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「ついに侵入されたか……楽観は出来ぬな……」
黒いモヤが苦渋に満ちた声音で蠢く。
「我が剣と鎧を……」
騎士の装備のNPCドールの顔に「??」と浮かぶ。
「雰囲気程度、味あわせよ……。
持てずとも、着れずとも、飾っておくだけでも心持ちが変わる。
我が剣と鎧がそこにあれば、我とて戦っている気持ちにはなれる。
戦場に身を浸さねば、見えぬものもある!」
騎士のNPCドールは「おいたわしや……」と顔に浮かべて項垂れる。
「……まだ、ピースは揃っておらぬ。
だが、ふたつのフラグは立った。
例えここで倒れようとも、復活の目は残さねばな」
慈愛に溢れる声は、どこか飄々として、少しの物悲しさを感じる。
何のフラグだか分からないが、大首領の言葉の内容からすると、まだ、その時ではない、ということだろうか?
ダメだ。意味が分からねえ。
聞いてもはぐらかされそうだし、まだ終わったわけでもない。
ここでヒーローたちを押し返したら、またゆっくり尋ねる時間もできるだろうしな。
俺は復活した。
「おお、勇者よ! 死んでしまうとはなにごとだ……」
「ゐーんぐっ!〈そんなのに付き合ってる暇はねえ!〉」
大首領の言葉を一蹴して、俺は駆け出す。
謁見の間の扉を潜る直前、俺は振り向いて言う。
「ゐーんぐっ!〈ふんぞり返ってろ! 他のやつらが動揺する。いいな!〉」
「毎度、叱られている気がするな……。
心に留めておこう」
俺は扉を抜けて、廊下を走り、外廊下へと向かう。
ひとつめの欠片は、元気だな。
と、たぶん大首領が呟いた。一つ目の神楽? かもしれない。
まあ、いい。
外廊下で変身、【飛翔】した。
『街』の入り口は閉じられている。
NPCドールの兵士が立っている。四十名は集まっているだろうか。
「ゐーんぐ?〈中の様子は分かるか?〉」
目の前の隔壁の向こうは『警備部』がある。
───敵は現在、『プライベートルーム』のある通りを探索中の模様。
大鷲通りは半壊、ヒグマ通りを破壊しつつ進行しており、オルカ通りの中間にある秘密の通路に気付くのも時間の問題と思われます。
現在、守備の怪人が三名と戦闘員五名、兵士三十名が奮戦中です───
NPCドールは俺たちとは別系統の連絡手段があるんだろう。
もしくは俺たちと同じチャット機能を持っている可能性もあるが、おそらく別系統だと思う。ただの勘だけれどな。
「グレンさん!」「なあ、この隔壁は開けられるバズ?」「グレンさんにシシャモくんもこっちだったピロ?」
シシャモと『エレファントバズーカ』、ムックの変身した『シノビピロウ』がやって来て、口々に言ってくる。
───手動で 、人ひとり通れるくらいは開けられます。行かれるなら、お急ぎを!───
NPCドールたちが隔壁から少し離れたところに隠されたハンドルを回し始める。
隔壁が、ぎ、ぎ、と音を立てて、人ひとり分の隙間を作った。
「行くバズ……」
「ゐーんぐ……〈ああ、行こう……〉」
「あ、待ってください、僕も行きます!」
「グレンさんと組めるなら、文句はないピロ……」
俺たちは隙間を抜けて警備部へと向かった。




