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ウラカンレオン号の航海記録  作者: 阿蘭素実史
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6. ロンドンの密談

 アレックスがアイリスを伴って船長室から出ると、辺りには潮風の香りと硝煙のにおいが漂い、大砲の轟音は海賊たちの歓声に代わっていた。

〈ウラカンレオン号〉はすべての帆をたたみ、敵船に横付けして停船している。一方の敵船は二本のマストのうち、フォアマストが根元から折られ、船体のあちこちには砲撃の後があった。それは、さも獅子の爪で獲物の体を引き裂かれたかのようだ。

 海賊の戦いは、戦争での海戦とは違う。敵船を砲撃などの攻撃を加えて航行不能した後、何本もの鉤縄を敵船の船縁めがけて放り投げ、綱引きの要領で敵船の船体ごと強引に引き寄せてから、船員たちが雪崩のように乗り込み制圧する。そして敵船の積載する資材を奪うのだ。

 アレックスとアイリスが〈ウラカンレオン号〉の船縁に駆け寄ると、敵船の甲板上にエリオットたち数名の海賊の姿が見えた。そして、彼らの足元には、真っ赤な軍服を来たイギリス兵たちが捕えられて跪いていた。

「アレックス!」

 アレックスを呼ぶレベッカの声が、船首の方から聞こえてくる。船に残っている船員たちをかき分けて駆け寄ってくるレベッカの姿を見止めるや否や、アレックスとアイリスはどちらからともなく、すばやく手を離した。

 手を繋いでいるところなど見られれば、きっとレベッカのことだ、再び火山が噴火することだろう。しかし、彼女は多少興奮気味に自分の手柄を自慢するのに夢中で、そのことには全く気付いてはいなかった。

「あたしが助言したのよ! ここらは昔から、カリブの船乗りの間で『難所』と呼ばれてる海域で、浅瀬になっている箇所がいくつもあるの。そこにブリッグを誘い込めば、きっと自滅するって」

 確かに、当初は敵船の予想外な練度の高さに苦戦を強いられたが、レベッカの助言通りに敵船誘い込んだ〈ウラカンレオン号〉は見事に逆転勝利した。流石は、航海士と言ったところだろうか。地理に詳しいばかりでなく、各所の海面下の様子まで熟知している。

「きっと、あのクソ親父とカタブツのローランドは、今頃このレベッカ様に感謝しているわ」

 と息巻くレベッカの得意げな顔を横目に、アレックスは視線を敵船の方に向けた。

 敵船の船上では、エリオットを含む数人の屈強な海賊が、甲板で捕えたイギリス兵たちを監視する間に、残りの海賊たちがローランドの指揮で船内から次々と戦利品を運び出していた。砲弾、木材、食料品、衣料品、金目になりそうなものなどだ。

 そんな光景を、エリオットの足元に跪く将校らしき男が、苦虫を噛み潰したような顔で睨み付けた。そして彼は〈ウラカンレオン号〉まで響き渡るような声で叫んだ。

「くっ! 海賊め! 命が惜しければ、不埒なる行いを直ちにやめるのだな!」

「黙れ!」

 ブラックストーン海賊団の船員が将校の顔をマスケット銃のストックで引っぱたいた。

「負け犬の遠吠えなんて、みっともねえな。この、ロブスター野郎!」

 挑発するかのような口ぶりに、将校は顔を真っ赤にする。イギリス軍の軍人にとって誇りと共に身に纏っている真紅の軍服を、「エビ」だの「ロブスター」だのと揶揄されることは、最大の侮辱であった。

「ええい、汚い手で私に触るな海賊!! すぐに我らがジョージ王の信任を得たウッズ・ロジャーズ総督率いる艦隊がナッソーを鎮圧し、この海から貴様たち下郎を一掃して下さる!! その時になって吠え面をかくのは、貴様たちだ!」

「黙れって言ってんだろうが!!」

 売り言葉に買い言葉。再び船員は将校の顔を叩こうと、マスケット銃を振り上げた。その手を止めたのは、エリオットだった。

「よさないか。武器を持たぬ相手に手を上げるのは、イギリス紳士らしくない」

 と、エリオットが厳しい口調で窘めると、船員は罰が悪そうに舌打ちして、怒りの矛先を収めた。しかし、将校は頭に血が上ったままで、

「ドブネズミよりも汚らしく、カラスよりも卑怯でずる賢い海賊風情が『紳士』を語るとは、片腹痛いわ! ジョージ王のご聖断の前に、涙を流して命乞いしても、貴様たちのたどり着く場所は絞首台の上だ。もしも死にたくなければ、我々を大人しく解放することだな。さすれば、裁判の折に少しくらい口利きしてやっても良いぞ!」

 と、エリオットたちを口汚く罵った。

 エリオットは冷静な顔をしていた。罵りなど児戯にも等しい、とでも言いたげだ。

「残念だが、俺達はそれほど落ちぶれちゃいない。それにな、俺たちの王はジョージなんて名前じゃない。俺達の首に縄を縛れるのは、王でも総督でもなく、この海の神さまだけだ」

 腰に帯びたカトラスを静かに引き抜くエリオット。その冷たい切っ先を、将校の首筋にあてがった。

「俺はギャンブル好きでな、だからここはひとつ賭けをしようじゃないか、将校殿。お前さんが忠誠を誓う大英帝国の王と、俺が信じる海の神さま、どちらがお前たちの命を助けてくれるか……」

 重低音を響かせたエリオットの声は、獅子が静かな怒りに唸り声をあげているかのようで、将校の顔はみるみるうちに青ざめた。

「ローランド!! 三日分の食糧だけ残してやれ。後は全部〈ウラカンレオン〉に運び込め」

 と、エリオットは戦利品を運び出していたローランドに指示を与えた。すぐさま、ローランドから「アイサー」と答えが返ってくる。

「三日後、このカリブ海を漂流し、お前たちが生きていれば賭けはそちらの勝ちだ。だが、これだけは覚えておけ。間違っても俺たちは命乞いなどしない。絞首台に上げられても、縄を引きちぎって逃げのびてやる。そして世の中が帝国のいいなりになる前に、支配者気取りの連中の首にその縄をくくりつけてやろう」

「おのれ海賊っ!!」

 将校はギリギリと歯噛みしながら、エリオットを睨み付けた。だが彼は将校の憎らしげな顔など歯牙にもかけず、カトラスを納刀すると自船の方へと踵を返した。

「野郎ども! 戦利品を積みこんだら、出発だ! ナッソーに凱旋するぞ!!」

 すると、両船の甲板にいる海賊たちから大きな歓声が上がる。その声は、岩礁と島陰にこだました。

 一方、〈ウラカンレオン号〉の甲板で、エリオットと将校のやり取りを黙って見つめていたアイリスはおもむろに、アレックスに尋ねた。

「三日分の食料なんてすぐに尽きてしまいます。あれでは、イギリス海軍の方々に、飢えて死ねと言っているようなものではないですか?」

 漂流の猶予期限は三日間。それはあまりにも無情な死の宣告に思えるのも無理はなかった。しかし、アレックスは少しばかり微笑むと、

「いや、三日もあれば十分だよ。船団も捜索するだろうし、ここら辺りは船の往来も多い。近隣の島には漁村もあって、漁民もいる。それに、あいつらだってバカじゃない。狼煙を上げるなり、ここを離れるなり、対処を取るはずだ」

 と言った。

「じゃあ船長さんは、あの人たちのことを見逃すというのですか?」

 アイリスが将校たちを指差した。敵船には傷ついた者もいるが、死者の姿はない。彼女の固定観念では、海賊は残酷な者たちだという認識があるのだろう。だとすれば、今目の前で繰り広げられたやり取りは、彼女にとって意外なことだったのかもしれない。

「意味のない人殺しはしない。それが、船長の……俺たちブラックストーン海賊団のやり方だ」

 アレックスはもう一度微笑んだ。

「そういえば、まだちゃんと答えてなかったな。俺がどうして海賊になったのか。海賊はあくまで悪党だけど、志のある海賊は、ただの悪党じゃない。船長はそのことを俺に教えてくれた。だから、俺はそういう船長の下で働きたいって思ったんだ」

「自由を求める志ですか……。アレックスさんたちを見ていると、わたしの想像していた海賊のイメージとは大きくかけ離れているように思います」

 アイリスの視線の先には、レベッカたち海賊の笑顔があった。手を叩きあい、互いの無事を確かめ、そして勝利に歓喜の声をあげる。その笑顔に海賊の恐ろしい雰囲気など微塵もなかった。

「どう? 少しは海賊が怖くなくなった?」

 アレックスが問いかけると、アイリスはこくりと頷いて、戦利品が次々と敵船から〈ウラカンレオン号〉に運び込まれていく様を見つめながら、

「少し……少しだけ、皆さんに興味が湧いてきました」

 と言った。

 

 〈ウラカンレオン号〉がイギリス海軍のブリッグスループと交戦をしていた同時刻。海を越えたはるか北に位置する、イギリスはロンドンの街並に、しとしとと冷たい夜の雨が降り続いていた。

 そんな中世の時代から雑然と発展を続けてきた街並の石畳の通りを、二頭立ての馬車が駆け抜ける。豪奢なつくりの客車が、さるお大尽の馬車であることを、ことさら強調しているかのようだ。

 馬車はロンドン市街の中心部から南に少し外れた場所にある、大きな建物の前で止まった。

 白壁が印象的な円形をした木造のその建物は、イギリス演劇の中心地『グローブ座』である。夜毎、『グローブ座』の舞台ではいろいろな演目が披露されていた。とりわけ、ウィリアム・シェークスピアの作品はイギリス市民に人気が高く、その夜もシェークスピアの傑作と謳われる『リア王』の公演が行われていた。

「ようこそ、お出で下さいました」

 雨のそぼ降る中、馬車の到着を待っていたかのように『グローブ座』の若いドアボーイが、馬車の扉を開けた。客車から一人の男が降りてくる。豪奢な客車に相応しい整った身なりに、鋭い目つきと凛々しい口髭を生やした壮年の男である。

 男は、雨にぬれるドアボーイに「ご苦労」と一言声をかけると、やや足早に劇場のロビーに入った。すでに開演時間となっているためか、ロビーに客の姿はほとんどない。

 男がロビーをぐるりと見回していると、タキシードに身を包んだ白髪の老人が、慌てたように駆け寄ってきた。

「これはこれは、パーシバル・チェスター卿。雨の中ようこそお出で下さいました。チケットをご拝見……」

 男のことをパーシバル・チェスターと呼び、慇懃にお辞儀をするこの老人はこの劇場の支配人である。

 チケットを求める支配人に、パーシバルは首を横に振り「いや、チケットはない」と答え、彼に怪訝な顔をさせた。

「今日は、観劇に来たわけではないのだ。スペンサー・コンプトン下院議長がお出でのはず。お会いしたい。取り次いでもらえるだろうか?」

 事情を説明すると、支配人は「かしこまりました」と再び慇懃にお辞儀すると、パーシバルをコンプトンのもとへと案内した。

 ロビー脇の階段を上がれば、狭い廊下といくつもの扉が続く。パーシバルが通されたのは、そんな扉の向こうにある個室型の観覧席だった。いわゆる、VIP専用の桟敷席である。

「こちらでございます。どうぞごゆるりと」

 支配人が立ち去ると、パーシバルは咳払いをして扉を開けた。

 そこはホールを眼下に一望出来る、見晴らしの良い絶好の席。そんな特等席から見下ろす舞台の中央では、オーケストラの演奏に併せて、リア王役の俳優が伸びやかな声で芝居をしていた。

 その演劇をやや退屈そうに眺める男が一人。そばには、彼の側近らしき者が二名ほど。彼らははすぐさま会釈を返してきたが、男はパーシバルに気付いていなかった。

「コンプトン」

 とパーシバルが男の名を呼ぶと、彼の来訪にようやく気付いたコンプトンが振り返る。パーシバルは、彼の許可も得ずに隣の椅子に、どすんと腰を下ろした。

「いかんな、なんども同じ劇を見ていると、飽きがきてしまう。今宵のリア王は、ロンドンでも指折りの名優と聞いていたが、役者が変わっても筋は一緒なのだから仕方がないことか」

 コンプトンはそう言うと、舞台上に視線を投じながら小さな欠伸をした。

「それで、どうなってる?」

「常備艦隊の編成が変わった」

 ぶしつけなコンプトンの問いかけに、心得ているのか、パーシバルは単刀直入に答えた。

「各港に在籍するスクーナー、ブリッグ、それに戦列艦〈リストレーション号〉の少なくとも計五隻が、事実上カリブ海方面へ配置転換になっている。はっきりとはしないが、バハマ総督のウッズ・ロジャーズ指揮下に入るようだ」

「それは、いつのことだ?」

「一週間ほど前だ。まるでパズルのような巧妙な編成で、探し当てるのに方々を駆け回らされる羽目になってしまった」

 パーシバルがため息交じりにそう言うと、コンプトンは少しばかり苦笑いを見せた。

「ちょうど、娘がカリブ行の交易船に乗り込んだという知らせを聞いた頃だな……。艦隊の指揮は、誰が執っているんだ?」

「フレデリック・ミラー大尉だ」

 と、パーシバルがその名を告げると、コンプトンはやや小首をかしげた。

「聞かぬ名だな……。そのフレデリック何某という大尉も、コーウェンの息がかかった者か?」

「いや、経歴や身辺に探りを入れてみたが、コーウェンとは無縁の男だ。ミラーは実直な軍人らしい。それだけに、出世頭とは言えず、未だ大尉止まり。そんな愚直な男だ、おそらくは下された命令通りに動いているだけだろう」

「なるほどな。それにしても、スペインとの先端が再び切り開かれたこの時期に、戦列艦を派遣するとは、豪気な話だな」

「建前はコーウェンの指示ではなく、ロジャーズの進める海賊狩りへの増派だ。艦隊の本当の目的が『娘の捜索』であることを覆い隠すためにも、戦列艦は重要なカムフラージュになるだろう」

「だが、広いカリブで人ひとりを探すのは、雲を掴むような話。問題はミラーという男がどれほどの人物で、事の次第をどれほど理解しているかだが……」

「そこまでは掴めなかったが、娘の捜索が主たる任務であることは、当然理解しているだろう。艦隊については、ロジャーズに対処を取るよう書簡を送ったが、奴も元海賊。その上、政界での躍進を狙っている。信用に足るとは思えん」

「問題は山積だな……。パーシバル、あっちの席を見てみろ」

 と言うと、コンプトンは顎をしゃくって見せた。彼の顎が指示した方向には、ここより更に特等席と思われる最上級の桟敷席がある。パーシバルは視力の良い方ではなかったが、幾人もの取り巻きを従えつつ、ひときわ豪華な衣類を纏い、そこに鎮座する小太りな男のことは良く知っていた。

「ロバート・ウォルポールか……」

 パーシバルはその男の名を呟いた。ウォルポールはコンプトンとは対照的に、オペラグラスを片手に、食い入るように演劇を鑑賞しており、こちら側には全く持って気づいてなどいなかった。

「コーウェンが伯爵家とは言え、議会の承認もなく、一存だけで海軍の人事を決め、軍艦を動かすことはできまい。コーウェンには『第一大蔵卿ロバート・ウォルポール』という後ろ盾があると見て間違いないだろうな。しかし実際の所、ウォルポール自身は気付いていないだろうが、コーウェンの……いや奴らの口車に乗せられて手の内で転がされているに過ぎない、というのが現実だ」

 コンプトンは「嘆かわしい」と付け加えた。

「しかし、数年前に奴らの反逆を鎮めたのはウォルポールではないのか?」

 パーシバルが言うと、コンプトンは首を左右に振った。

「長男の縁談話と言われれば飛びつくだろうさ。まして、この国を意のままに操ることができる、またとない好機だ。もっとも、ウォルポールにその野心があればの話だがな」

「野心のない者など、このロンドンにはいないだろう」

「いや、ウォルポールは政治家としては優秀だ。議会を束ねる力もあるし、ジョージ王への忠誠も篤い男だ。しかし、裏切る相手がオーガスタス様であれば話は別だ。『奴等』としても、オーガスタス様こそが狙いの本命であることは、異論の余地もない」

「いずれにしても、彼等を止められるかどうかは、すべてロジャーズとミラーの率いる艦隊のどちらが先に娘を見つけ出せるか、にかかっているということだな」

 そう言うと、パーシバルは勢いよく席を立った。

「どうした、パーシバル。最後まで観ていかんのか?」

 コンプトンが少し驚いたような表情で、舞台を指差した。舞台上は、物語のクライマックスに差し掛かっていた。リア王役の主演俳優が迫真の演技を見せ付け、聴衆を圧倒しているところだった。しかし、パーシバルは、「チケットを持っていない。支配人に申し訳が立たん」と踵を返す。

「それに、ロジャーズは海賊狩りにひどく手こずっているそうじゃないか。このまま、奴だけにすべてを任せるわけにはいかんだろう。俺もカリブへ向かう。その準備をしなければならんのでな、ここでお暇させてもらうよ」

「そうか、厄介ごとを任せてしまってすまないな」

「下院議長のお前がロンドンを離れるわけにはいかないだろう? お前にはウォルポールとコーウェンを任せる。何かあれば、すぐに連絡を寄越してくれ。すべてはイギリスのため、そしてオーガスタス様のためだ」

 と言い残し桟敷席を出ようとするパーシバルの背中を、引き留めるかのようにコンプトンが言う。

「なあ、パーシバル。シェークスピアの作品はいつも真実を突いていると思わないか? 真に信じるべき子は、オーガスタス様のみだと言うのに」

「さあな、俺はシェークスピアが苦手だ。悲劇など面白くもない」

 チラリと振り返り、パーシバルは鼻で笑うように言った。

「同感だな……この物語と同じ結末にさせるわけにはいかない。いいか、娘の生死は問わん。必ずコーウェンよりも先に娘を見つけ出せ。それと、カリブで余生を過ごされている、ご尊父殿……ルロイ・チェスター様によろしく伝えておいてくれ」

「ああ、気が向けばな」

 パーシバルは生返事で濁すと、リア王の声を背中に受けながら、コンプトンの桟敷席を後にした。

 ロビーで支配人に詫び代わりのチップを渡し、従者の待機する馬車に戻る。

「私宅へ向かえ。旅の身支度をする」

 コートに着いた雨粒を払い落としながら、従者に命じると、寡黙な従者はこくりと頷いてすぐさま馬車を出発させた。

 パーシバルはしばらく離れることとなった、祖国の街並みを眺めつつそっと溜息を吐き出した。

「本当に厄介ごとだな」

 と呟き、客車の窓に白いくもりを作る。

 石畳みの道に激しく揺られながら、ロンドン郊外のチェスター邸へと戻る車窓から見る夜のロンドンの街は、いまだしとしとと降り続く雨に薄白くかすんで見えた。

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