198 side︰グレン
三層目を先へと進む。
ダンジョンボス『大いなる永遠、翼ある蛇』を倒すと黄金の財宝が手に入るということだった。
クリスタルゴーレム、アメジストゴーレム、闇の番人は人型の影が凝り固まったような見た目をしていて、物理攻撃無効を持っている。
さらに、ポイズンスライムは高い物理耐性と毒無効を持っていて、全体的に物理攻撃が弱い。
『ベータスター』の出番がほとんどない。
重機関銃は敵に合わせて弾帯の入れ替えが必要で、どうしてもワンテンポ遅くなる。
俺は必死に弾帯を取り替えながら、【エレキトリック・ラビット】で敵の動きを止める。
「ゐーっ!〈よし、右手、撃て!〉」
「はい!」
ドドドドドッ!
爆発的な連射音が響いて、少しずつクリスタルゴーレムを削っていく。
右と左の弾帯を違う物にして、効果的な方を使うようにする。
毒弾と麻痺弾を使い分ける。
これでテンポを縮め、オオミの弾帯交換の隙を作る。
「ゐー!〈【トラップ設置】『落とし穴』!〉」
ゴーレムやスライムは頭が弱い。
目の前で設置しても引っ掛かる。
時間稼ぎになるので使いやすい。
俺たちは先に進む。
「この先が翼ある蛇の巣になりますわ」
ミルクはMPポーションを差し出してくる。
なんというか、ミルクはできた女だった。
常に全員のHPやMPを把握して、休憩を入れるべき時は提案するし、敵の情報、マップ情報なども完璧だ。
避けタンクとしても優秀で、正面から来る敵は確実にヘイトを取って、ほぼ被弾がない。
ただ、少し気になるのは、俺だけ様付けで呼ばれることだ。
同じPKK部隊のにゃんこの日は俺のことをリスペクトしてくれているらしいが、様付けで呼んだりはしない。
普段あまり話してくれないのは、俺の年齢的にジェネレーションギャップがあるからつまらないか、シャイな性格だからかのどちらかなのだろうと思っていたが、俺だけ様付けというのはどうにも距離を感じる。
途中、休憩を取った時に、様付けはやめて欲しいとお願いしたが、どうにも緊張した口調で「そ、そんな恐れ多いです……」と返されてしまった。
たぶん、恐縮ですとかそういうことを言いたかったのではないかと思う。
場にそぐわない日本語選びは、若者特有なものなので、直したくなるが、俺から言うと萎縮させてしまいそうなので、とりあえず、距離があるように感じるから、もう少しフレンドリーにしてくれると嬉しいと伝えた。
「む、無理です、そのようなこと……」
俺は少々嫌われている可能性を考慮に入れた。
ま、まあ、悪い子じゃないのは分かってるんだが、おっさんは少し悲しくなったぞ。
今はパーティーを組んでいるから、質問にも答えてくれる。
なるべくなら、今日の内に距離を縮めておきたいものだ。
そう考えて、ありがたくMPポーションを受け取ることにした。
バシャバシャ被れば、MPは全快して、プレイヤーメイドの良いポーションだと分かる。
ラグナロクの傷跡癒えぬ今、プレイヤーメイドのポーションは貴重品だ。
今、装備部プレイヤーは基地の修復こそ最優先だからな。
翼ある蛇戦は今までの物理攻撃が利きにくいストレスを解消するような戦闘になった。
ウロコによる防御力はあるものの、全部が硬かったり、弾が素通りするようなことはなく、ダメージが計上されていく。
ヤバい。完全に攻撃力過多だ。
「弾、無くなりました!」
シシャモが武器を仕舞う。
「行きます! 【神呑み】!」
「よ、よせ!」
オオミが大声を出す。
普段、無口なオオミにしては珍しい。
シシャモが使ったのは右腕が蛇頭に変じる俺の【神喰らい】にそっくりなスキルだった。
「大丈夫です! これでヒーローも倒せましたから!」
「ち、違うんだ! そのスキルは暴走の可能性が……!」
翼ある蛇の肉が抉られる。
「まだまだぁーっ!」
二撃、三撃とシシャモの蛇頭が肉を抉る。
「うっ……」
「くっ……た、退避ーーーっ!」
それまで優勢だったシシャモが苦しみ始めた。
シシャモの右腕の蛇頭が肥大化していく。
「うっ……ううっ……うああああああああっ……」
「ゐーっ!〈シシャモ!〉」
「グレン、行くな!」
「グレンさんっ!」
「グレン様っ!」
俺は、我知らず駆け出していた。
何故か、放っておいてはいけない気がした。
「うああああああああっ……」
シシャモの意志とは関係なく、蛇頭は肥大化しつつ伸びていき、翼ある蛇を呑み込もうと、頭だけが翼ある蛇よりも大きくなっていく。
「ゐーっ!〈シシャモ、よせっ! 【封印する縛鎖】【打ちつける物】〉」
とにかく止めなくてはならないと思った。
地面から生えた鎖がシシャモを包む。
俺の左腕が弾けて、空中に生まれた細長い岩の杭が俺の両太ももを貫く。
「ゐーっ!〈ぐううっ……〉」
俺が痛みに耐えている間、俺の状態異常を永続にするスキル。
ぶるぶると震える足をどうにか耐える。
「ゐー……〈みんな、ボスを頼む……〉」
オオミが、はたと気付いて大斧に武器を持ち替える。
ミルクがサクヤが武器を手に翼ある蛇へと向かっていく。
───ボス戦を終了します───
それが終わった時、俺は膝からくずおれた。
「グレン様っ!」
ミルクがHPポーションを手に駆けて来る。
傷が治り、ダメージがなくなった。
体力もあり、疲労はなかったが、精神的な摩耗が激しい。
シシャモの鎖が外れて、蛇頭が元に戻っていく。
シシャモもくずおれた。
「ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……グ、グレンさん……すいません……」
「ゐー……〈ああ……大丈夫か……〉」
「なんだか……良く分からなくなって……飲み込まれそうに……」
「ゐー……〈そうか……〉」
蛇がのたくった様な『街』の跡は、シシャモだったのだと、今さっき気づいた。
おそらくNPCドールの何割かは……。
だが、シシャモの記憶には残っていないのかもしれない。
でなければ、あんなスキルは使わないだろう。
俺とシシャモはその場に座り込んだ。




