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「ゐーんぐっ!〈よーし、お前ら頼むぞ!〉」
「きうー!」
「マメー!」「フシュー」「アレーコレー」「カブー!」
俺の周りにはテイムモンスターたちが群がっている。
こうして見ると、テイムモンスターを連れたやつはチラホラ見かけるが、皆、大人しいんだよな。
無駄に鳴いたりしないし。ウチのやつらは、うるさい上に落ち着きがない。
何が違うのか……。
───ラグナロクイベント、スタートです───
───マギスターより回廊が繋がれました───
「チーム・レッド。侵入して下さい!」
今回も糸が司令官役だ。
「「「イーッ!」」」─GO!─
赤部隊と百人ほどのNPCドールが現れた扉に入って行く。
───マギスターより回廊が繋がれました───
「チーム・ブルー侵入して下さい!」
やはり青部隊と百人ほどのNPCドールが新しい扉に入って行く。
すかさず何人かのNPCドールが、赤部隊、青部隊の入った扉にペンキで色を塗る。
なるほど、わかりやすいな。
さらにNPCドールが百人ずつ、ふたつの扉の前に陣取った。
俺は自分の画面からイベント詳細を確認する。
イベント詳細。
感覚設定は全員リアル固定です。
イベント内容は脳保護の観点から記憶ブロックされる場合があります。
これだけだ。詳細も何も、一番重要なところだけ伏せておきましたというだけの詳細。
悪いが、レギオン存続のためだ。
俺も口をつぐませてもらう。
俺は画面をそっと閉じた。
十分ほど経っただろうか。
───マギスターより回廊が繋がれました───
と、脳内アナウンス。
「チーム・イエロー、侵入して下さい!」
待っている白部隊がざわつき始めた。
「なあ、これ……」「は? 聞いてねえぞ!」「え、ヤバくないか……」
暇になってイベント詳細を確認したか。
その直後だ。数人の戦闘員が『大部屋』で復活した。
彼らは一様にぼう然としていて、復活したことにも気付いていないようだった。
「だ、大丈夫か……」
白部隊の一人が声を掛ける。
「あ……え……ああ、復活した……え?
ちょ、ちょっと待って……」
復活した戦闘員が画面をいじるような動きを見せる。
感覚設定の確認でもしているのだろう。
「なんで……」
「イベント詳細を見てくれ……」
白部隊員が告げる。
「は? リアル固定!?
いや、無理だよ……心臓止まったんだぞ……」
「どうかしましたか?」
糸が聞く。
「おい、俺死んだんだよ!」
「え? ええ……」
「むちゃくちゃ痛かったんだ! 設定リアルってなんだよ!」
「そうだ、なんでこんなことに……痛みがあるなんて聞いてないぞ!」
他の復活した戦闘員も騒ぎ始めた。
「おい、設定リアルじゃゲームにならねえよ!」
「幹部会は情報が前もって来るはずだろ。もしかして、知ってて隠したのか?」
わーわー、とだんだん騒ぎが大きくなってきた。
「みなさん、落ち着いて下さい!
今、ご説明します! とにかく落ち着いて!」
「これが落ち着いていられるわけないだろ!」「なんでリアル設定なんだよ!」「本当の死の痛みなんて、脳障害が出たらどうすんだ!」
ドン! ドン! とNPCドールたちが槍の石突を一斉に床に打ちつけて大きな音を出した。
「落ち着いて下さい。たしかに普段のイベントなら幹部会に先に情報がもたらされますが、今回のリアル設定については情報はありませんでした!
嘘ではありません! 情報はありませんでした!」
「ど、どうすんだよ……」「無理だ俺、ログアウトする」「お、俺も……」
「聞いて下さい! 確かに情報はありませんでした。ですが、シャーク団とのレギオンイベントの発端となった事件、一部メンバーがラグナロクチートというチートコードを撃ち込まれて、その時の効果が復活位置の固定と感覚設定100%というものでした。
そのことから参謀部と幹部会では、感覚設定リアル固定になる可能性についてはある程度、予測を立てていました」
「はあ?」「最悪じゃん……」「それ知ってたってことだろ?」
何人かがログアウトしていった。
「知っていたんじゃありません。可能性を考えていただけです!
では、逆に聞きます。みなさんはこのレギオンがなくなっても良かったですか?
マギスターも同じ条件でやっています。
特に白部隊のみなさん。
白部隊に選ばれたみなさんは、最低一度でもリアル設定での死亡経験者のみで構成されています。
そのあなたたちにここまで取り乱されたら、守れるものも守れなくなります!
全員が経験しているはずです!
天然食材を味わうためにリアル設定にして、そのままフィールドに出て、死亡者が多発しました。その時のあなたたちの証言を参考にこの部隊は選ばれています。
その後、脳障害を起こした方はいますか?」
いたら、この場に居るはずがないんだよな。
それでも、そのひと言は全員を黙らせた。
だが、納得できないやつは、やはり居る。
「でも、自分でミスって死ぬのと、強制されるのは違うだろ……」
「そう思う方は戦闘に参加しなくて結構です。幹部会で用意したプライベート空間の避難所へどうぞ」
「いや、ログアウトするよ……」
そいつがログアウト宣言をした時、新たにログインしてくるやつらがいた。
「え、あ……記憶ブロック……」
ログインしたやつは白いドッグタグをぶら下げている。
それから、がっくりと膝を落とした。
「やっぱり……何故ログアウトしたのか覚えていなくて、またログインしてきた。違いますか?」
「わ、分かるのか?」
「おそらくイベント詳細の記憶ブロックのせいだと思います。
どうしても戦いたくない、戦えない方は避難所へどうぞ……先ほども言いましたが、本来、みなさんはこのレギオンを残したいと考えたから残ってくださったのだと思います。
おそらくイベント中の痛みの記憶はみなさんに残りません。
このゲームの運営はこういうことをする運営なんです。
ここの運営の頭がおかしいのはみなさんご承知のはずです!
おそらく、今日が終わってログアウトしたら、僕の記憶からも大事な部分は抜け落ちて、明日またログインするでしょう。
そしてイベントが始まってから後悔する……。
全員条件は同じです。
それでも戦えないという方に、我々、幹部会は戦いを強制しません。
その分はここにいるNPCドールたちが埋めます」
ドン! ドン! とNPCドールたちが槍の石突で床をまた叩いた。
「お前ら幹部は高みの見物だろ!」「そうだよな……」「俺たちだけに戦えって言うのはおかしいだろ!」
「戦いますよ! 幹部会も参謀部も装備部も全員、交代制で戦場に出ることは決定しています! 全員が戦います! 僕だって怖い……予測して、でも、その予測が外れることを祈ってましたよ……まさかそんなことするはずないって……でも、やっぱり運営はクソだったんです!
なんで、ゲームでこんな思いをしなくちゃいけないのか……うぅっ……司令官だって本当は嫌なんです! しかも初日なんて……皆から責められるの僕に決まってるじゃないですか! でも、レオナさんはみんなの装備作らなきゃいけないし、オオミさんもジョーさんもまずは死んで来るって……絶対、痛いですよ……痛いの嫌なのに……でも、幹部だから我慢してくれって……みなさんは辛かったら避難所がありますけど、僕は強制参加なんですよ! それでも、それでも……僕は死んでも復活できますけど、NPCドールたちは死んだら帰って来ない……せっかく友達になれたアオトリさんも、いつも相談にのってくれるシロシカさんも、居なくなったら、嫌なんです! それなら、僕が死ぬ! 僕が代わりに死んでも戦うしかないんですよ……うぅっ……」
糸はむちゃくちゃ泣いていた。
色々なものが溢れ出したのだろう。
そんな中、一体のNPCドールが壇上に上がった。
───アオトリです。糸さんはこう言ってくれていますが、無理はなさらないで下さい。
私たちはNPCで、私たちの国はこのレギオンです。だから、私たちは私たちのために戦います。プレイヤーのみなさんに戦う義務はありません。本当は糸さんも強制で参加はして欲しくないです。ここはみなさんにとってゲームで、遊ぶための場ですから。
お話を聞く限り、ログアウトというのも効果がないようなので、避難所へ行って下さい。
そこに入りきらないようでしたら、私たちの家に隠れて下さい。敵の狙いは王様……大首領様だけです。おそらく家の中まで探しには来ないはずです───
アオトリは糸の頭を優しく撫でて、それからNPCドールの兵士の列に戻った。
「な、なあ、肩パッド! 死ぬってどんな感じなんだ?」「そうだよ、たしか肩パッドは普段からリアル設定って言ってたよな?」「頼む、肩パッド、俺たちに勇気をくれよ!」
一人が言い始めると皆が俺に寄ってくる。
「きうー!」「コケーッ!」「おにおーん!」
テイムモンスターの何匹かが叫んで、場を鎮めようとするが、逆にうるさい。
「ゐーんぐっ!〈【飛翔】!〉」
俺は空中に逃れて、壇上へと向かう。
途中、サクヤが手を上げてアピールしてくるので、その手を掴んでサクヤを引っ張り上げる。
「翼……」「またなんか属性増えてる……」「いいから黙れ!」
俺は壇上のマイクを取る。
糸はまだ泣いている。
「ゐーんぐ!〈サクヤ、通訳頼む〉」
「もちろんですねー」
サクヤにマイクを渡す。
「ゐーんぐ!〈聞いてくれ! リアル設定でのデスは死ぬほど痛い。ただ、一撃死なんかだと意外と痛くない時もある。
一番、痛いのは、死ぬに死ねない時だ〉」
「これ逆効果じゃありません?」
「ゐーんぐ!〈嘘吐いてもしょうがないだろ。
俺に痛みは死が近づく信号だと言った人がいる。死は終わりだ。だから怖いんだ。
でも、考えてみてくれ、これはゲームで、死は終わりじゃない。次が約束されている。
身体が冷たくなっていく感覚も、自分の心臓が身体から飛び出す感覚も全部怖い……それでも終わりじゃない。
俺は死んだら、どうして死んだのかを考えることにしている。
客観的に自分がどう死んだのかを考える。
身体の中で何が起こったのか、何が痛かったのか、そうすると少しだけ冷静になれる。
怖いものを見ないようにすればするほど、怖さは増す。想像の恐怖に支配されていく。
たぶん、辛いのは痛みじゃない。恐怖だ。
でも、お前たちは痛みのない死は散々体験している。
ヒーローに一発殴られたら死ぬ世界だからな。痛みに忘れているだけだ。
俺たちは既に死に慣れている〉」
「くそ! 肩パッドの話が一個も参考にならねえ!」「どうやって自分が死んだのかとか、そんな猟奇的なこと考えてんのかよ!」「ダメだ、肩パッド、頭、おかしい!」「もう、アレだ。試すしかない!」「そうだな。肩パッドみたいなサイコパスになれないやつは、自分で正解を見つけるしかないんだ!」「そうか?俺はちょっと勇気出たぞ」「お前もそっち側か裏切りもん」「肩パッドみたいな魔改造戦闘員に勇気をもらおうなんて、俺たちが間違ってたんだ!」「おい、糸司令官! 俺たちに早く死んで来いって言え!」「そうだ! 待ってる方が怖い!」「たしかに経験してるしな……無我夢中で記憶は曖昧だけど……」「それ、クソ運営に記憶ブロックされてんじゃないのか?」「ありそう……クソ運営だしな」
「み、みなしゃん……」
糸が顔をぐしゃぐしゃにしながらみんなを見た。
「どこでもいいから、とりあえず試させろ!」「そうだ!」「いいか、なるべくNPCドールを待機させろよ!」「おう! 命かけてやんよ! 終わらんけど……」
「ぐっ……では、チーム・ホワイトはチーム・レッドの援護を!
僕も……僕も必ず死にますから!
お願いします!」
「「「イーッ!」」」
白部隊が気勢を上げて赤い扉に突撃していく。
「じゃあ、私たちも行きますかねー」
「ゐーんぐ?〈あいつら勇気をくれとか言っておいて、手のひら返し、早くない?〉」
「きっと照れ隠しじゃないですかねー?
かわいいじゃないですか」
いや、まったく可愛く思えないんだが……。
「ゐーんぐ?〈それにしても、サクヤは慣れてる感じがするな?〉」
「ええ、ラグナロクイベントが始まって、思い出したんです。前のラグナロクイベントの時のこと」
そう言ってサクヤは自分の頭を指さした。
そういえば、経験者だったな。
俺たちは赤い扉に突撃した。
なんか色々と物議を醸しそうですが、これはこういうゲームです。
運営に言わせると「仕様です」。




