199〈はじめてのクルトン〉
オオミがシシャモに近づく。
「シシャモ。あのスキルは強力だが制御できていない。
どうしようもなくなるまで、使うな」
「オオミさん……はい……」
しばしの休息。
シシャモの精神的疲弊が激しい。
「あの、そろそろ行きませんと、ボスがリポップします……」
恐る恐るミルクが告げる。
「ゐー?〈ああ、すまんな……ほら、シシャモ、立てるか?〉」
「は、はい……」
なんとかシシャモを立たせて、最後の部屋である宝物庫へと向かう。
宝物庫はまさに金銀財宝の山だった。
「ゐーっ!〈おお、すげえな!〉」
「グレンさんは、初めてでしたよねー」
「ゐー……〈ああ、このゲームやってて、初めてだな、こんなゲーム、ゲームした状況……〉」
金貨、銀貨、宝剣に装飾された宝箱、様々なアクセサリーが山と積まれている。
五人で分担して財宝をインベントリへ。
ぞろぞろと宝物庫を出ると、翼ある蛇が居たボス部屋に一人の男の子が立っていた。
「誰ですかねー?」
「そこ、そろそろリポップするんで、危ないですわよ」
生成りの貫頭衣、真っ白な肌に白髪、真っ赤な瞳。アルビノっぽい人間アバターだ。
アルビノが一点を見つめている。
シシャモだ。
シシャモもアルビノを見つめていた。
お互いに動かない。
「ゐー?〈シシャモ、どうした? 知り合いか?〉」
俺が声を掛けると、シシャモは驚いたように俺を見た。
「え! ……あ、いえ、違いますけど……なんだか、目が離せなくて……」
───蛇神・ククルカンがあなたの群れに入りたそうにしている───
唐突な脳内アナウンスに驚いて、アルビノを見た。
アルビノの視線がいつのまにかシシャモから俺に移っていた。
蛇神・ククルカン?
まさか、レア種のボスが既にリポップしていた?
それが、コイツ……?
いや、今のシシャモと見つめあってたのはなんだったんだよ。
裸足でぺたぺたと俺のところに歩いてくる。
「なんか、可愛い子ですねー」
「あの、本当に急ぎませんとリポップが……」
「ゐー……〈たぶん、してる。コイツ、蛇神・ククルカンだって……〉」
「は?」
「ええ?」
「どういうことだ?」
「ちょ……グレンさん、危ないですよ」
シシャモが俺とアルビノの間に割り込む。
「ゐー〈大丈夫だ……なんだか良く分からないが、テイムが発動している〉」
アルビノはシシャモを避けて、俺の前に来ると手を前に出して、握手を求めてくる。
「テ、テイムですかー……」
「ボ、ボスキャラを?」
チラリとアルビノが背後のシシャモを気にする素振りを見せる。
なんだか分からないが、テイムした方が良さそうだ。
俺はアルビノの手を握り返した。
───蛇神・ククルカンのテイムに成功しました───
───名前︰■■■───
お、お、MPを吸われる脱力感を感じながら、考える。
名前、名前か……。
蛇なんだよな……。
どうしようか……。
ククルカン、ククルカン……漢字を当てると括る環。
いや、どうもしっくり来ないな。
ククルカン……クルカン……はっ!
「ゐー!〈クルトン!〉」
こくり、とアルビノが頷いた。
と、同時に俺の身体に変化が生じる。
クラクラする。いや、待て、待て……テイムは一律MP30点だよな?
だが、この感覚は……眠気……ヤバい、死ぬぞ!
慌ててMPポーションを出そうとするが、俺の右手はクルトンに繋いだまま。
左手はシシャモを止めるためにブチ切れたままだ。
「ゐー……〈誰かMPポ……〉」
───死亡───
何故、一匹テイムでテイム死しなきゃならんのか……。
ボスキャラだから? 蛇神だから?
どちらもありそうだ。
俺は『大部屋』で復活した。
テイムは成功したはずなので、辺りを見回すが、クルトンがいない。
フジンとじぇと子は肩にいる。ということは『プライベート空間』だろうかと、そちらに向かう。
すっかり『プライベート空間』じゃなくなった俺の農園だけどな。
だが、一歩踏み入れて分かった。
たぶんだが、クルトンはここにいない。
チャットが送られて来る。
ミルク︰グレン様、大丈夫でしょうか?
グレン︰すまん、基地で復活した。テイム死した。
サクヤ︰MP切れですかー。でも、クルトンちゃんはまだこちらに居ますよー。
グレン︰そうか、合流したいところだが、時間掛かるな。
サクヤ︰えーと、そのまま待っていてもらえますかねー?
ちょっと色々と今、ありまして、クルトンちゃんは連れて行きますのでー。
グレン︰そうか。すまんな。
野菜の収穫なんかをしながら待つ。
早いやつらはそろそろ戻って来ていたので、ある意味ちょうどいい。
「肩パッドさん、これ買い取り可能?」
木の棒に脚を括りつけられた『猛角牛』。
俺は牧夫のNPCドール、オレンジ色のマールの紋章をつけた、サンマール〈太陽っぽかった〉を呼んで、査定してもらう。
───五百二十マジカですかね───
「おお、肉の塊で三マジカで売れてたものが、生け捕りならそんなになるの!」
生け捕りは大変だろうからな。
サンマールは『牧夫』のスキル持ちだ。
問題ない。
そうして戻って来る連中の相手をしながら待つ。
シシャモたちが戻って来た。
「ゐー〈途中で抜けて、悪かった〉」
「いえいえ、帰りは無理せず、敵はスルーでしたからねー。
問題はなかったですよー」
見れば、クルトンがいない。
「ゐー?〈クルトンは?〉」
シシャモが焦ったように前に出る。
「あ、あの……実はコレで……」
シシャモの腕には銀の腕輪が嵌められている。小さな翼の付いた蛇のブレスレットだ。
聞けば、あの後、クルトンは体長10cmほどの蛇に変身したかと思うと、シシャモの腕に巻きついて、腕輪になってしまったらしい。
「外そうとしても、外れなくてですね……あ、今、腕ごと切り離しますから、そうしたら返せますね!」
ようやく解決策を見つけた! みたいに言われても困る。
止めようと思ったら、腕輪が色付いて、小さな翼ある蛇になり、地面に落ちてアルビノの男の子へと変身した。
「ゐー……〈あー、切らなくて良さそうだぞ……〉」
ぺたぺた歩いて、他のテイムモンスターたちと遊び始める。挨拶か?
さて、解散となるとクルトンはまたシシャモの腕に巻きついて腕輪になった。
「ええっ!?」
「ゐー!〈どうやら、そこがクルトンの定位置らしいな。シシャモ、持っていてもらえるか?〉」
「え、でも、グレンさんのテイムモンスターですし……」
これはおそらく、たまたま俺がテイムスキルを持っていたからと考えるのが正解な気がしてきた。
サクヤがテイムスキルをセットしていたら、そちらに行った可能性もある。
「ゐー!〈これは勘だが、クルトンはシシャモのところに行きたかったんじゃないか?〉」
「そ、そんなことあるんでしょうか?」
「分からないですけど、グレンさんとシシャモさんが大丈夫なら、いいんじゃないですかねー?」
「ゐー〈サクヤの言う通りだな〉」
「いいんでしょうか?」
俺は頷く。
「じゃあ、大切にしますね!」
シシャモは腕輪を握りしめて言った。
ククルカンとククレカレーって似ている。
アイテム名は括る環です。装飾品なので効果はない、はず……。




