第121話 ウーメリンちゃんの軌跡②
私達が住んでいた第2移民船をどのような名目で出航したのかわからないけど、パンテーン号の航海は順調だった。
食事はレパートリーが少なくて単調だけど、量が少ないって事もなかったし。
船員さん以外でも大人達は色々とやる事があって、みんな少し忙しそうにしていた。私も含めた未成年者は船内業務を多少手伝うくらいで、それ以外では特にやる事は無かった。
だから、日中はみんなで集まって勉強会をしていたのだけど、その中で私は三つ年上の女の子と知り合った。彼女の名前はフッカ・ブロッコロンさん。私より身長が高くて細身の大人っぽい美人さんだ。
私達は女子同士で、歳も近かったのですぐに打ち解けて仲良くなった。だけど、フッカちゃんは先々に不安を抱いていて、慣れない環境で食欲もあまり無いと言っていた。心なしかやつれているっぽい。私は普段通りモリモリ食べているけど。
しかしながら、順調だった航海は唐突に終わりを告げる事となった。パンテーン号の脱出が軍事政権にバレて追手が差し向けられたのだ。
船長から船内放送でそれは知らされた。パンテーン号は追撃からの回避行動に移り、私達船員さん以外の乗船者は宇宙服を着用し、船倉で待機する事となった。
船内の照明は落とされ、移動も制限され、船が揺れる度に悲鳴が上がった。時間の感覚も麻痺し、どのくらい時間が過ぎたのか分からなくなった。これがいつまで続くのかなんてわからない。そんな中で私も両親も何とか大丈夫だったけど、恐怖に耐えるフッカちゃんは辛そうだった。
そして、遂にパンテーン号は被弾し、一際大きな振動が船体を襲った。船倉内では悲鳴があがり、非常事態を告げるブザーが鳴り響く。照明も非常灯に切り替わった。
船倉内は恐怖と絶望的な空気に支配されていた。もうこのままパンテーン号は撃沈されて、私達は死んでしまうのだろうかと。母は私を抱きしめてくれるけど、母も恐いのだろう、私を抱く手に力が入っていてとても痛くて、苦しかった。でも、その痛みで私は正気を保てていたようにも思う。
でも、パンテーン号が再び被弾する事は無かった。それから暫くして船長から船内放送で追撃していた軍の追手がテムロイ軍によって全滅した事、パンテーン号がテムロイ軍に包囲されている事、そして船長の権限でテムロイ軍に投降する事が告げられた。
パンテーン号の投降によって私達はテムロイ人という異星人に囚われる事になった訳だけど、私は取り敢えず今ここで死ぬ事は無くなったのだと、正直ホッとした。勿論、安全なのかと言えば、それはわからないけど。私達アムロイと彼等テムロイは戦争中であり、私達アムロイは彼等からすれば紛れもない侵略者なのだ。
私達だって好き好んで侵略した訳じゃない。母星を失って、そうしなくちゃならない理由があったんだ。
だけど、どんな理由があったって私達は侵略者。果たして降伏したからってテムロイ人は許してくれるのか?
そうして目前に迫った生命の危機が去ってホッとしたのも束の間、船倉の私達は自分達が侵略戦争を仕掛けた異星人に囚われる未来に不安を抱く事となった。そして、私達の不安を更に煽るように、テムロイ軍の要求によりパンテーン号の乗船者の一部がテムロイ軍の軍艦に移乗させられる事となったのだ。
誰もがテムロイ軍の軍艦へ移乗を嫌がった。しかし、テムロイ軍からの要求は拒めず、300名の乗客の内、50名ずつの100名が2隻のテムロイの軍艦に移乗しなくてはならなくなった。
「ねえ、あなた、どうするの?」
母が不安そうに父に尋ねた。
「うん」
父もどうするのと問われても、そう簡単に答えは出せないと思う。母にはそういうところがあって、私は時々イラッとする。
誰かが行かなくてはならないけど、出来れば誰も行きたくない。
そんな状況の中、父もこの脱出を立案した行政局員の一人だ。その立場故の責任感と、家族を守りたいという一家の長としての責任感との間で葛藤しているのがわかる。
(しょうがない、ここは私が一肌脱ぎますか)
「ねえ、お父さん。私、テムロイ人の軍艦ってちょっと見てみたいな」
「ちょっと、ウーメリン。あなた何て事言い出すの!」
私が急にそんな事を口にしたものだから、母は焦って私を問いただそうとして声を荒げたけど、父は私の考えを汲んで母を抑え、その理由を尋ねた。
「どうしてそう思うんだい?」
「うん。何だかんだ言ってテムロイ軍は私達を助けてくれた訳だし、助けた相手に酷い事はしないと思う。それに、こういう場合はかえって内懐に飛び込んだ方が大事にしてくれるんじゃないかな?」
それに、単純にテムロイ人に興味があるんだよね。
「なるほど、一理あるな。だったら行ってみるか?」
「うん」
「ええっ!」
母は驚いていたけど、そうした訳で私達家族のテムロイ軍艦への移乗が決まった。
その後、行政局員一家である私達家族が移乗するとなったため、他の行政局員家族も私達家族に続くと、間も無く100名の移乗枠が埋まった。
全く、大人って恐がりよね?
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それでは次話「ウーメリンちゃんの軌跡③」をお楽しみに。
「顔も知らない相手に命を助けられるかと思えば、親兄弟のお陰で死ぬ事だってある。気にしちゃいないよ」 『征途』3巻より




