第129話 本郷少佐
すると、不意に3人の男性士官(階級章をチラ見すると皆少佐だった)が睨み合う私達の間に割って入るように現れた。そして、その中の一人、やや長めで密度の濃い黒髪をオールバックにしている彫りが深くて渋い男性士官が、低くそれでいて辺りに響くような声で話しかけてきた。
「おいおい、どうしたこんなところで大声上げて。穏やかじゃないなぁ。どれ、一つ俺に話してみないか?ん?」
突然の事で咄嗟に反応出来なくて、無言になってしまった私達。ホーネットのパイロット達も同様に黙ってしまっている。しかし、ジェリル・オコーナー大尉だけはやや様子が異なり、黙りつつも顔を顰めている。その表情を私なりに解釈すると、「ちっ、まずい奴が来た」といったところかな。おそらく彼女の知っている人達なのだろう。
「おい本郷、お前がいきなり話しかけるからみんな固まっちまったじゃないか。ちゃんと名乗らなきゃダメだろう」
突然現れた3人の男性士官の中の、さっぱり醤油顔のイケメンさんが本郷少佐(?)をそう嗜めた。因みに、この3人は3人ともタイプの違うイケメンで、もう一人の方もニヒルでクールな感じのイケメンである。
「いやぁ、それもそうだな。俺は空母赤城第1戦闘航空大隊の大隊長をしている本郷という者だ。そして、一文字と風見だ」
本郷少佐はそのように自分達を紹介し、さっぱりイケメンの一文字少佐は「よっ」という感じで人差し指と中指で敬礼し、風見少佐は黙礼した。
「それで、何を揉めてるんだ?折角の上陸なんだからもっと有意義に使わないと勿体無いぞ?」
仲裁(多分)に入ってくれた本郷少佐に私がホーネットのパイロット達に謂れの無い侮辱を受けたと訴えようとしたところ、一緒早くマーベル団長に制せられてしまった。
何で⁈と思っていると、本郷少佐がオコーナー大尉を見て実に態とらしい口調で、如何にもたった今気付きましたという感じで語りかけた。
「あぁ、誰かと思えばホーネットのオコーナー大尉じゃないか。またケンカでも吹っ掛けているのかね?」
「そんなんじゃありません。同期生と旧交を暖めていただけです。用は済みましたので私達のこれで失礼します。おい、お前達、行くぞ」
オコーナー大尉は本郷少佐をこの男苦手だといった顔をすると、「憶えていろよ!」といった感じで私達を睨み付け、そそくさと部下達を引き連れて引き上げて行った。
足早に立ち去るホーネットのパイロット達。先程マーベル団長が私の動きを制したのは、本郷少佐達の出現でこうなる事を予想していたのだろうか?多分そうなのだろう。
「本郷少佐、一文字少佐、風見少佐、有難うございました?この娘達が一方的に絡まれてまして、とても助かりました」
私達を代表して本郷少佐達にお礼を述べるマーベル団長。実際、元々ホーネットのパイロット達が私達に一方的に絡んできたトラブルに始まり、マーベル団長とジェリル・オコーナー大尉の同期生同士の不仲さに由来する諍いに事態が拡大してしまっていた。こちらも一方的に侮辱されて引くに引けなくて、これ一体どう収拾したものだろうかと内心気が気じゃなかった。
「いゃあ、母艦は違うけどね、彼女達も同じ戦隊のパイロット達だからねぇ。君達にも迷惑かけて済まなかったね」
本郷少佐はそう言ってくれたけど、少佐が謝るような事ではないはずだ。あのホーネットのパイロット達が一方的に絡んできたのだから、謝るなら彼等だろう。あの連中、一体何がしたかったのだろう?
でも、この広い太陽系の中で、同じ地球連邦軍のパイロットとはいえ、地球連邦軍という巨大組織の中、私達と彼等が再び会う事は無いだろう。そう考えれば白黒着けず玉虫色の決着もまた、日本人的にはありかな。
だから、本当なら今一つすっきりしない終わり方だけど、結果としては誰も傷付かず、今後に影響を残す事なくニコニコ笑いながら騒ぎを鎮めてしまった本郷少佐という人は本当に凄い人なのだと私は思う。
しかも、あの空母赤城の戦闘航空大隊の大隊長というのだから、軍人としてもパイロットとしても凄腕だろうし、私としては超感激。
「君達も面白くは無いだろうけど、貴重な上陸時間だ。これから暫くは大変になるのだから、気持ちを切り替えて楽しまなきゃな」
「ちょっ、一文字先輩。そういう事は大きな声で言わないで下さいよ」
一文字少佐がポロッとこぼした言葉を風見少佐が焦りつつも嗜めた。
ん?それはこれから上陸が難しくなるような大変な事(作戦?)が起こるって事なの?
そこに引っかかったのは私だけじゃなかったようで、どうゆう事?といったいった感じでみんなお互いに顔を見合わせている。
「先輩、そろそろ行かないと。店でおやっさんが待ってますから」
「あぁそうだった。俺達は人を待たせているからこれで失礼させて貰うよ。それじゃあ、お互い頑張ろう」
風見少佐がその場を取り繕うように急かすと、本郷少佐達はこの場を後にした。私達は立ち去る本郷少佐達の背中に「ありがとうございました!」と声を合わせてお礼を述べ、深々と頭を下げたのだった。
「みんな、済みませんでした。私が赤城を見たいなんて言ったばかりに嫌な思いさせちゃって」
「いや、僕もあいつらに何も言い返せなくて、済みました」
「俺も冷静に対処出来ず、済まなかった」
「あー、もー!謝罪合戦はもういいよ。時間が勿体ないんだから、早く次行こうよ」
私はきちんとみんなに謝ってと思ったのだけど、中山君も木村君も謝りだしたのでエリカがブチギレた。なので、私達は早々に現場から離脱し、パティが予約しておいてくれたコロニー内の繁華街にある中華料理店「娘々 タロスアルファ店」へと急いだのだった。
予約した人数はブラックチューリップ小隊の4人とマーベル団長の5人。後から来た男2人分の追加が出来るのかは微妙なところだけど。
宇宙港から繁華街へ行く道すがらの話題はもっぱら本郷少佐達についてだ。
真樹:「風見少佐ってクールでツンとしていて、格好良いよね?あー、デレるところが見てみたいなぁ」
エリカ:「うんうん。風見少佐、(BL的な意味で)いいよねぇ」
パティ:「私は本郷少佐かな。大人の男って感じで」
マーベル:「う〜ん、私は一文字少佐かな。何か可愛くって。サクは誰?」
えっ?団長、そこで私に振りますか。
私:「う〜ん、3人ともそれぞれ素敵ですよね」
「「「「え〜、何よそれ!」」」」
なんて当たり障りの無い事を言っておいた。何か、非難轟々ですが…
中山:「(ホッ)よかった」
木村:「…よし!」
それにしても、さっき一文字少佐が言っていた言葉は気になるところ。密かに囁かれていた土星奪還作戦がいよいよ近いって事なのだろうか?
でも、まぁ、ここで考えていたって答えなんて出る訳じゃないし。ここは一文字少佐が言ったように気持ちを切り替えて軍人らしく、船乗りらしく命の洗濯をこそ第一に、みんなとの上陸を楽しもう。
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それでは次話「再び土星へ」にご期待ください。
「わたしが両手をひろげても、お空はちっともとべないが、とべる小鳥はわたしのように、地面をはやくは走れない。
わたしがからだをゆすっても、きれいな音はでないけど、あの鳴るすずはわたしのようにたくさんのうたは知らないよ。
すずと、小鳥と、それからわたし、みんなちがって、みんないい。」
金子みすず『わたしと小鳥とすずと』より




