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本日、二話目です!
夜になってラグナロクが迫る。
ぞろぞろとテイムモンスターを連れて『大部屋』に移動。
参加者に配られるポーションセットとお弁当をもらう。
チラッ。
煮物が入っている。人参、大根、レンコン、などを酒、みりん、醤油などで煮付けてある。
色は濃いめだ。
がっつり動いて、濃いめの味付けの煮物に日本酒なんか合わせたら、最高じゃないか。
『魔女すだち』があったよな。あれを日本酒に入れたら、俺でも酔えるようになる。
こりゃラグナロクイベント後に一杯入れてからログアウトだな。
わくわくが止まらない。
ちょっとだけ味見しようかと迷っていると、脳内アナウンスでイベントの開始が告げられた。
「ま、またやっちまった……」「や、やるぞ……やってやるんだ……」「クソ運営のうんこ野郎! ちくしょー!」
少しだけやる気のやつらが増えたか。
オオミ司令が「全部隊移動!」と言いながら、白部隊にだけ待ったをかける。
「おい、ふざけんなよ! 俺たちが行かなきゃ全滅するぞ!」「そうだ、俺たちが別れて支えているから、他のやつらは戦えてるんだぞ!」「ダメだ、幹部は分かってねえ! もう行こうぜ!」
「待ってくれ。君たちは君たちのみが戦っていると思っているのか?」
「だって、そうだろ。昼間の戦闘で何人が死んで復活した? 俺がいた赤の扉なんて、ヒーローが出てきてからズタボロだったぞ! 死んだ赤部隊は全員、避難所行きだ! 誰も帰って来なかったんだよ!」「黄色部隊も似たようなもんだ!」「青は、まあ、じいさんとか威勢のいいのがいるからそこそこは戻って来てたかな……」
「リヴァース・リバースは自由なレギオンだ。戦いを強制する場所じゃない。避難所に行った人たちを誹謗中傷する権利は誰にもない」
オオミは静かに、だがはっきりと告げた。
「それじゃあ、戦っている俺たちはどうなんだよ!」「俺たちが戦わなきゃ負けるんだぞ!」「俺だって好きで痛い思いをしてる訳じゃねえぞ!」
「分かっている。君たちの行動は尊い。
それは尊重するし、レギオンとして感謝もする。だが、君たちだって、無理に戦う必要はない。
レギオンは守りたい者が守る。
痛い思いをしてでも、苦しい思いをしてでも守りたい者が守るんだ。
今、白部隊は流されている。だから、止めた。
俺は司令官として、今一度問いたい。
このレギオンを守るために、痛み、苦しみを味わってでも守りたい理由はあるか?
ない者は避難所に行ってくれ。そして、それを責めないでくれ。
他の誰も、そして自分自身がだ。
昨日と昼間、君たち白部隊がいなければこのレギオンは負けていた。
その働きは何にも勝る。だが、他の部隊を貶める発言は、ダメだ。
戦ったから偉い、死んだから偉いという問題じゃない。
守りたいから守るんだ。
それと白部隊は今後、纏めて運用したい。
当初の構想ではマギスターの疲弊を待って、逆撃の予定だったが、悠長に構えていられないことが分かったからな。
異論があるなら言ってくれ」
「なんだよ……ここまで戦ってやったのは俺たちなのに……戦わなくていいとか……おかしいだろ……」「戦いたくないなら無理するなって話だろ?」「俺はこのレギオンに思い入れあるし、無くしたくないな……」「なんかズルくないか? 守りたくないやつは守らなくていいんだろ?」「それは曲解アミ。ちょっと冷静にならないと大事なことを見逃すアミ」
「はいはーい、ちょっと聞いて下さいねー。
このレギオンを守りたい人ー!
もしくはこのラグナロクイベントに勝ちたい人ー!」
サクヤが手を挙げて、みんなに聞いた。
何人かの手が挙がるが、結構な人数が困惑していた。
「まず、難しいことはいいんです。
素直に考えて下さい。
もう一度、はーい、このレギオンを守りたい人ー!
もしくはこのラグナロクイベントに勝ちたい人ー!」
まあ、素直に手を挙げておこう。
みんなもそう考えたようで、全員の手が挙がる。
「そのために、ちょっとくらい痛かったり、苦しいのが許容できる人ー!」
二人、三人減ったか。
「では、死ぬ苦しみも許容できる人ー!」
半分が手を降ろした。いや、急な質問だな。
それでも半分は残るのが意外と言えば意外だ。
サクヤがオオミを見る。
「まず、この手を挙げている人たちだけで部隊運用を考えるべきですねー。もちろん、辛くなったら避難所で休憩はアリですよね?」
「ああ、無論だ」
「待ってくれ、そういうことなら、俺も頑張りたい!」「ああ、昨日死んだ時は、ホントにしんどかったんだ……だから、死にたくない。でも……復活して少し休憩させてくれるなら、俺ももう少し頑張れると思う」「ああ、俺も!」
部隊が七割になった。
オオミからすれば、白部隊の「俺たちだけが……」というエリート思想や他の部隊への蔑みの壁をなくしたかったのだとは思う。
なし崩しに白部隊は自由行動みたいな特権意識が生まれそうだったからな。
これが進んで行けば、俺たちも『マギスター』のような選民思想に染まっていく可能性は高い。
早めに楔を打って、そういう意識は取り除いておかないと、このまま勝ったら白部隊の集団意識は暴走していたかもしれない。
群れるとこういう時に集団心理が攻撃的になるのは自明の理だからな。
全員が守りたいモノと死の恐怖を、同じ天秤に載せて考えないといけない。
よくあるよな。戦争を題材にした話で、「親や子、恋人や妻のために戦え」ってやつだ。
あれが真理だ。
国のため、大義のために戦えるやつは軍人か一部のそういった教育を受けた者だけだ。
ゲーム内で命の恐怖に勝てるのは、それより大事なものがあるやつだけだ。
言い訳しようもなく、人は自分のためにしか戦えないってことだな。
ん? 個別チャットでレオナから連絡が来る。
レオナ︰グレンさんからお預かりした、ヒーロー側が使用しているアンプルについて、分かりました。
レオナ︰結論から言えば、アンプルはシティエリア産の合成麻薬です。痛みが薄くなり、攻撃性が増すのと、頭が冴えた感じがして、重度の依存性と幻覚作用、恍惚感があります。
実在するものです。
まあ、想像はしていたが、予想以上かもな。
レオナ︰この情報は伏せた方がいいと思ったので個別で連絡しました。
理由は単純で、実在する麻薬の感覚を味わうのは危険が伴うのと、魔法文明世界では人間アバターが高いからです。
グレン︰人間アバターが高いって問題か?
レオナ︰このアンプルは人間アバターに作用するものです。ヒーロー側なら人間アバターに掛かる費用が安いので、ラグナロク終わりに人間アバターを交換してしまえば依存症になることなく済むと思います。ですがウチのレギオンで使えば、人間アバターをそう簡単に交換することが出来ません。
麻薬の味は知るべきではないというのもあります。
現実でも、と考える人間がいないとも限りませんから。
グレン︰なるほど、ヒーローは正体を隠すためにアバターを使い捨てにできるからこそか……。
だが、それでいうなら、ヒーロー側だって現実世界にある麻薬を味わうのは危険じゃないのか?
レオナ︰はい。かなり危険な行為です。
グレン︰でも、運営はそれを止めないってことか?
レオナ︰はい。VR内での麻薬使用に対する法律はありません。そもそもそんな感覚まで再現できるVRは『リアじゅー』だけです。
VR内はある意味、必要悪の側面がある。
現実ではやれないことをVRで満たすことで人間性を保たせるという考え方があるくらいだしな。
VR内麻薬が問題になるとしたら、『シティエリア』の警察機構に怒られる、くらいだろうか。
それも俺たちがこの情報を覚えていられればの話だ。
痛みに関する情報はブロックされると思った方がいいだろうな。
グレン︰どうにかする方法ってあるのか?
レオナ︰この麻薬に関して言えるのは、痛みの緩和が外部刺激に特化しているというのと『マギスター』側もイベント中しか存在を思い出せないということでしょうか。
前二回の『マギスター』側の動きを見ると、終了間際の十分前後は全ヒーローが居なくなります。
おそらく、アバターの交換をしていると思われます。
最後の五分間に出てくるヒーローは絶対に前に出てきていません。
まだ検証数が足りないので、絶対とは言えないですが可能性は高いと思います。
それから、敵基地内に麻薬の合成施設がある可能性が高いです。
そうなると、一度に作れる量に限りができると思われるので、戦闘員はそのままの可能性が高いです。もしかすると指揮官クラスの人員くらいまでは回っている可能性はありますが……。
外部刺激か。つまり身体の内側からの痛みなら普通に感じるってことか?
毒が効いたのはそういうカラクリか。
いっそダムダム弾の使用を提言してみるとか? いや、さすがに非人道兵器は問題ありそうだな。
グレン︰イベント中はポータル使用が制限されるから、か。
下手に情報を流すと『りばりば』側で使いたがるやつが出るかもしれない。
それは避けたいとなると、情報の扱いは注意しないとな。
レオナ︰はい。今、本当に信頼できて麻薬に手を出さないと断言出来る相手をピックアップしています。それが終わるまでは誰にも話さないようにお願いします。
グレン︰分かった。
レオナとのチャットを閉じる。
正直、この状況下ではフレンドも信用できない。リアル設定での死を許容できて、信頼に足る人物か。
ムックやにゃんこの日辺りだろうか?
考えていると、戦況を見ていたオオミが白部隊に命令を下す。
「白部隊は青の回廊に投入。完全制圧を狙ってくれ」
オオミは完全制圧と言った。
ヒーローを抑えての時間稼ぎではない。
これぞまさに「死んで来い」だ。
その辺りをサクヤが噛み砕いて全員に説明している。
「怪人だけで敵の全戦闘員壊滅は無理ですねー。
突っ込んで白兵戦の準備と、敵基地内での戦闘準備も考えましょうかねー」
「は、白兵戦……」「基地内はシティエリアだよな……」「うああ、くそ、斬り合いとかリアル設定じゃなけりゃテンション上がるのによ!」
俺たちは青の回廊へと進んだ。
ちょっと遅くなりました。




