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最近、見に来てくれる方が増えてるんですよ。
思わず日間順位とか見たら昨日、VRゲーム部門で26位だったんですね。
まあ、舞い上がりますよね。
きっと手が滑って更新ボタン押しそうなので、本日、一話目。
手が滑らない可能性もあるw
赤ら顔の天狗。
なんだ? 無表情だったカラス天狗と違って、急に凶悪な感じがする。
眉間に皺を寄せ、睥睨するように辺りを睨み、不敵に口角が吊り上がる。
「リクトウサンリャク、ワガジュツヲ、ウケテミヨ…… 」
『鬼一法眼』が刀を正眼に構える。
途端に『鬼一法眼』が八体に増えた。
「マダマダ…… 」
八体の『鬼一法眼』が六十四体に増えた。
「ユクゾ…… 」
六十四体の『鬼一法眼』が一斉にそれぞれ近場の戦闘員に襲いかかる。
「幻術か? 本体を探せ! 」
そう言った戦闘員は『鬼一法眼』に斬り捨てられた。
「【王者の一刺し】」
煮込みが目の前に来た『鬼一法眼』にスキルを叩き込む。
『鬼一法眼』は少しのダメージと引き換えに煮込みの首を狙う。
「ひえっ! 」
煮込みは転がるように、なんとかそれを避けた。
「ブザマナ…… 」
『鬼一法眼』はさらに煮込みを追う。
今までと動きが違う。
「無様だろうと、それを食らう訳にいかない! 」
精一杯の強がりだろう。
「ピロ! 」
ムックが、煮込みを追う『鬼一法眼』の背後を襲う。
『鬼一法眼』はそれをギリギリで転がって避ける。
「ヒキョウナ…… 」
「無様ピロ」
「フン、ツヨガリヲ…… 」
煮込み、ムックと『鬼一法眼』の2対1が始まった。
そして、それは六十四体分、始まったのだ。
ゲームのA.I.とは思えない、生々しい動きをする六十四体の『鬼一法眼』。
ある所では1対1で、ある所は3対1で、遠距離組のかたまりを狙う個体もいる。
HPバーは六十四体、全てに付いている。
見れば、全てのHPは繋がっている。
MP、その他も繋がっている。
だが、ウェイトタイムなどは別計算のようで、十体分の【八艘飛び】が始まった時は、全員が逃げ惑った。
空にはまだ数十匹の式神が飛び交い、時折、落ちてきては爆発する。
頭上の竹槍がもうないのは救いか。
だが、式神の動きも変わっている。
一定時間でターゲットを決めて落ちて来ていたのが、効果的な所を狙って落ちて来るようになった。
しかも、狙われると避けるような動きも加わる。
「ゐーっ! 〈くそ! 当たらねえ! 〉」
「グレンさん、弾幕を張る感じにできますか? 」
「ゐーっ? 〈こうか? 〉」
「はい! 」「お、便乗ですー」
俺が一定範囲に弾をばら撒く、それを避けようと単純な動きをする式神を、レオナとサクヤに狙い撃ちしてもらう作戦だ。
これはある程度の成果があがる。
式神のA.I.は、変化したとは言っても、そこまで優秀ではない、と言ったところか。
問題はやはり、リアルさながらに動く『鬼一法眼』だろう。
単純に攻撃力は六十四倍で、A.I.が進化したようなもんだ。
あれだけいた各レギオンの援軍も半分程度まで減っている。
「ゐーっ…… 〈これ、クリアできんのか…… 〉」
一瞬、弱気が顔を覗かせる。
「やりましょー。できなければここまで集めたドロップのほとんどがパーなのでー」
うっ……食材……。
今回のドロップはほとんどが食材なのだ。
マンドラ人参の種は怪しいから落としてもいいが、人参の種は落としたくない。
大根の種、種芋、小松菜、ほうれん草、猪豚の肉、鮎、ヤマメ、ニジマス……。
他にも色々とある。
くそ! 弱気になってる場合じゃなかった!
戦闘員が減る。高レベル帯でまともに戦える戦闘員はそう多い訳じゃない。
なんなら、各レギオンの主立ったやつらは殆ど集まっているんじゃないかと思えるようなボス戦だ。
それなのに、ボロボロだ。
まだ頑張っているやつらもいる。
遠距離攻撃組は近づいていない分、残っているやつらが多い。
だが、近接組がボロボロになると、『鬼一法眼』は遠距離攻撃組にターゲットを変え始める。
近づいたら勝ち目がないから遠距離攻撃をしているというのに、それが向こうから近づいて来る。
俺たちの所にも一体の『鬼一法眼』がやって来た。
「サア、ダレガクル…… 」
「この中なら私ですかねー」
「ゐーっ! 〈一番レベル低いやつが何いってんだ! 〉」
サクヤが行こうとするのを止めて、俺が前に出る。
「あらー、男の子ですねー」
「ゐーっ! 〈おっさんだわ〉」
「マトメテ、アイテヲシテヤロウ…… 」
『鬼一法眼』が一歩前に出た瞬間、俺はスキルを発動する。
なぜなら【野生の勘】が発動していたからだ。
「ゐーっ! 〈【緊急回避】〉」
「ヨケルカ…… 」
『鬼一法眼』が笑った。
屈託のない笑顔が怖いと思うのは初めてだ。
「ゐーっ! 〈ぬおっ! 【正拳頭突き】〉」
瞬間的に赤い線が幾つも引かれた。
また【野生の勘】だ。
逃げ場がなくて、前に出るしかなかった。
「カッハッ…… 」
偶然、『鬼一法眼』の肩に俺の頭突きが当たった。
「クッ…… 」
よろけた『鬼一法眼』が白目を剥いた。
頭上には『昏倒』の状態異常が出るが、すぐに点滅を始める。
「はっ! 【王水弾】! 」
俺の腹を透過して、サクヤの王水弾が『鬼一法眼』に当たる。
怖っ!
『鬼一法眼』の顔半分と肩口が水に濡れて、ジュワジュワと溶けていく。
頭上には『溶解』の状態異常が出ている。
怖っ!
『鬼一法眼』の目に生気が戻って、飛び退る。
「ヤルナ…… 」
俺は思わず、違う、違うと手を振った。
「おお、溶解は耐性なしですかー」
「アナドッタカ…… 」
半分溶けた顔が笑う。
怖い! 怖い!
瞬間的に『鬼一法眼』が動いた。
俺は身構えるが、ターゲットは俺ではなかった。マズいっ! 俺が振り返る。
『鬼一法眼』はサクヤの目の前だ。
「サクヤさん! 」
レオナがサクヤを突き飛ばした。
レオナの腕が二本とも飛んだ。
「レオナさん! 」
「オロカナ…… 」
『鬼一法眼』の刀が閃く。
レオナの首が飛んだ。俺の目に焼き付いたレオナの顔は恐怖に歪んでいた。
「ゐーっ! 〈レオナーッ! 〉」
レオナは光の粒子になって消えた。
後には幾つかのドロップ品とサンドウィッチを入れていたカゴが落ちていた。
「ゐーっ! 〈てめぇ! 〉」
「イカリハ、マナコヲクモラセル…… 」
『鬼一法眼』のHPバーは減り続け、残り千もなかった。
周囲で戦っている戦闘員たちのおかげだろう。
俺はコイツを殺すと決めた。
「ゐーっ! 〈るせぇ! 見えてりゃいんだよ、んなもんはなぁっ! 〉」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
これはゲームだ。別に本当に死ぬ訳じゃない。それは分かっていた。
レオナは感覚設定もデフォルトだろうし、痛みも大してなかったろう。
ただ、最後に見たレオナの顔が俺の目に焼き付いただけの話だ。
あんなレオナの顔を俺が見たくなかっただけの話だ。
俺の中で何かが弾けて、昔の俺が顔を出す。
おう! 俺! 怒ってんのかよ。
ぶつける相手を探してるんだろ?
アイツとかどうだ? 鼻っ柱を折ってやりゃあ、少しはスッキリするか?
俺は全部をぶつけてやることにした。
「ゐいいぃぃいいっ! 〈【封印する縛鎖】【誘う首紐】【餅つき】【回し蹴り】〉」
左腕が弾けた。鎖が『鬼一法眼』を縛った。
右腕から伸びた鎖が『鬼一法眼』の首に絡まった。俺の足が蒼く光って、自分の身体に鎖を巻き付けるように『鬼一法眼』を蹴った。
蹴った反動で巻き付いた鎖が逆回転して、巻き付けた鎖が解けた。
「クケッ…… 」
胸を圧迫されたかのように『鬼一法眼』が空気を吐き出した。
『麻痺』『盲目』『暗闇』『猿轡』『回復無効』『行動阻害』『防具無視』『鈍重』『行動不能』。
俺は、一瞬の間をいいことに全てを吐き出した。
「ゐーっ! 〈【希望】【神喰らい】〉」
発動と同時に口中に違和感が生じる。
俺の顎から短剣の刃先が突き出した。
口の中の違和感は膨れ上がって、一本の短剣になって、口が閉じないようなつっかえ棒の役割を担った。
痛いより先にびっくりしてしまう。
閉じられない口から大量の水が吹き出す。
『鬼一法眼』の頭上に細かい文字がアホ程並ぶ。
『炎上』『感電』『魅了』『目眩し』『昏倒』『方向誤認』『流血』『混乱』『神経毒』『氷結』。
俺がここまでに食らった状態異常が全部出ていた。
三眼茄子から『混乱』を、毒吹き馬鈴薯から『神経毒』を、霧胡瓜から『氷結』を食らっている。
そうか、フェンリルは神々に縛られた後、口を閉じられないように剣をつっかえ棒にして、涎を流したという話があったか。
それが【希望】だった。
「ゐっふぃ、ゐっふぃ…… 」
呼吸するのも苦しい。
少し動かすだけで、ズキズキとした鈍い痛みが俺を襲う。
そして、【神喰らい】はと言えば、俺の残った右腕が変形して狼の頭になった。
俺は身動き取れない『鬼一法眼』を殴るようにして右腕で噛み付いた。
パパパッ、と幾つかの状態異常が外れる。
俺の右腕は『鬼一法眼』の肩を噛みちぎった。
なぜか味を感じる。血塗れの生肉の味だ。
それから力が湧いてきた。
俺の全てのステータスが3上がっていた。
たったの3だ。
だが、レベルにして12レベル分のステータスアップだ。
さらに腹が満たされる。体力値が最高まで回復する。
だが、HPは回復しない。瀕死一歩手前の状態だ。
そして、すぐに腹が減る。
体力値は回復したはずなのに、腹が減っていた。
【神喰らい】は部位破損技のようだ。しかも、一度出したら暫くは保てそうだ。
身動きの取れない『鬼一法眼』の腹に、俺のオオカミが食らいつく。
バクンッ! と腹肉が欠損した。
これ以上、ステータスは上がらないようだ。
「ゐーっ! 〈レオナと同じ思いをして、死ね! 〉」
俺は右腕で『鬼一法眼』の頭を喰らうつもりで、腕を引いた。
オオカミを放つ直前、俺と『鬼一法眼』の間に割り込む影があった。
イラッとして、俺はそいつを睨む。
『鬼一法眼』だった。
新しい『鬼一法眼』は大きく振りかぶった刀を、大上段から俺に向けて振り下ろした。




