442〈かぷかぷ〉
見覚えのある少年だった。
「ぐるるっ……〈かぷかぷか……〉」
カプカプカップカップカプ。通称かぷかぷ。
レギオン『ムーンチャイルド』のヒーロー、『ミカヅキのシン』。
最近、『作戦行動』で敵対して、その後、ましろに連れられて来て知り合ったプレイヤーだ。
プレイヤーとして見た時は、普通の中学生くらいの少年で、ゲームの進め方に少しだけ悩んでいるくらいしか知らない。
「グレちゃんの畑で知り合った子……そうか、五杯博士の息子さんだったんだ……」
俺が名前を呼んだことで、レポートを見ているSIZUも思い至ったようだ。
「グレちゃん……畑で知り合った……はっ……まさか、グレン農場の……」
かぷかぷもSIZUの言葉で思い出すことがあったようだ。
「ねえ、五杯博士が何をしていたか知ってる?」
SIZUが聞く。
「父さんは人類の進化を研究していたんだ……どうすれば僕みたいな超能力者がこの世界で正しく生きられるか……それを研究していただけなのに……」
「つまり、何も知らないんだね……」
「はあ? 知らないのはお前たちじゃないか!
父さんは国の人からお願いされて、この仕事をやっていたんだ!
その研究成果を盗もうとするテロリストのくせに!」
「盗む? 盗む必要なんかないわ。
見なさいよ、ほら、私たちは超能力を既に使ってるもの!」
「うっ……気持ち悪い……身体の半分が腐る超能力なんて、異常だ!」
「ぐわおぅっ!〈黙れ、くそガキっ!〉」
俺は慌てて大きな声を出したが、SIZUに、ポンポンと頭を優しく叩かれる。
「はい、グレちゃん、興奮しないの。
知らなきゃ、気持ち悪いのも仕方がないでしょ。怒らない、怒らない……」
「知ってるぞ! お前たちの力は怪人世界の悪い超能力だ!
うぅっ……その力で、よくも父さんを!」
「あんたねぇっ! リアじゅーの基本設定くらい押さえなさいよ!
ヒーローも怪人も元は同じ双子星の関係から生まれてるんだから、優劣なんてないんだからね!
たまたま体制派と反体制派としてシティエリアで認識されてるだけで、母体として残されたのが側がヒーローって呼ばれてるだけなの!
魔法文明と科学文明の対立構造だけ見て、ヒーローだ怪人だって騒ぐのは小学生までよ!
あのゲームの奥深さを理解しないで、表面だけで語らないで!」
俺は少し頭を上げて、SIZUを黙らせる。
おい、誰だよ、俺に知らないんだから許してやれ的なこと言ってたのは……。
あと、俺の頭の上でゲーム談義とか、マジ勘弁してくれ。
「ちょっ……グレちゃん!
分かった……分かったから……」
「何が対立構造だ!
その力で父さんを殺したのは、お前たちじゃないか!
許さないからな! 【ミカヅキノツルギ】」
かぷかぷの手の中に三日月の剣が現れる。
「がうるるるっ!〈いいだろう。逆らうならお前も殺してやる!〉」
「ちょっ……グレちゃん!」
「ぐわおぅっ!〈無理だ。このまま知らないままでいい!〉」
五杯博士が超能力の研究にどんなことをしたかを伝えて、理解を得ようというのがそもそもの間違いだ。
たまたま知っているプレイヤーで、彼がゲームを純粋にゲームとして楽しみたかったという悩みを持っているのを知っているだけに、一瞬、説得が頭に浮かんだが、それが間違いの元だ。
父親が何をやっていたかは別として、俺たちの前に立ちはだかる以上、かぷかぷは敵だ。
恨みながら死んでもらう。
それが悪の組織としての俺たちの役割だろう。
スキルの応酬が始まる。
『ミカヅキのシン』の手の内はバレている。
俺が避けて、SIZUが攻撃する。
俺は一気に研究棟を更地にするべく、研究棟を殴った。
一瞬、躊躇した『ミカヅキのシン』は屋上から跳んだ。
高いところから落ちるのが、もしかしたらトラウマになっているのかもしれない。
なんとか地上に降り立った『ミカヅキのシン』がスキルを放つ。
俺は匂いを頼りに、躱していき、ダメ押しでスキル回避を入れる。
「【沈黙】!」
スキル無効化のスキルだ。
俺は少ないながらも傷を負う。
巨狼化している俺に、多少の傷があっても、俺の動きは鈍らない。
俺は研究棟に炎を吹き掛け、脆くなったところに体当たりして、全壊させた。
「あ……ダメだ……グレちゃん、逃げよう!」
SIZUが言い出した言葉に、俺は驚いた。
「がうっ?〈どうした、SIZU?〉」
「マギシルバーもオーディンも大丈夫。
でも、ヴィーザルはダメ……ダメなんだ!」
SIZUが必死に俺の頭を叩いて促すが、良く分からない。
「がうっ?〈何故? ヴィーザルはオーディンの息子だが、俺の運命はオーディンとの相討ちだろ。その運命を回避した以上、ヴィーザルを恐れる必要はないはずだろ?〉」
「違う! 違うのっ!
あの時、お兄ちゃんはオーディンとの決闘で、オーディンを倒して、瀕死になった。
でも、その時はまだ生きてた!
最後にヴィーザルが出てきて、それでお兄ちゃんは……」
俺のガチャ魂『フェンリル』はその顎をオーディンに引き裂かれて、それでも、無理やり口を閉じることでオーディンの心臓を貫きトドメを刺した。
そこで意識は途切れている。
瀕死?
まだ生きていた?
ヴィーザルとの記憶は、俺が子供の頃、妹のヘルにちょっかいを出されて、怒りでボコボコにしてやったことくらいだ。
俺がラグナロクでヴィーザルに殺された?
意識が混濁して、記憶にない。
ただ、ラグナロクを生き延びたSIZUはそのことをどこかで伝え聞いたりしたのだろうか……。
「【震脚】!」
ぼこん! 地面に穴が空く。
それは浮遊都市『エデン』の外殻に穴を空け、俺とSIZUを飲み込んだ。
巨大な穴だ。
下には燃え盛るマグマが見えていた。
「うおおおぉーん!〈SIZU! お前だけでも外へ!〉」
「いやだ! お兄ちゃんと一緒に行く!
煉獄でも、ムスッペルヘイムでもいい!
離れないから!」
SIZUが俺の頭に必死にしがみついていた。
俺たちは落ちた。
カップが五つで五杯……。
我ながら安直だなぁとは思うものの、思いつかなかったから、仕方ない。




