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斬月記  作者: 祭谷一斗
二章 看病
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途上

 先に食べ終わり、山民サンミン は様子を見守る。

 師尊シズンはちょうど、湯呑みを傾けるところだ。

 少しずつ水を口にし、小刻みに喉が動いていく。

 決して力強くはない。

 それでも、昨日一昨日までの弱々しさはない。


「――ふむ」


 やがて湯呑が置かれ、ひと息がつかれる。

 そっと置かれたせいで、水面はかすかに揺れている。

 残った水は五分の一ほど。

 この量を飲めば、しばらく乾く事もない。


「具合、良くはなってるみたいだな」


 確かめるように、山民サンミン

 峠は超えたはずだ。

 それでも、まだ安心は出来ない。

 なにか気配があれば把握しておきたかった。


山民サンミン、君のお陰だ。寝込んでいると、思ったより面倒がかかると知った」

「……どんだけ丈夫だったんだよ」


 ぶっきらぼうに返した。

 照れを隠すような真似と、半ば思いながら。


「ふむ。決して丈夫という訳ではないが、病にかかりにくいたちなのは確かだ」


 幸い、師尊シズンにそこまでの体力はないらしかった。

 回復の途上にあると、口振りからも察せる。


「まあ何よりだ。手拭いも後で片付けとく。他に何か、気になることは」

「そちらの方は、何かあったか」

「……何かとは、また曖昧だな」

「ふむ、具体的に言えばいいのか」


 腹のさぐり合いは苦手だ。

 それでも、露骨に表れていたとは思えない。


「……あるなら、言ってみてくれ。具体的にな」

「ない」


 拍子抜けするように、師尊シズンは言う。


「ないが、分かる。本調子でこそないが」

「はったりかよ、こっちには分からねえな」

「――きちんと考えれば、分からなくもないはずだ」


 ようやく、言わんとすることを察せた。

 考えるにも体力がいる。

 その体力が、まだ戻っていないのだろう。


「……分かった、素直に言う。無理はしないでくれ」


 結局は同じかと思いつつ、述べた。

 迷い道のことを。

 己の過去のことを。

 その最後には、幻と対話したことを。

 ただし、その幻が師尊シズンの姿とまでは言わなかったが。


「ふむ。幻との対話、か」

「ああ。最後はお陰で、あまり迷わず帰って来れた」


 顎に手を当てながら、師尊シズンはつぶやく。


ながら、良い事をしたものだ」

「……冗談だろ」


 かろうじて、山民サンミン は言った。

ブクマ・評価ありがとうございます。励みになっております。一区切りつきましたので、一度資料読みに専念します。再開後にまたお付き合い頂けましたら幸いです。

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