第120話 ウーメリンちゃんの軌跡①
広く薄暗い船倉、パーテーションで区切られ、多段式のベッドが沢山設置してある。
「はぁ、これで一安心かしら」
母は私達家族に割り当てられたベッドに腰をかけると、緊張から解かれてどこか放心したような表情でそう呟いた。
「まだ楽観は出来ないけどね。だけど、やれるだけの事はやったんだ。後はこの船の船長に任せて俺達は少し休もう」
父は母と私を安心させようと、そして自分自身を納得させるようにそう言うと、母の横に座り母の肩を抱いて摩った。
「…」
「…」
見つめ合って2人の世界に入ってしまった両親。私はそんな2人にはもう慣れっこなので、床に荷物を置き梯子を登って上段のベッドに上がって、行儀悪いけどそのまま横になった。
手足を伸ばして緊張を解くと、指先から疲れが放電されていくよう。
(大変だったなぁ)
私はこの2〜3日に自分の身に起きた命懸け、という程ではないしろ、それなりに緊迫した出来事を思い出していた。
私の名前はウーメリン・コバット。アムロイのアメディオ支族の女の子だ。年齢は13歳になる。
私は両親に連れられ、生まれ育ち、そして住み慣れた移民船内の我家を後にし、今、中型の高速貨客船パンテーン号に乗船している。
私達家族が属するアメディオ支族は、アムロイの中でも最大の支族であり、中心的勢力となっている。だけど、それは決して自分達がアムロイの中で一番偉いとかいう事ではなくて、アメディオ支族が最大勢力だからアムロイ評議会や軍隊などでの発言力がある、という事なんだと思ってる。
だけど、故郷の母星を失った私達の移民船団が遂にこの移民可能な惑星がある豊かな太陽系を発見し、そして原住する異星人(私達はテムロイと呼ぶようになった)に対して侵略戦争を仕掛けた。
しかし、私達の指導者はテムロイを甘く見ていたのか、当初は簡単にすぐ終わると考えいた侵略戦争はテムロイの強固な防衛態勢に阻まれ失敗してしまったようだった。
指導部は第4惑星を占拠した事で失敗とは認めていないけど、テムロイの母星攻略が失敗したという噂が出始めると、やや重苦しい空気が移民船内に漂うようになった。
そして、アメディオ支族の軍隊がクーデターを起こしてアムロイの全権を掌握すると、移民船内の市民生活もその統制下に置かれてしまった。
食糧や生活物資は元々配給制だったけど、軍需品優先となって目に見えて配給量が減った。不足する物資に娯楽もままならない生活。軍事政権を批判しようものなら忽ち逮捕される恐怖の日々。
そんな生活も母星を失い宇宙を彷徨っていた私達アムロイ人が、この太陽の光溢れる太陽系、それも水と緑が豊かな第3惑星をテムロイから奪い、いつ終わるとも知れない宇宙の彷徨を終える事が出来るのならば、一時の事と人は我慢出来るのかもしれない。
だけど、その豊かな太陽系を奪う侵略戦争の緒戦に敗れて多くの戦力が失われた。しかも、移民船団はガス状の第6惑星から動かないまま。
このような先の見えない状況に、忍耐を強いられる生活に市民の不満は高まるばかりだった。
アメディオ支族移民船団第2移民船の行政局員だった父達のグループは、密かに自分達が運用する中型の高速貨客船パンテーン号で移民船団からの脱出を計画し、今のところどうにか上手くいって現在に至っている。
(ここまでは上手く行っているけど、私達これからどうなるんだろう?)
私達の脱出先はヤグモ支族が占拠する第4惑星であると、先程船長から船内放送で知らされた。だけど、味方と敵の哨戒を掻い潜り、果たしてそんな遠くまで行けるのだろうか?例え行けたとして、ヤグモ支族は私達を受け入れてくれるのか?私達を受け入れた事でアメディオ支族とヤグモ支族の関係が悪化してしまうのではないか?などなど、本当に不安は尽きない。
(まぁ、ここで不安がっても私に出来る事なんて何も無いしなぁ)
私は考える事をやめて、低いベッドの天井を見ながら襲ってきた眠気に身を任せ、そのまま意識を手放した。
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それでは次話「ウーメリンちゃんの軌跡②」をお楽しみに。
「その時は… また一緒に星を見てくれるか?」
ヴァイオレットエバーガーデン 第6話より




