校の申告をした後、自室に戻り入浴などを済ませた。まだ消灯前だったので、自室で皆ベッドに横たわったり、机で本を読むなど思い思いに過ごしていた。
「それにしても腹立つよね、アイツら。特に木村って言ったっけ。」
「ああ、さっきの?」
「そう、例え騒がしかったとしても、あれは無いよ。アイツは普段からなんか嫌な感じだし。」
「うーん、私は気にした事無かったけど、そんなの?」
真樹は未だ憤懣やるかたなしといった風であった。私は隣の机で教科書をパラパラと流し読みをしていたエリカに聞いてみた。
「木村?うん、アイツはヤバイね。感じ悪いし、やたらとうちらの班を目の敵にしてるよ。顔はいいのに残念様だね。」
「残念様って、それじゃあ怨霊じゃない。」
自分で言ってみてハッとした。あの時、木村が私を見る目は確かに怨みとか、そんな感情が込められていたように思う。私が彼に何をしたというのだろうか。
「それにしても、木村が言っていた特待生って何の事?そんな制度あったっけ?」
「「……」」
私がそう言うと、ひとみと史恵が黙って顔を見合わせた。その様子を例えるなら "どうする?言ってもいいのかな?" "もうしょうがないよ" といったところだろうか。
「何か知っているのなら、教えて?」
私が2人に尋ねると、一瞬の逡巡の後、ひとみが話し始めた。
「地球連邦軍の士官学校に特待生なんて制度は勿論無いけど、木村が言っていた特待生って、それ、咲耶の事なの。」
「えっ、なんで私の事なの?」
ひとみの言葉は、まさに私にとって青天の霹靂だ。
「とても言いづらいのだけど、咲耶のお父様は駆逐艦南風の艦長で、Cー1コロニー群防衛戦でコロニーを守り抜いて戦死された言わば英雄でしょ?その英雄の娘である咲耶が父親の跡を継いで軍人になるって、連邦政府や連邦軍の上層部から見たら、異星人と戦争する上で国民や将兵の士気を上げるためにはもってこい宣伝効果が望める。だから、その、咲耶が士官学校の受験に合格出来たのは軍上層部の関与があったんじゃないかって、そう言っている候補生がいるのよ。それで、そうした連中が陰で咲耶の事を "特待生" って呼んでいるの。」
なるほど、そういう事か。そんな噂が出ていたとは知らなかった。知らなかったのは私だけか。それとも、同じ班のみんなが私に知られないようにしてくれていたのだろうか。
「なんなのよそれ。あったま来た!」
「咲、そんなの気にしちゃダメだよ。教官に報告しようよ!」
あっ、私だけが知らなかった訳じゃないみたいだ。
ひとみは言い終えると椅子に座ったまま両手を内股に挟んで肩を落としてしまっている。とても辛そうだ。
「ひとみ、言い辛い事を言わせてごめん。」
「ううん、なるべく咲耶の耳には入らないようにしていたのだけど、私達がはしゃいじゃったから木村に因縁つける口実を与えてしまったわね。」
やはり、ひとみ達がその噂や渾名をシャットアウトしてくれていたみたい。
「みんな、ありがとう。それから私のせいでトラブルに巻き込んでしまって本当にごめんなさい。確かに私に関しては、そう言われたら、そうかもしれないと思われてしまう立場だと思う。でも私は」
「おっと、それ以上は言わせないよ。」
と、真樹に遮られてしまった。
「私は子供の頃から空手やってたから、咲とはお互い知らない間柄じゃなかったんだ。咲は中学、高校の空手界じゃ結構有名人でさ、何度も全国大会に入賞してるし、去年は優勝までしてる。私もまあまあ強い方だったから、ジュニアの強化合宿で一緒だったしね。」
真樹と初めてあったのは中学2年生の時で、東京で行われたジュニアの強化合宿だった。しかも同じ部屋で、楽しかったな。
「私は咲が高校でも国立難関大学コースだったのも知ってる。だから、こいつなら軍の上層部の関与なんか無くったって余裕で士官学校くらい合格出来るんだよ。咲の事を何も知らないくせに興味本位ややっかみで誹謗する連中には本当に腹が立つ!咲は戦死されたお父さんの敵討ちがしたいだけなのに。」
「真樹。」
私は思わず真樹の手を取り、ギュッと握りしめてしまった。
確かに私と真樹は、彼女が言ったように今までに何度か試合や合宿で会ったりしていて、士官学校入校以前から空手の仲間であり、友達だ。真樹が私の事をそこまで理解してくれていた事がとても嬉しい。
「そうよ、それに咲耶がコネで入校したとかって、あの戦いで戦死した方達を侮辱しているわ!」
エリカも右の拳を振り上げて立ち上がって言った。
「エリカもありがとう。」
私は自分の思いをみんなに伝える事にした。
「私は何言われても、そんなの気にしないよ。自分では試験を自己採点しても十分出来ていたし。それに、もし、その噂が本当だとしても利用できるものなは何だって利用するし。」
多分だけど、元々の噂の出所は木村じゃないだろう。入学式で私の氏名が呼ばれた時、俄かにザワついた、その時にはもう関係者には浅く広く広まっていたと思う。だから木村もその辺りでそんな噂を耳にしたのだろう。でも、何故、木村が私を目の敵にするのかがわからない。
「でもさぁ、連邦軍人として地球を守るために戦死した父や他の方々を、私を馬鹿にするために侮辱するような真似はやっぱり許せない。」
「でも咲耶、どうする?何もしなかったらアイツらきっと増長して、もっと嫌がらせしてくるよ?」
「そういうタイプだよね、わかる。やっぱり何かしらこちらもアクション起こした方がいいかも。」
ひとみと史恵の言う事はもっともだと思う。確かに様子見で、何もしないのは悪手だろう。
「うん、じゃあ、少し考えがあるんだけどさ。」
私は思いついた 対"特待生" 作戦をみんなに聞いてもらった。
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