第105話 ブラックチューリップ小隊爆誕
XFA-v3の機体整備はすぐに終わった。実際に木星圏で自分が乗っていた機体だし、この子とは心が通じているから、自分の事のようにわかる。それに木星圏でテストパイロットをしていた際には、技研の試験艦ペガッスでXFA-v3の開発スタッフや整備員から教えてもらって整備は自分でもやっていた。だから私にとってXFA-v3の機体整備は手慣れたものだ。
という訳で、手の空いた私と整備小隊の秋月少尉は、自隊の小隊員の整備に手を貸した。すると、新型機であるFA-v3の整備に苦戦していた他隊のパイロット達が、私がFA-v3に精通している事を知ってアドバイスを求めて来たのだ。
最初は口頭で説明したり、指示を出したりしていたのだけど、自分で操作しながら説明した方が早い。また、一機一機についてそれをやっていたら私の労力がとんでもない事になってしまうため、団長の許可を貰って全員に集まって貰い、実際に自分が点検整備作業をやりながら説明した。
その後はそれでも個別に不明な点の説明なで求められたりしたので、全機の整備が終わった頃にはヘトヘトになり、私と秋月少尉はぐったりしながらも互いに健闘を讃え合ったのだった。団のみんなからこの貸しをどうやって取り立てるかを相談しながらだけど。
その日の夕食ではマーベル団長に同席を求められて一緒に食べたのだけど、団長から機体整備について大変感謝された。
整備小隊はFA-v3の機体整備については事前に講習を受けていたけど、パイロットとなるとまた別で、これから徐々に憶えていかなければならない。その点、私がいる第3独立戦闘航空団は今日の事でもわかるように、今日で全てのパイロットがFA-v3の機体点検整備(飽くまでパイロットが出来る範囲)が出来るようになったのだ。これは他団に対して自団のアドバンテージとなったと言える訳である。
「本当、サクヤがいて助かったわ。私も第1や第2の団長に対して鼻高々よ」
そう言ってフフフッと笑うマーベル団長。確かに白人の美人であるマーベル団長の鼻は高い。
「でも、あなた一人に負担をかけるつもりは無いから。もし、他のパイロットがやたら頼ってくるようなら遠慮なく私に言いなさいね?」
「はい、お気遣い有難うございます」
そのように礼を述べる私に、マーベル団長は「まだまだ固いわね」と笑った。
私は直属の上官であるマーベル団長と良好な関係を築けた事が嬉しかった。一般的に良好な上司と部下の関係という物が、どちらかというと組織の中では少数派である事。それは自分でも理解しているけど、レッドライオン小隊での隊長と部下達との関係が本当に良かっただけに、新部隊への異動に関して一抹の不安があったのだ。
夕食後、私、パティ、エリカ、真樹の四人はカフェラウンジに席を移した。
「は〜い、第1回小隊会議を始めま〜す」
わ〜、パチパチパチ
パティの開会宣言に皆が拍手。
「では、初めに我らが小隊長朝倉咲耶中尉からお言葉を賜りたいと思います。朝倉中尉、お願いします」
パティの改まった物言いにおかし味を感じつつ、私も手短に応じた。
「こうしてみんなと同じ隊になれて、こんなに嬉しい事はありません。みんな同い年の女の子だから遠慮しないで忌憚無く言いたい事言って、何でも話していきましょう」
「では、小隊長殿の有難いお言葉に甘えまして、何か提案とか有る人、挙手!」
「はいはい、パティ議長!有ります!」
「はい、は一回でお願いします。エリカさん、どうぞ」
「では、私達の小隊名はどんなのにする?」
小隊名といえば、私達の小隊名は正式には第3独立戦闘航空団第2小隊というのだけど、エリカが言うそれは第309護衛艦隊でのレッドライオン小隊のようなコードネームの事だ。
エリカの提案を受けてみんなが色々隊名の案を出してくれたのだけど、例えばこんな感じ。
・サクヤドラゴン小隊(真樹:まあ、確かにウチらみんな辰年だけど)
・サクヤハングリーウルフ小隊(エリカ:バカ?)
・サクヤプルメリア小隊(パティ:ハワイっぽく?いいけど…)
「あのさぁ、サクヤから離れようよ。私一人の小隊じゃないんだし。それに、何というか、センスがちょっと、ねえ?」
私としては"レッドライオン小隊"のようなパティのセンスに期待していたのだけど、今回は申し訳ないけど、今一つみたい。私がそれを口にすると、パティ曰く、
「エルザ隊長には"イギリス"と"赤髪"っていう特徴があったけど、サクにはそういうの無いよね」
という事らしい。
「そんな事言うならサクは何か無いの?」
私のぼやきに真樹が噛み付き、そうだそうだとエリカとパティが囃し立てた。
無いのか?と問われれば、実は有る。それも士官学校の頃から温めていた物が。
「「「ブラックチューリップ小隊?」」」
そう、それが私が考えていた、私達の小隊の名前。
「それって、何か謂れがあるの?」
「えっ?エリカから聞いたあの話からだよ?」
「?」
何か深く考え込むエリカ。小首を傾げる仕草が無駄に可愛いのだけど。
あの話というのは、士官学校の頃によく同じ班の中でそれぞれの故郷に関する自慢話や面白話をしていたのだけど、中でもエリカの「まんがフランス昔ばなし」(何故"まんが"なのかは謎)と称する話が一番面白かったのだ。
その中で私が最も好きなの話が「黒いチューリップ」という話だった。その内容はというと、エリカのお母さんはフランス人で、その実家はパリのシテ島で老舗の花屋を営んでいる。それはその家に伝わる話だそう。
時は18世紀、フランス革命前夜で世の中が騒然としていた頃。パリ市内だけでなく、フランス各地で革命の名の下に乱暴狼藉をはたらく革命家から力無き庶民を守るため、一人剣を取り敢然と立ち上がった騎士がいた。その騎士は黒い衣裳に身を包み、馬上颯爽と現れ、巧みな剣捌きで悪事を働く革命家や暴徒を倒し、その名を請われれば自らを"黒いチューリップ"と名乗ったという。
騎士"黒いチューリップ"はやがて革命という時の嵐の中で舞い散る花の涙のように忘れ去られ、歴史の奥深くに埋れてしまった。だけど、真偽はともかく、その話にハマった私は「これだ!」と、自分がもしパイロットになって、そして小隊長となる事があれば"黒いチューリップ"の名を受け継ごうと思ったのだった。
「えっ、あの話なの?」
「そう、あの話だよ」
「あー、あの話か」
私があの話を語ると、真樹は納得したようだけど、エリカは何故か困惑の表情を浮かべていた。
「ダメかな?エリカは反対?」
「い、いえ、そんな事無いよ?」
何故か疑問形。あらぬ方向を見て、目が泳いでいる。何か隠しているような。
「なんか微妙そうなんだけど?」
「そんな事無いって。表現の方法は人それぞれだよ?」
う〜ん、何か引っかかるけど。まぁ、いいか。
「で、どうかな?」
私はみんなを見渡し、その反応を窺った。
真樹「私はサクがいいならそれでいいよ。私もエリカのあの話、好きだしね」
パティ「私も異議なし。フランス革命に隠れた正義の黒いチューリップなんてロマンがあるよ」
私「でしょでしょ?」
エリカ「私もみんながそれでいいなら、問題無しって事で」
みんなが賛成してくれたので、私達の小隊のコードネームは"ブラックチューリップ小隊"に決まり、合わせて小隊のエンブレムも考案された。
それは黒いチューリップの下に日本刀とサーベルがクロスし、チューリップには四つの星があしらわれているという物。取り敢えず、その場でそれっぽい図をノートに手書きで描いたけど、白黒モノトーンで、なんかいい感じだ。
こうして、明日以降、私達四人はブラックチューリップ小隊の名の元に、このエンブレムを戴き、共に戦う事になった。
「それじゃあ、ブラックチューリップ小隊の誕生を祝して、乾杯!」
「「「かんぱ〜い!」」」
パティが音頭を取り、私達はカフェラウンジのドリンクバーから持って来たジュースやらお茶やらで乾杯した。みんなとっくに成人を迎えているけど、明日からの訓練を控え、慣れない飲酒で体調崩してりしたら洒落にならない。ここは控えるってのがプロってものだからね。
こうして名実共に私達の小隊"ブラックチューリップ小隊"が誕生した。さぁ、明日から小隊長として黒いチューリップの名に恥じないように頑張るぞ!
エリカ「言えない。今更あの話が子供の頃に見た大昔の日本のアニメがネタ元だったなんて。でも、まあ、サクが満足しているようだから、まっ、いいか」
いつも『朝倉家の戦争』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
次回「訓練開始」をお楽しみに。
救国軍事会議、万歳!バキューン




