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69〈はじめての拘泥する愚者の道行〉

本日、三話目になります。

そう、またなんだ。書き溜めないのに、無茶しちゃってるんだ。

だって書いたら読んで欲しいじゃん〈←馬鹿〉

ということで、まだの方は前前話からお願いします!


 幕間の扉から出れば、そこは沼……ではなく青い稲穂が揺れる田園風景だった。


「ゐーっ! 〈おお、もしかしてここ、米が採れるんじゃないか〉」


「残念ながら、ここの稲穂ってアイテムではなく罠って扱いなんですよね…… 」


 レオナが残念そうに言った。


「ゐー…… 〈くっ……採れないのか…… 〉」


 おっと、幕間の扉が光る時、それは誰かが使った証拠だ。少し脇に避けてやらないとな。


「あ、気をつけて下さい! 落ちますよ」


「ゐ? 〈え? 〉」


 幕間の扉前は狭い作りになっている。

 俺は次の人を通すべく、少し稲穂に寄った。

 寄ったら、そこの地面がズル剥けるように滑った。

 滑ってそのまま片足が田んぼに落ちて、田んぼの中は底なし沼のように俺の足を呑み込んだ。


 はうあっ! ま、股が裂ける、裂ける……。


「掴まって下さい! 」


 俺はナナミが伸ばした手を必死に掴んだ。

 ナナミはさすがにLv120以上の戦闘員。

 正しくトールにポイントを割り振っていますという感じで片手で俺を引き上げてくれた。


「あ、だ、大丈夫ですか? 」


 青緑の全身タイツにサメ型ヘルメット。背ビレと全身で『シャーク団』を現す彼の頭上には『シシャモ』と名前が出ている。

 『シャーク団』の戦闘員はこんな感じなのか。


 だが、それよりも重要なことがある。


「ゐーっ! 〈なんで話せてんだよ! 〉」


「言語スキル取ったピロ? 」


「あ、はい。さっき課金で…… 」


「ゐーっ! 〈マジか!? 〉」


「グレンさんなら、無料コンパク石くらい、それなりに持っているのではないですか? 」


 ナナミがキツいことを突っ込んでくる。


「グレンさん、まだ石ある? 」


「ゐーっ! 〈ないっ! 〉」


 レオナが気の毒そうに聞くので、俺はキッパリと答えた。


「グレンさんはもう、キャラとしてそれでいいピロ。言語スキルの分、他のプレイヤーよりひとつ多くスキルが使えると思えば、悪くないピロ」


 なるほど、一理ある。


「でも、コミユニケーション取れないと辛いですよ、やっぱり…… 」


 シシャモが辛そうな顔をする。

 まあ、フレンドなり、パーティーなりでチャットを繋がないと意思疎通すらままならないというのは不便だろう。

 シシャモはそういう思いをしてきたということだろう。


「ゐー…… 〈くっ、言語なし仲間だと思ったんだがな…… 〉」


「グレンさんはボディランゲージ過多ですから、思っていること伝わりやすいんで、いいと思いますよ」


 ナナミのこれってフォローなのか? 

 軽くディスられてる感じもするがな。


「じゃあ、グレンさんは初めてなので、このフィールドの注意点を説明しますね」


 レオナの口調が初心者講習っぽくなる。

 慣れてるな。


「ゐーっ! 〈頼む〉」


「まずは地面を見て下さい。この白っぽい部分は普通に歩ける地面です。それからこっちの灰色の地面は滑ります。スパイク装備があれば、かなりの軽減になりますが、気をつけて歩く分には問題ないです。ただし、走ったら滑ると思った方がいいですね。

 さらにあっちの黒っぽい地面。あれは沼です。落ちます。底なし沼なので踏まないように! 」


 まあ、見た目通りという感じだな。


「気をつけて欲しいのが、沼に落ちたら、あまり動かずに救助を待って下さい。動くと早く沈みます。

 それから、水田の地面も見てみて下さい。

 5cmくらい水が張ってありますよね。

 色味が全体的に黒っぽいので分かりにくいですが、これも道と滑る道と底なし沼になっています。

 つまり、この稲穂は地面の見分けをし難くするギミックです。

 ここのフィールドはかなり入り組んだ迷路状になっていて、しかも、朝、昼、晩、晴れ、曇り、雨と全てマップが変わります。

 基本は昼の晴れ以外で挑むのは自殺行為です。敵のレベルも上がりますしね。

 少し進みながら、説明しましょう」


 幕間の扉前にいつまでもいると迷惑だからな。

 俺たちは下を見ながら進む。

 白は通れる、灰色は気をつける、黒は通れない。

 水田の中も確かに色味が違う。


───トラップ看破が発動しました───


 青く光る地面、黄色く光る地面、赤く光る地面。

 ふと視線を上げれば、青い稲穂もそれぞれに光っている。


「ゐーっ! 〈おお! 見えるぞ! なあ、トラップ看破ですげー分かりやすいんだが、そういうものか? 〉」


「トラップ看破ですか……。サクヤさんなら何かご存知かもしれませんね」


「ゐー…… 〈そうか。レオナでも分からないか…… 〉」


「ごめんなさい」


「ゐーっ! 〈ああ、いや、俺がレオナに甘えただけだ。すまん〉」


 頭を下げて、それからもう一度考える。

 トラップ系スキルもあまり一般的ではないんだろうか? 


「えっ? あ、いえ、いいんですよ甘えて……その……や、いえ、やっぱり何でもないです…… 」


 考えていたら、レオナが、ごにょごにょと蚊の鳴くような声で何事か喋っていた。


「ゐ、ゐーっ! 〈ん? すまん、ちょっと考え事をしていた。何か言ったか? 〉」


「い、いいえ、言ってないです! 」


 レオナが顔を紅くして手を振る。


「シシャモさん、どう思います? 」


「え? 」


 ナナミとシシャモが話していた。


「ですから、あの二人ですよ」


「は、はあ…… 」


「美女と野獣って感じしませんか? 」


「え〜と、すいません。グレンさんの戦闘員語、分からないので…… 」


「そこですよ! 私も言語スキル上げてないんで、分からないんですが、そこがまた野獣っぽくていいんですよ! 」


「あ、あはは……そ、そうですね…… 」


 愛想笑いに見えるが、始めはそんなものだろう。

 シシャモが徐々に打ち解けていく姿に俺は少しの満足を覚える。


「あ、あそこ、敵です! 」


 何かを感じ取ったようにシシャモが指を差す。

 見れば、水田の中に大型犬くらいのカエルがこちらを見ていた。


「シシャモさん、ファーストアタック取ってもらえますか? 」


 レオナが言う。

 シシャモはアーチェリーのような機械弓を取り出した。


「い、いきます! 」


 少し緊張した声。

 俺も『ベータスター』を構える。

 シシャモが放つ矢がカエルに当たる。


 俺も併せて銃弾を放つ。

 Lv22のシシャモとLv81の俺。

 ダメージ的に少しだけ俺の方が多いことにホッとする。

 まさか武器の差とか言わないよな? 

 ちょっと思考を放棄する。深く考えると泣ける。


 レオナが撃つ。

 カエルは死んだ。あ……うん。


「うん、いいですね! シシャモさんの敵発見能力はスキルでしょうか? 」


 レオナが聞く。


「あ、はい。【トラザメ】のスキルなんです」


「へえ……便利ですね! 」


「あ、そ、そうですかね……ウチのレギオンだと当たり前で、僕は使いこなせてない方なんですけど…… 」


「いや、凄いと思うピロ。ここより上のフィールドに行くと奇襲を受けることが多くなるから、重宝するピロ」


 シシャモはとても嬉しそうに照れた。

 微笑ましい。


 そのまま俺たちは進もうとするが、シシャモは褒められて気が抜けていたのか、黄色の滑る道ゾーンへ。


「ゐーっ! 〈おっと、危ないぞ〉」


 俺は手を伸ばして捕まえる。


「おっとっと……すみません。あっ、あっち、また敵です! 」


「私が! 」


 ナナミはごつい大型拳銃を取り出して、赤い沼ゾーンへ。


「ゐーっ! 〈お、おい、そっちは! 〉」


 くそ、ナナミも【言語】上げてないんだった。間に合え! 

 俺の両手は塞がっている。だが、当たり前のように俺は蠍尻尾を伸ばして、ナナミを捕まえた。


「ゐー。〈ふう……危ねぇ〉」


「ちょ……えっ? なんですか、これ、キモッ! 」


 キモッ! て言うな。傷つくぞ。


「ゐーっ! 〈目の前、底なし沼だぞ〉」


 俺は『ベータスター』で目の前を指し示す。

 ナナミはそれを見て驚いていた。


「え? わっ……危ない! す、すいません」


 敵はムックが投げナイフで倒していた。


「よく見えましたね」


 シシャモにはチャットで返すか。


グレン︰【ミミック】というスキルの派生アーツで【トラップ看破】というのがある。たぶん、それのお陰だ。


「なるほど、野良の時に仲良くしてくれた人も【盗賊】スキルにそういうのがあるって言ってました。もしかしてグレンさんは知力ロキベースですか? 」


グレン︰いや、特殊オーディンだな。


「へえ、今どきだと珍しいですよね」


グレン︰まあ、攻略とか見ないで始めたからな。


「あの、そろそろこれ外して欲しいんですが…… 」


 ナナミに言われて、蠍尻尾で固定したままだと気付いた。


グレン︰どうりで何か柔らかい感触があると思った。すまん、すまん。


 ナナミから尻尾を外す。

 シシャモが近づいてきて、俺に耳打ちする。


「……あの、思考チャットだと瞬間的な思考とか反映されちゃうんで、気をつけた方がいいと思います」


 ん? チャット欄を見ると、確かに本音がダダ漏れだった。

 慌てて、削除する。


 チラリ、ナナミを見るが、ナナミはムックと話していて、チャットは見ていなかったようだ。


グレン︰ふぅ、危ねぇ……。


 まただ。


グレン︰どうもまだ使い慣れてないせいか、乱れがでるみたいだな。


レオナ︰そういう時は感度を下げるといいと思います……。


 俺は慌ててレオナを見る。やめろ、そのジットリした目で見るなよ。

 というか、レオナに読まれていたか。

 まあ、今さらだけどな。


 雑談しながらの狩りは続く。

 フィールドが複雑な分、敵モンスターは遠距離が得意で近距離が苦手というやつが多い。

 まあ、レオナは聞けばLv110、ムックはLv103、ナナミはLv123、と適正オーバー揃いなので、遠距離でも殆ど問題はない。

 相変わらずのパワーレベリングだ。


「100レベルを越えると途端に必要経験値が上がるピロ」


「あの、皆さんレベル高いのに、僕なんかに合わせちゃって良かったんでしょうか? 」


「まあ、どのフィールドでも楽しければオーケーピロ」


「そうですね。ここまで来るとモンスター狩りは素材集め中心で、経験値は作戦行動とかした方が効率いいですから、どこでもあまり関係ないですかね」


 ナナミが考えながら何でもないことのように言う。

 まあ、実際には多少の差異はあるだろうが、シシャモの負担にならないようにと言う配慮もあるのだろう。


「あ、宝箱ですね! 」


 レオナがそれを見つけて報告する。


「いえ、敵です! 」「ゐーっ! 〈いや、罠だ! 〉」


 俺の【トラップ看破】が働いた。

 シシャモの【トラザメ】もなのだろう。


「つまり、ミミックピロ! ファーストアタック頼むピロ! 」


 シシャモが言われるままにファーストアタックを当てて、後はレオナとナナミで仕留めた。


「ほぎょ〜! 」


 ミミックが粒子化してパーティーに経験値と素材が入る。たまに素材を落とさずインベントリに出る時もあるのは、ボスや特別なモンスターという意味だろうか。


「あ、無料ガチャコンパク石出ました! 」


 シシャモがインベントリからそれを実体化させる。


「ゐーっ! 〈おめでとう! 〉」「おめでとうございます! 」「おめでとう! 」「おめでとうピロ! 」


 全員で喝采の中、シシャモは浮かない顔だ。


「どうかしたピロ? 」


「あ、いえ……あの……これ、どなたか貰ってくれませんか? 」


「どうかしたんですか?」


 レオナが不思議そうな顔だ。


「えっと……ウチのレギオンだと無料コンパク石は上納する決まりになってて、せっかく皆さんと一緒の時に出たのに、このままだとたぶん、他の団員が使うことになるから…… 」


「今、この場で使ってしまう訳にはいかないんですか? 」


 ナナミも不思議そうな顔をしている。


「いや、ウチ、スキル構成とか報告義務があって、今日は課金してスキル変更出したばっかりなんで、またスキル変更しましたとか言ったら確実に追及されちゃうんで…… 」


 シシャモは悔しそうだ。

 このゲームではガチャは醍醐味のひとつだ。

 レベルアップによる能力値強化も楽しいがスキルとその派生アーツによってやれることが増えれば世界が変わる。

 サクヤなんてそのためにレベルをカンスト〈上限まで成長〉させて、スキルレベルだけ残した作り直しを繰り返しているくらいだしな。


「シャーク団って、随分と厳しいレギオンなんですね」


 ナナミは険しい顔をしている。


「厳しいというか……認められるまでは仕方ないです」


「でもPKはして欲しくないピロ…… 」


 ムックは少し寂しそうだ。せっかく一緒に遊べる仲間が増えたと思ったら、ムックのPK殲滅部隊としては敵に回すしかなくなってしまう。


「やっぱり、PKやらないと残れないですよね…… 」


「やりたくないなら、やらなくていいんじゃないですか? PKはやられた側にとっては精神的ショックが大きいです…… 」


 ナナミもPKされて、傷ついた側だしな。


 俺はPKの話が出たことで、大事なことを思い出した。


「ゐーっ! 〈そうだ、聞いておかなきゃいけないことがあった! 〉」


 俺はチャットを開く。感度は下げめだな。


グレン︰シシャモはシャーク団に入った時、変な薬とか飲まされた記憶はないか? 


「薬ですか? あ、経験値増加薬ですかね? 試作品で効果が出るか試して欲しいって。

 チートじゃなくて真っ当な方法だから効果は薄いかもって言われて、実際、あまり実感がなくて失敗したみたいですけど…… 」


「「「…… 」」」


 ムック、ナナミ、レオナと三人ともが黙り込んでしまった。

 三人とも、知っていたか。

 俺は受け売りの知識だから実感がないが、ムックとナナミは表情が硬い。


「あの……何かまずかったですか? 

 チートじゃないって言われてましたけど…… 」


グレン︰昨日、シャーク団の仲間から「俺たちは運命の輪で繋がってるから、どこに行っても分かる」って言われたとか言ってたよな? 


「あ、はい! 結構、仲間意識が強い組織なんで…… 」


 少し誇らしげにしているシシャモが俺たちにはとても痛々しく見えた。

 だが、告げなきゃな。


グレン︰その薬なんだ。


「はっ? 」


グレン︰その薬はたぶん、半永久的に動く発信機になってる。


「い、いや、何の話ですか? 」


「あるピロ 」


 ムックが哀しそうに告げた。


「残念ながら、その薬はあるピロ…… 」


 ムックがインベントリから白いカプセルの薬を取り出した。

 それから、板状の受信機も見せる。


 受信機は白いカプセル状の発信機に反応を示していた。


「PKやPKKは獲物を定めると、脅したり騙したりして、これを相手に呑ませるピロ。

 そうすると、フィールドやシティエリアで相手を見つけることができるピロ 」


「…… 」


 シシャモは何も言えなくなる。

 ムックは少し微笑んで言う。あまり上手く笑えてないけどな。


「まあ、大丈夫ピロ。取り出す方法はあるピロ」


「あ、あの、ぼ、僕は本当にPKとかやったことなくて……その、み、見てたことはありますけど、本当に何もしてなくて……今日、凄い楽しいなって……わざわざ俺のために低レベルフィールドなのに、皆さん合わせてくれて……ちゃんと経験値も配慮してくれて…… 」


 シシャモは脅されていると思ってしまったのか、急に泣きながら言葉を紡ぎ出した。


「……でも、シャーク団だから……PK集団の一員だから……元、野良でレベルも低くて、まともなスキル回しすらできないから……コンパク石出た時も、おめでとうって……じゃあ、それ寄越せよ、じゃなくて、当たり前みたいに俺の物みたいに言ってくれて、嬉しくて……だけど、やっぱり俺はシャーク団しか居場所がなくて……騙されても、このゲーム好きだから……好きだから……ちくしょう……ちくしょう…… 」


 支離滅裂だ。混乱して何が正しいのか、判断できなくなっているのだろう。


「ゐー…… 〈大丈夫だ。心配するな…… 〉」


 俺はシシャモを元気づけようと、肩に手を置いて言葉を、想いを伝えようとした。

 だが、シシャモはその俺の手を振り払う。


「いやだ! こんなところでPKなんてされないぞっ! わざわざ経験値与えて、楽しくゲームしてたのに、なんでここで殺されなきゃいけないんだ! 」


「ゐー? 〈おい、なんでそうなる? 〉」


「ち、違います。私たちはPKKはやりますけど…… 」


「ふざけんな! 僕はやってない! やってないって言ったじゃないかっ! 」


 シシャモがアーチェリーを構える。


「傾聴ーーっ! 」


 ビクリと身が引き締まる感じがして、俺も、ムックも、ナナミも、取り乱していたシシャモでさえもが、動きを止めて直立不動になった。


「まず、シシャモさん。落ち着きなさい! 

 私たちがあなたをPKする理由なんてありません! 

 それから、ムックさん。話が性急すぎます。

 PKが使うなんて言ってそのカプセルをムックさんが持っていたら、自分がPKだと疑われても弁解の余地がなくなります! 

 ちゃんと、シシャモさんの理解を得てからにして下さい! 」


「ご、ごめんピロ…… 」


 ムックはシシャモに頭を下げる。


「ぴ、PKじゃ、ない……? 」


 どうもシシャモはあまり人の話を聞かずに早合点してしまう癖があるようだ。


「僕とナナミは普段、PKKとして活動しているピロ。PKにとても悔しい思いをしたから、ちょっとピリついてしまったピロ…… 」


「PKK…… 」


「すいませんでした。つい、PKと聞くと感情的になってしまって…… 」


 ナナミも頭を下げた。


「さて、シシャモさん。今から厳しいことを言いますよ」


 レオナの迫力に圧されたのか、シシャモは直立不動の姿勢になった。


「あなたに足りないのは思索と自分からココロを開く勇気です。

 相手の言葉を上辺だけで聞くからそうなります。

 シャーク団の甘言しかり、ムックの提案しかりです。

 意味は分かりますか? 」


「自分から心を開く勇気…… 」


「そうですね……先程の泣き言、敢えて泣き言と言わせてもらいますが、シシャモさんは私たちとの冒険を楽しいと仰っていました。

 それでも、自分の居場所はシャーク団にしかないのだとも仰っていましたね。

 それは、何故ですか? 」


 レオナの女教師姿をぼんやりと想像しながら、俺はやりとりを見守ることにした。


 レオナの言うことは正論だ。

 人は正論を突きつけられた時、弱くなる。


 人はどれだけ働きかけようと変えられない。

 それは、その人が変わりたいと思った時にしか効果を発揮しない薬だからだ。


 だが、その薬は変わりたいと思った瞬間に限り、劇的に効果を発揮する。


「僕は……脅されているからです」


 シシャモはハッキリと言った。

 負けを認めるのはつらい。自分が惨めだと言うのはキツい。だが、それを乗り越えようと努力を始めた時、人は輝く。


「仲間とか、皆のためとかていのいい言葉で包まれて、逃げるなとか、男を見せろとか言われて、影で笑われているのに気づきながら、いつか認められる。そう考えていた、んだと思います……それで……その…… 」


「ゐーっ! 〈まとまらなくていいぞ。思ってること、全部ぶちまけろ! 〉」


 レオナが俺に頷く。


「ゆっくりでいいですよ。ちゃんと聞きますから」


 シシャモは頷く。


「試作品とか、なんで新人の僕で試そうとしてるのかとか……野菜泥棒が仲間になるための儀式だとか……嘘だと思いながら、いつか、いつかって思ってて……でも、認めるのが嫌で…… 」


 シシャモはまた泣き出した。


「認めたら、自分が惨めになるから……自分に嘘吐いて…… 」


 しゃくりあげ、鼻をすすり、零れ落ちる涙を見せまいと目頭を拭う。


「私たち『リヴァース・リバース』が守ります! シシャモさん、あなたがウチに来るなら『シャーク団』が二度とあなたに手を出せないようにします! 

 ウチはこれでも最大規模のレギオンで、頼もしい仲間もたくさんいます。

 安心していいんです…… 」


 だが、シシャモは首を横に振った。


「違うんです……僕が……僕がちゃんとシャーク団と手を切らなきゃいけないから……だから、僕が強くならなきゃいけないんです! 」


 俺はゆっくりと拍手を贈った。

 それから、腕を振り上げて叫ぶ。


「ゐーっ! 」


 意味なんてない。ただ、叫んだだけだ。

 応援の意味を込めて。

 それでも、たぶん、シシャモには通じたと信じる。


「ゐーっ! 」


「グレンさんはなんて? 」


「ただ奇声を上げてるピロ」


 分からんか? ムックもナナミもダメなやつらだ。勇気を振り絞って、力を出す時は大きな声で叫ぶんだよ! 


「ゐーっ! 」


シシャモ︰グレンさん、意味は分かりませんが、たぶん、応援してくれていると思ってていいでしょうか? 


グレン︰もちろんだ。それからシャーク団と手を切ったらすぐ連絡しろよ。俺たちがついてる! 


シシャモ︰へへへ……。ありがとうございます。そしたら畑のこと教えてください! 


グレン︰おう、任せとけ! それと腹の中の発信機はどうする? ムックなら取り除き方を知ってるみたいだぞ。


シシャモ︰シャーク団を抜けてからお願いします。


ムック︰腹から摘出するだけだけど、他人にやってもらう方がいいピロ。言ってくれれば何時でもやるピロ。


シシャモ︰はい! 


 それから俺たちは二時間ほど掛けて、がっつりシシャモのレベル上げを手伝った。


 ついでに成果もある。


 引き摺り蓮根というモンスターからレンコン。

 稲穂をトラップ解除するとその部分がぽっかり拓けて、米が手に入った。

 専用に田んぼや沼地が必要だが、これは大きい成果だ。


 シシャモは他のメンバーとフレンド登録をして別れた。


 俺たちは『りばりば』の基地に戻る。


 俺が抱えていた仕事の憂さは、若者の成長を見守ることで大分、晴れたような気はするが、それはそれ、キーサンの仕事ぶりを堪能するとしよう。



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[一言] いい場面の後にサラッと農家してる戦闘員。もはや農家が本職?
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