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今日はお昼に短い二話目の更新があるよ!
黒いモヤこと大首領様が蠢き始める。
地の底から響くような声が聞こえて来る。
「名は……」
「ゐーっ!〈グレンだ〉」
「我こそが大首領である」
知っている。だから、頷くに留める。
「此度の戦争イベント、ご苦労であった。
グレン、そなたの活躍目覚しく、褒美を取らせる。つまりMVP報酬だ」
「ゐー?〈ありがたいが、俺で良かったのか? 大局的に見れば作戦を考えた参謀部や他レギオンとの共闘をまとめたレオナ辺りが妥当な気がするぞ?〉」
「そこは別でフォローする。グレンが気にする必要はない」
そ、そうか。どうにもメタ発言が多くて、普通にプレイヤーと会話している気になってくるな。
「さて、グレンよ。そなたのステータスページを開いてみよ。これまでの働きに報いるべく、新しく我が司りし権能をそなたに授けよう……その名もガチャ魂ランダムランクアップ」
「ゐーっ?〈ランダムランクアップ?〉」
黒いモヤが楽しそうに蠢いていた。
「うむ、そなたが持つガチャ魂の中からランダムでひとつだけ、星をひとつ増やすというものだ」
───魂よ! 空と海と大地から受け継ぎし星の源を思い出せ。月と星と太陽から得た記憶を呼び覚ませ。木の根を辿れ。次元の狭間に囚われし真実を解放せよ───
───ランダムランクアップ───
どこからか声が聞こえた。それは両親が同時に話しているようで、また、俺自身の声にも聞こえる。
俺のガチャ魂のセット画面でガチャ魂が順番に光っていく。
『フェンリル』『ロンリーウルフ』『ダークピクシー』『グレイプニル』『カラーテラビット』……。
これ、誰かに必要ないガチャ魂を預けたら、確定ランクアップできるんじゃないか?
そう思ったが、同時に別のことも思う。
……何故かそれをやったら、預けたガチャ魂は二度と戻って来ない気がする。
ガチャ魂に嫌われる? いやいや、馬鹿なことを。
俺はゲームシステムに何を言っているのか……。
光が止まらない……いつまでも順番に光るばかりで一向に止まる様子がない。
「ふむ、初の試み故、失敗したかも知れぬ……」
大首領が呟く。
「だ、大首領さま……?」
それまで控えていたレオナが心配そうに大首領を見ていた。
「ああ、待て、待て……やり方は間違えておらんのだ……だが、いちおう、マニュアルをもう一度……」
黒いモヤが台座に吸い込まれるように、ヒュポッ……と消えた。
俺たちプレイヤーは放置だ。
未だ、光は俺のガチャ魂間で右往左往している。
「ゐー……〈なあ、これ、なに……?〉」
「さ、さあ……私たちも初めてで……」
「運営に連絡しましょうか?」
糸が不可視の画面を操り始める。
だが、オオミがそれを止める。
「糸、おそらく逆効果な気がする。大首領様のお戻りをしばし、待て」
「そうですね……もしかしたら、一発目からレアなイベントを引いた可能性もあります。グレンさんですし……」
「ゐーっ!〈いや、俺は関係ないだろ!〉」
糸、その納得したような目はなんだ。
オオミ、何故、目を逸らす。
なんともいたたまれない時間が過ぎて、玉座から黒い煙が噴き出した。それは玉座で漂い、集まり、黒いモヤになる。
「……間違っておらんはず……」
───魂よ! 空と海と大地から受け継ぎし星の源を思い出せ。月と星と太陽から得た記憶を呼び覚ませ。木の根を辿れ。次元の狭間に囚われし真実を解放せよ───
───ランダムランクアップ───
止まらない。むしろスピードアップして光が俺の画面上のガチャ魂を照らして、目がチカチカする。
「ううむ……参ったな……」
───魂よ! 空と海と大地から受け継ぎし星の源を思い出せ。月と星と太陽から得た記憶を呼び覚ませ。木の根を辿れ。次元の狭間に囚われし真実を解放せよ───
───ランダムランクアップ───
フッ……と光が消えた。どれも光っておらず、画面が通常に戻った。
「なんと……アレだけ権能を使わせて、ランクアップなしとは……いかん、フラフラする」
黒いモヤが揺れていた。
「ゐー……〈えーと、これは?〉」
「見ての通り、失敗と言わざるを得ぬ……グレンへの褒美を変える。何か欲しいものはあるか?」
俺はがっくりと項垂れた。期待させておいて、これか。
まあ、逆にこちらから要求できるようになったのはありがたいか。
「ゐーっ!〈貰えるなら戦闘に使える汎用性のあるガチャ魂が欲しい〉」
思いきって要求してみる。
そう、今まで心の奥底に沈めていた物欲が、この好きなものをもらえるというチャンスに、開花したのだ。
汎用性……俺の憧れである。
「汎用性か……グレンよ、そなたの考える汎用性とはなんだ?」
「ゐーっ?〈そりゃ、いつでも使えて、無駄にならないスキル群だと思うが?〉」
「ふむ、ならば糸、それに合致するガチャ魂はあるか?」
「ええと……能力値パッシブアップでしたら、力に+10される『炭鉱夫』、器用に+15される『細工師』、ああ、今流行りの『傭兵』なら力、器用、素早さに各+5されます。他にはHPに+50される『大蛇』、同じく+30の派生アーツが取れる『大蟆』、防御能力がつく『カトブレパス』『カーバンクル』とかオススメですね……」
俺は糸の言葉を聞きながら、考え込んでしまう。
俺が欲しかった汎用性は、こういうことだったのだろうか?
何か違うな……。ヒーロー相手に能力値を増やしてもほとんど意味はない。
HPや防御能力もガチャ魂ひとつで上げられるのは限界がある。やるならふたつ、みっつと重ねて持っていないと意味がない。
今、ここで最初のひとつめをゲットするという意味ではアリだが、気の遠くなる話だ。
最初に下地として持っていれば別だが、今からそういう方向に進むのは、無理がある。
「ゐーっ!〈移動系! 移動系スキルのガチャ魂とかあるか?〉」
前に静乃と、移動系スキルは強いという話をした。相手の思惑を外せるからだ。
「移動系ですか……『シノビ』『バッタ』『ホース』系は人気で在庫がありませんね……星ひとつじゃ報酬になりませんし……」
「ゐーっ?〈なんてやつだ?〉」
「エレキトリック・ラビット☆というガチャ魂で、ああ、ガイア帝国との取引でついてきたオマケですね……」
ガイア……嘘つき……うっ……頭が……。
これはもう、運命だと思う。
きっとあのガチャ魂に違いない。
「ゐーっ!〈それだ! 頼む、それをくれ!〉」
「それは構いませんが、第一フィールドで狩りまくれば、拾える程度のガチャ魂ですよ?
あと、言いたくないですが、使い勝手が悪いです」
「ゐーっ!〈いいや、それだ! それが欲しい。あとはどうでもいい!〉」
「糸さん、グレンさんの望み通りに……。
それと、グレンさん、残りはこちらで選んでも構いませんか?」
「ゐーっ!〈ああ、構わない。レオナに任せる〉」
「ありがとうございます。では、後でお届けに上がりますね」
俺は『電極兎☆』のガチャ魂を受け取って、下がる。
オオミに案内されて、来た道を戻る。
ついに手に入れたな『電極兎』。
戦闘時は『電極兎』、普段は『農民』スキルと使い分けが可能になった。
昨日の『作戦行動』でかなりレベルも上がっているしな。
さっそく、レベルアップ作業でもしよう。
俺はホクホク顔で『プライベート空間』へと向かった。




