第116話 敵討ちと報復③
「ご存知かどうか、私の父は駆逐艦の艦長としてスペースコロニーを守って戦死しました。アムロイの戦艦に体当たりしたんです」
マーベル団長は深く頷いた。知っている、という意味だろう。
「父が戦死した時は私はまだ高校生でした。父が軍人である以上、戦争が始まったのだから戦って死んでしまう事もある。そう理解したいても突然の理不尽な父の死に納得出来る訳ありませんでした。私にはただ父の死を悲しむ事しか出来なくて。また、それ以上どうする事も出来ない自分自身が悔しくて。だから父の敵を討とうと妹と一緒に軍人になったんです」
私は自分が興奮してしまっている事を自覚したため、一旦言葉を切り、深呼吸をして心を落ち着けた。
「パイロットになって必死で戦いました。いつの間にかダブルエースどころかトリプルエースなんて呼ばれて。でも、今までは自分達を攻撃してくる敵と戦ってきました。そこには輸送船を守って戦う意志があるだけで、特別な感情はありません。だけど、あの船が投降して来て、敵を、アムロイを初めて憎いと思ったのです」
マーベル団長がじっと黙って聞いてくれているからだろうか、あの時の気持ちを口に出さずにはいられなかった。何となく、あれをあのまま心の中に留めておいてはいけないと思った。
「あいつらは地球圏でコロニーを攻撃して平気で何十万人もの民間人を虐殺しようとしたんです。あいつらがそんな事をしなかったら、お父さん戦死なんてする事なんて無かったかもしれないのに。それなのにあいつらは、あいつらに一体どんな事情があるのか知りませんけど、自分達の都合で投降するとか、助けてくれだとか、どれだけ自分勝手なのか、厚かましい。そんな連中のせいで父が、父が死んでしまったなんて。そう思ったら、もうあいつらが許せなくて、皆殺しにしてやろうと思ったのです」
私が一気に捲し立てるように話し終えると、マーベル団長は暫く何も言わず、沈黙が続いた。
「でもあなたは撃たなかった。なぜ?」
「きっかけは立花少尉の機体が視界に入って、それで我に帰ったんです」
エンブレムの事は恥ずかしいので口には出さず、心の中に潜めておく。
「アムロイとの戦闘で父を失った私には当然、父の敵討ちをする権利があると思います。でも父は戦って死んだのですから、その対象は飽くまで戦闘員であって。だからアムロイが民間人を虐殺しようとしたからといって自分がアムロイの民間人を虐殺するというのは、それは最早敵討ちじゃなくて報復であり復讐です。なんか、父の死を汚すというか、その事に気付いたのでトリガーから指を外しました」
「アムロイを憎くはないの?」
「自分の中の憎しみに気付いてしまった以上、憎くはあります。ですが、憎しみで我を忘れるような事は無いと思います」
ほぼ無表情で私の話を聞いていたマーベル団長は、ふぅとやや大袈裟なため息を吐くや、座っているシートの背もたれにもたれかかった。
「それが聞けて良かったわ。こんな事で我が中隊の看板エースを失いたくないしね」
「どのような処分でも受けます」
「処分?無いわよ、そんなもの。何か処分を受けるような事をしたの?」
マーベル団長は何を言ってるの、この娘は?という感じで不思議そうに言った。
え?その件で呼び出されたんじゃないの?
私の怪訝そうな表情を見てマーベル団長は今回の呼び出しについて説明する。
「ここは戦場よ?いくら敵が投降して来たからといってそれを全面的に信用して受け入れる事は出来ないわ。だからサクがアムロイ船を警戒してロックオンしていたとしても、そこまでなら警戒、自衛の範疇と判断するわ。仮に、実際に撃ってしまったとしても、そんな事は戦場ではよくある事だし、こんな友軍もいない敵の勢力圏内じゃ単なる戦闘の一つとして記録されるだけの事よ」
う〜ん、私の行動はここでは何も問題にならない。マーベル団長の説明はわかったけど…
「私がサクを呼び出したのは、今回あなたの戦闘記録を見て、あなたの心の内を知りたかったから」
「心の内、ですか?」
「そう。私はサクの上官だから考課票見てあなたが士官学校に志願した動機も、書かれてはいないけど、十分想像がついたわ。だけど今回は難民船という初めての特異なケースでしょ?そこで数秒とはいえあなたはそれが難民船と知りながらロックオンして撃沈する意思を見せた。さっき言ったように小隊長の行動としてはさほど問題にはならないけど、人としてはどうかしら?」
「…最低ですね」
「まぁ、そうまでは言わないけどね。あなたは軍人で小隊長という立場にあるけど、その前に一人の人間よ?だから私は今のあなたには心のケアが必要と判断して、こうして面談を実施したって訳。これからの任務遂行に問題は無いようね」
考課票の内容と一回の出撃記録からそこまで読み取るなんて、マーベル団長、恐ろしい娘! でも、
「心配して下さって有難う御座います」
「どういたしまして。部下の心のケアも上官の役目よ?」
マーベル団長はそう言って、私が再び"敵討ち"を出来るようにウィンクして送り出してくれた。
あの出撃中の出来事は、自分の中では一応の答えを出していたつもりだった。だけど、帰艦して実際に声にして人 (マーベル団長)に話してわかったのは、私が単に敵に対する憎悪を心の奥底に閉じ込めて蓋をしていたという事だった。
だが今回の出来事がその蓋を開け、心の奥底の気持ちが吐き出された。それによって私は自分の気持ち見つめ直し、自分が何をしたいのかを再認識する事が出来たと思っている。
それは、憎いものは憎い。いくら否定しようが、閉じ込めようが憎しみは私の中にある。
でもやっぱり私は父の敵討ちをする。そのために戦い、そして最後まで戦い抜く。それが私の敵討ちであり、父を殺された報復なんてしない。
野村 「はぁ、まさに間一髪だったな。あそこでお前さんの注意を逸さなかったら、お前さんはあのままあの船を沈めていただろうからな」
咲耶「 あの信号灯の点滅は大尉の仕業だったんですか?」
野村「あぁ、お前さんの心の闇が俺が思っていたよりも深かった。お前さんは父上の戦死を自分の憎しみで汚すまいと、敵を憎く無いと思うようにして憎しみに蓋をして閉じ込めていたんだな」
咲耶「それがあの時一気に解き放たれてしまった訳ですね。済みません。ご心配をおかけしました」
野村「まぁ、いいって事よ。これでちったぁ吹っ切れたかい?」
咲耶「えぇ、お陰様で」
野村「ならいいさ」
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それでは次話「突撃!隣の異星人①」をお楽しみに!
なぎさ) 私の靴下はちょっとクサイ……なんちゃって。




