第103話 山中少尉は今…
「ローリングティル3からスノーラビット1、哨戒任務終了、着艦許可願います。送れ」
「こちらスノーラビット1、ローリングティル3の着艦を許可します。第2航空甲板を使用して下さい。お疲れ様でした、以上」
「…了解」
あぁ、スノーラビット1が「お疲れ様でした」とか最後に一言添えたりしたから着艦後はまたみんなからイジられるな。
そりゃあ僕だって鈍感系主人公(誰だって自分の人生の主人公だ)じゃないんだから空母飛影航空管制官スノーラビット1こと雪谷美幸少尉が僕に気がある事くらいわかっているさ。でも、こうあからさまなモーションはやめて欲しいんだ。だって、今は勤務中でもあるし、それに何よりも僕には心に決めた女がいるのだから。はぁ〜、朝倉咲耶さん、今どうしているかな…
と、朝倉さんの姿を想像していると、機体に軽い振動が走り、乗機は空母飛影の第2航空甲板に無事着艦した(着艦許可が下りるとガイドビーコンを受信して着艦は自動操縦となる)。
僕が戦闘機パイロットとして乗組む空母飛影は、トロヤ群駐留艦隊に所属している。僕が月の第18練習航空大隊での訓練を終え、この空母飛影乗組みとなって既に半年が経過している。この半年間といえば、トロヤ群周辺宙域の哨戒任務が専らで、実戦経験は数回のみ。トロヤ群の警戒宙域に入って来た友軍の輸送船団を護衛して、船団を襲撃して追撃して来たアムロイ艦隊と数回交戦したくらいだった。その際には敵艦載機を1機を撃墜し、小隊で敵駆逐艦を1隻撃沈している。
でも、そうした際に孤軍奮闘して激戦を経て来た護衛艦隊の姿を見ると、トロヤ群駐留艦隊という大戦力の中で比較的安全な任務に就いている自分に内心忸怩たる思いを抱かざるを得ない。しかも朝倉さんはそうした護衛艦隊で戦っているのだ。僕に彼女の無事を祈らない日は無い。
そんな僕にも一つの転機が訪れた。試験中だった幾つかの試作戦闘攻撃機の中からXFA-v3という試作機が正式採用となり、その新型機で編成される新部隊がパイロットを募集するという通知が出たのだ。
なんでも、何故かXFA-v3が単機で木星の周辺宙域で実戦投入されて大戦果を挙げた事が要因らしかった。
この通知を見て僕は「これだ!」と思った。このまま今の部隊にいて、トロヤ群という地球連邦にとって重要な資源工業地帯を守る事も大切な任務である事は勿論理解している。だけど、それで僕自身は良いのだろうか?朝倉さんは戦死されたお父さんの敵討ちのため自ら志願して護衛任務の激戦の中にいるというのに、だ。このままで僕は胸を張って彼女に再び会う事は出来ない。
僕はその足で小隊長の元を訪れ、新部隊のパイロット募集に応募したいと願い出た。小隊長はあまりいい顔はしなかった。これは僕も理解出来る。半年かけて育てた新人パイロットが漸く使い物になろうかというところで他の部隊に掻っ攫われてしまうのだから。しかも、僕が抜けたその穴を埋めるのは新人パイロットである。
しかし、ここで怯む訳にはいかない。僕は小隊長に謝りつつ、感謝しつつも志望動機を述べ、強く志願してどうにか同意を得る事が出来た。二十代後半の無口で厳つい九州男児の小隊長は大隊長にも話を通してくれ、無事に応募する事が出来た。もっとも、上官とはいえ、部下の異動希望を無碍にする事は出来ないのであるが。
新部隊への応募手続きは滞り無く済み、幸いな事に僕は選抜され、晴れて第3独立戦闘航空団への異動を叶える事が出来た。
だけど、その事は空母飛影の中でも少々話題となり、僕は艦橋の女性士官グレープから呼び出しを受けてしまったのだ。彼女達はスノーラビット1こと雪谷美幸少尉について僕に話があるというのだ。
おつぼn、いや、先輩女性士官グレープは泣いている雪枝少尉を指差して、
「この娘の気持ちわかっててそういう事するわけ?」
と、僕を責める訳だけど、別に僕と雪枝少尉は付き合っている訳でも何でも無い。彼女から一方的に好意を寄せられているだけで、今までだって挨拶や日常的な会話しかした事が無かった。なのに、何故こんな事になるのか。
僕は女性士官グレープにそうした旨の説明をしたが、まるで聞き入れて貰えず、当事者である雪谷少尉はただメソメソと泣くばかりで全く話が進まなかった。困り果てたところに救いの手を差し伸べてくれたのは同じ小隊のブライアン・バーンズ少尉だった。
ブライアンは絶妙なタイミングの艦内拡声で僕を呼び出してくれたのだ。やはり持つべきものは信頼出来る戦友である。去り際に雪谷少尉の横を通る際に舌打ちが聞こえたのはきっと気のせいだろう。
そうした訳で、僕は自分が全く関与もしていないにも関わらず、雪谷少尉を振って逃げ出す最低野郎という事にされてしまった。立つ鳥跡を濁さずとはならなくなってしまったけど、全てを捨てて新部隊で頑張るつもりだ。
新部隊は月での訓練後は何処かの航空艦隊に配属されるという。なので、僕が再び木星圏へと至る頃は新型機FA-v3のパイロットとなっているだろう。僕はこのFA-v3で戦い、必ず戦果を挙げてみせる。そして、そして、朝倉咲耶さんと肩を並べられる男になってみせるのだ。
いつも『朝倉家の戦争』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しければお願いします。
それでは次話「第3独立戦闘航空団」にご期待ください。
読まんとわしの山嵐をお見舞いするぞ!




