第115話 敵討ちと報復②
アムロイ船の投降が艦隊司令部に認められた時の、私がそれに対して抱いた違和感、不快感をどう説明すればいいだろうか?
それは何とも形容し難い、今までに抱いた事のない感情。色で言えば"どす黒い"という表現が近い。心の奥底からボコボコと粘り気のある泡を沸きたたらせる嫌らく汚い液体、それと共に辺りに漂う瘴気、そのような感情。
私の心は忽ちそんな感情に染まっていった。
投降?どうしてそんな事をするの?私のお父さんは無法で理不尽な侵略を仕掛けて来たお前達と戦って死んだんだよ?お前達は何十万人もの人々が暮らしているだけのスペースコロニーを何ら躊躇する事もなく破壊しようとした。お父さんはそんな理不尽な侵略と暴力からスペースコロニーを守って戦死したんだよ!
お前達さえ来なければお父さんは死ぬ事なんてなかったのに。
なのに、お前達は自分達に都合が悪くなったら投降するの?
侵略者のくせにそんな勝手な事が許されるの?
ブラックチューリップ小隊は投降が認められたアムロイ船を護衛し、本隊までエスコートするため、アムロイ船に随伴している。
だけど、ここは敵の勢力圏内であり、この投降自体が敵の罠である可能性だって考えられる。
真樹とエリカの第2分隊はエスコートのためアムロイ船に先行し、私とパティはアムロイ船の殿を守るため後方に位置していた。今なら、この状況なら。
私は操縦桿を握る両手に力を込め、アムロイ船の船尾を見つめる。憎い、憎い父の敵。今にして理解する、この感情は憎しみ。あの船にどんな連中は乗っているのか知らないけど、生き延びようなんて認めない。投降なんて許してなるものか!
私はAIのビクトルに命じるまでもなくマニュアル操作でアムロイ船を照準に合わせ、レーダー捕捉する。
(せめて一瞬で死なせてあげる。それが私からのせめてもの情よ)
操縦桿のトリガーに指をかける。この指に力を入れれば対艦ミサイルが発射される。だけどその時、先行して飛行する機体、その点滅する信号灯が私の視野に入った。それによってアムロイ船に集中していた私の意識は一瞬削がれる事となった。
それはアムロイ船が本隊の誘導に乗ったため船の後方に下がって来た第2分隊のブラックチューリップ4、エリカの機体が放っていた信号灯の光だった。
やがて更に接近するブラックチューリップ4。そして私の目に入るエンブレム。交差する日本刀とレイピア、その上に4つの星が輝く黒いチューリップの花。みんなで考えた私達4人のエンブレムだ。
私はそのエンブレムを見て、エリカから聞いた黒いチューリップの話を思い出した。それは時の嵐の中で弱き者のために戦った一人の英雄の話だ。
私は、その黒いチューリップたらんと、その名を隊名とし、その花をエンブレムとした、筈だった。
じゃあ、今、私が憎しみに駆られていたとはいえ、あの船にしようとしていた事はなんなのか。迫害から逃れて来た人々を己の感情のために皆殺しにする?それは何なの?そんなのは敵討ちじゃない。やられたからやり返す、そんなの単なる報復だ。
私は自ら行おうとしていた行為に恐怖し、すぐにレーダー捕捉を解除した。
それが今から6時間前の出来事だった。
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それでは次話「敵討ちと報復③をお楽しみに!
ホワイト「力を合わせるから、人間って強いんじゃない?」




