第128話 ジェリル・オコーナー大尉
突然現れた女性士官に喜色を浮かべるホーネットのパイロット達。
「あっ、姐さん!」
「姐さんじゃねえ!中隊長だっつってんだろ!」
女性士官は彼女を姐さんと呼んだパイロットの頭を軽く引っ叩くと、私達の方を見てニヤリと笑う。
「これはこれは、我が同期生期待の星、マーベル・ホワイトさんじゃないか。アタシの部下に何か用かい?」
うわぁ、何か凄く嫌な感じだ。マーベル団長は嫌な奴に会った時の苦虫を噛み潰した様な表情。
真樹に「誰なんですか?」と尋ねられると、
「彼女はジェリル・オコーナー。士官学校の同期生よ。やたら絡んでくるウザい女なの」
と、小声で教えてくれた。
「本当、久しぶりね、ジェリル。出来れば会いたくなかったけど」
マーベル団長には珍しく刺のある口調に、この2人の不仲さが浮き彫りになる。
マーベル団長にそう言われて途端に嘲り顔からムッとした表情になるジェリル・オコーナー大尉。
「それはこっちのセリフだよ!」
オコーナー大尉は怒りも露わに咆え、次いで自分の部下達に目を向けた。
「で、お前達、こいつと何を揉めてんだい?」
「姐さん、じゃない、中隊長。彼女達が俺達の事を安全地帯でぬくぬくしていた臆病者だと言ったんです」
「それに自分達はダブルエースで、俺達の事を実戦経験も無いだろうと!」
「「「はい?」」」
まぁ、奴等は嘘は言っていない。ただ、その前の遣り取り、つまり自分達から私達に粉かけてきて断られ、腹いせ紛れに一方的に私達を侮辱した事実を綺麗さっぱり省いただけで。私は人生で卑怯者って奴を初めて見た。しかも集団の。
「ヘェ〜、アタシの部下に随分な事を言ってくれるねぇ?」
オコーナー大尉は自分の部下達の訴えを鵜呑みにしてマーベル団長を睨む。
「あなたねぇ、少しは疑うって事を憶えたらどうなの?そもそもあなたの部下達が私の部下をナンパしてきて、断られて逆切れしたのよ?」
マーベル団長は凄むオコーナー大尉に冷静に対応しつつも、更にさり気なく煽る。
「一方的に、何でしたっけ?妾の子、でしたっけ?あとは裏切り者?はぐれ者?侮辱してきたのはあなたの部下達じゃない?全く呆れたもんね。部下が部下なら上官も上官って事かしら?」
ぐぬぬとなるオコーナー大尉。部下達は気まずそうにダンマリだ。
「間違っちゃいないだろう?あんた達は戦闘機を捨てた裏切り者とはぐれ者の群れじゃないか!同期生期待の星マーベル・ホワイト様も堕ちたものだね!」
「私達は自らの意志で、志願してFAーv3に乗り、最前線で戦っているの。さ・い・ぜ・ん・せ・ん・でね!安全な所で実戦経験もろくすっぽ無いひよこ相手にお山の大将気取ってる誰かさんとは違うわ」
オコーナー大尉は怒りも露わにマーベル団長を鋭く睨みつける。
「そのお山の大将とやらはアタシの事かい?少しばかり戦果を挙げているからっていい気になってるんじゃないのかい?」
「その、"少しばかり"すら挙げられない正規空母のパイロット様って、どうなのかしら?」
「じゃあ、その正規空母のパイロットにすらなれなかったアンタは一体どうなのさ?」
もう、場の空気はピリピリどころかビリビリの状態。
「私は早く前線で戦えるように最初から護衛艦隊勤務を志願してたから。私の部下達もそうよ。で、正規空母のパイロット様は今まで何をしていたの?」
マーベル団長とオコーナー大尉の丁々発止の舌戦に、まさかこんな事になるとは思いもしていなかっただろう。お互い顔を見合わせて狼狽えていた。ちょっといい気味だ。
と、不意に隣にいる真樹に肘で突かれる。
「ねえ、」
「何?」
「これってさ、もう最初の出来事関係無くなってない?」
「そだね」
もう、事態はマーベル団長とジェリル・オコーナー大尉、仲の悪い同期生の確執による単なる悪口の言い合いになっていた。冷静に上から目線で着々とオコーナー大尉を追い詰めていくマーベル団長と、カッとなりつつもマーベル団長を攻めあぐねイライラを隠せないオコーナー大尉。二人は正反対のタイプで、正に水と油。二人の舌戦を見ていると士官学校時代はさぞかしそりが合わず、何かと衝突していたであろう事が窺えた。
私達もホーネットのパイロット達もお互いの上官同士の諍いだけに止めるに止められない。
「う〜ん、これは戦史に例えるなら何だろう?盧溝橋事件かな?」
いやいやエリカさん。暢気にそんな事言ってる場合ですか?それじゃあ拡大する一方じゃない。
もう、これ、どう収拾すればいいと思う?
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それでは次話「本郷少佐」にご期待ください。
キュゥべえ「訊かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合も無いからね」
『魔法少女まどか☆マギカ』より




