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何故か俺は自分の『プライベート空間』にいて、机を挟んでレオナとベンチに向かい合わせに座っている。
この場面が現在、大画面に映し出されているらしい。
俺の少し後ろには通訳の糸がいる。
レオナが話し始める。
「はーい、それでは、皆さんお待ちかね。
レオナとグレンの座談会を始めたいと思いま〜す!
わ〜! ぱちぱちぱち〜!」
俺は一瞬、びっくりして目を見開いてしまう。
「なんですか? キャラじゃないとか思ってます? 余計なお世話ですよ。戦争イベントも勝利したことですし、たまには騒ぐのもいいじゃないですか。ねえ?」
あ、正面はそっちって設定なのか。
「さてさて、それじゃあ、さっそく色々と聞きたいところではありますが、その前に……」
レオナは立ち上がって、俺の前で不可視の画面を操りはじめる。
「はい。こちらグレンさんのプライベート空間、通称グレンファームからお届けしたいと思います。ほら、見てください、皆さん!
ここで天然野菜が作られているんですね!
あちらの奥では、小麦とお米、川を挟んで様々なお野菜が作られております。
ところどころにベンチセットやグランピング施設、あちらの樹木エリアではハンモックでお昼寝もできちゃう、ゆとり空間。
周囲の風景も長閑な農村地帯風の見た目に調整されていて、お仲間さんとバーベキューをしたりして遊んでいらっしゃるそうですよ!
また、この空間ではグレンさんのテイムモンスターたちが暮らしていて、そういった意味でも癒し空間になってますね!
ちなみにこちらのプライベート空間、幹部会からの肝入りでこれだけのスペースになっていて、ここで作られる半分が、このプライベート空間の借金返済に充てられているんですね!
農民スキル持ちの皆さん。
チャンスですよ。こういったプライベート空間を持ちたいと思ったなら、幹部会にご相談下さい。
なーんて、最初に宣伝を入れさせてもらいましたが、さて、ここからが本題です。
ズバリ、今回の戦争イベントを通して遊んでみて、いかがでしたか?」
レオナがようやく座ったと思ったら、いきなりの核心的質問をしてくる。
「ゐーっ!〈熱くなれた。フレンドが増えたのもあるが、よりリアルを感じたな〉」
「そういえば、グレンさんは食文化の貢献もそうですが、感覚設定がリアルだとお聞きしました。それはいつでも、ということでしょうか?」
いや、レオナなら知ってるだろってツッコミはダメか?
ようは『りばりば』チャンネルってことだもんな。
「ゐー〈ああ、はじめて感覚設定をリアルにしてから、下げたことはないな〉」
「戦闘中も?」
「ゐー〈ああ〉」
「死ぬ時のリアルって痛いですか?」
「ゐー〈痛い。それこそ死ぬほど痛い。でも、下げようとは思わない。下げたら熱が感じられなくなりそうだからな〉」
「熱、ですか……例えばフィールドボス戦など、感覚設定が上がりますよね?
その時の影響などは?」
「ゐー!〈ない。同じだな。雑魚敵に殺されても、フィールドボスに殺されても、痛いものは痛い〉」
「それはたしかに、熱を感じるかもしれませんね」
通訳に徹しているはずの糸に後ろから覗き見られた。
「グレンさんの活躍の裏には、この熱というキーワードがありそうですね。
それでは、もう少し掘り下げて、ヒーローについて質問してみましょうか。
戦争イベントを通して、手強いと感じたヒーローはいらっしゃいますか?」
「ゐーっ!〈全員が手強いと言いたいところだが、そうだな……単純に怖かったのはマギブロンズだな〉」
「マギブロンズですか。どの辺りが怖かったですか?」
「ゐーっ!〈死なない。ある種、ゾンビに襲われているような怖さがあった。どれだけダメージを受けても、まっすぐ突っ込んでくるしな……あれは化け物だった……〉」
そんな話をしていると、何故か俺のフレンドたちが集まって来て、ニヤニヤとしながらレオナの設定した正面方向、つまり画面に映らない特等席で鑑賞しようと集まって来ていた。
「なるほど、今まで二流、三流と揶揄されていたヒーローですが、グレンさんとは相性が悪かったということですね。
他のヒーローはいかがですか?」
「ゐーっ!〈ホワイトセレネーだな!〉」
「ホワイトセレネーですか。それはまたどうして?」
「ゐーっ!〈スキルの習熟度が高い。戦闘中にアイツが言っていたんだが、雨みたいに光の矢が大量に降ってくるスキルあるだろ。アレがどこに落ちるのか、全部理解していると聞いた時に、ゾッとした。それと単純に遠距離タイプなのもツラい。俺のスキルは近距離の方が充実しているからな〉」
「近づくまでに射殺されるということですね。
グレンさんの場合、肩パッドとして名前が売れて、すでにスキルなども半ば以上が研究されていますよね。それについてはどうお考えですか?」
「ゐーっ!〈正直、ツラい。何故か皆から目の敵にされるしな。ただスキルは変わるものだし、使い方次第で化けるものもある。今まではただの戦闘員として戦ってきたが、ここまで狙われるのなら、今までの戦い方ではない戦い方が求められて来ているのかとは思う〉」
「変化を恐れないということでしょうか?」
「ゐー〈変化。そうだな〉」
「キメラ化のことミザ」「ぶふっ」
今、余計なチャチャが入ったぞ、おい。
「フレンドの方たちが集まって来てくださいましたね。
それじゃあ、せっかくですから、フレンドの方にも少しお話を聞いてみましょうか?
グレンさんの良さってどういうところでしょうか?」
レオナが立ち上がって、フレンドたちの方へと歩く。
やめろ、なんでまっすぐサクヤの方に行くんだ。悲惨な未来しか見えねえだろ。
「ああ、私ですかー。
そうですねー。グレンさんの良さはなんと言っても、年下に慕われる包容力ですかねー」
え? まさか……サクヤがまともな事を言うだと……。
「包容力ですか……」
「そうなんですよー。かわいいオジサンですねー」
おい!
「もう一人、聞いてみましょう!」
スルーか。いや、スルーが正解な気がするな。
レオナが次に目をつけたのは煮込みだ。
なんで、そういう聞いたらダメなやつばっかり選ぶんだ……。
「ズバリ、グレンさんの良さとは?」
「大胆な発想力ミザ! 始めてから日が浅いからこそ気付けるものもあるミザ。これまで、ヒーロー側戦闘員は経験値にならないただのお邪魔虫だったミザ。それを排除することで結果的にヒーローを倒せるようになったのは、グレンが献身的な姿勢を見せてくれたからミザ」
「確かに決死隊の発想はグレンさんの発案です。レギオンとしても自発的にそういう流れが生まれたのは、ありがたいことでしたね」
俺は目を丸くする。煮込みまで、まともなことを言う……だと……。
「最後にもう一人、聞いてみましょうか?」
レオナが最後に選んだのは、シシャモだった。
シシャモなら変なことは言わない。ちょっと安心する。
「あ、えっと……その……グレンさんは……すごく、優しいです。
だから、僕は、グレンさんといると安心ですし、楽しくて……その、心がウキウキするんです……グレンさんのためなら、僕、何でもできるんじゃないかなって……あ、そ、その変な意味じゃなくて、惚れてるっていうか……あ、いや、ホント、変な意味じゃないんですけど、人間として尊敬して……ます……」
「変な意味じゃないんですねー?」
何故か横からサクヤがシシャモに聞いた。
「は、はい。変な意味じゃないです!」
「ぶふっ……念押しズルいミザ!」「す、すまん……ちょっと頭を冷やしてくる……」「シシャモ×グレン……ふふっ……」
coinはふらふらと川の方に行ってしまうし、新しくフレンドになったみるくはニヤニヤしている。
なんだろうな。変な意味じゃないを連呼すると変な意味に聞こえて来る……クソ、サクヤめっ! それが狙いか!
俺は言い様もなく震えた。
「ありがとうございました。フレンドの皆さんから慕われているのが伝わったかと思います。
さて、皆さんとしては、やはりグレンさんのスキルが気になるかと思います。
本来ならスキル情報は秘匿するのが一番だとは思いますが、いちおう聞いてみましょう。
もちろん、答えたくないものは秘密にしていただくとして……グレンさんの中で、これは、というスキルをひとつだけ教えてください。
答えたくなければ、それでいいですよ」
レオナが元の位置に戻って、インタビューが再開する。
「ゐー……〈ほとんどのスキルがバレてるからな……少しでも情報は絞りたいんだが……まあ、それじゃつまらないよな……〉」
俺は少し考える。
「ゐーっ!〈えーと、何が聞きたい? ひとつだけ答えるよ〉」
「それじゃあ、やっぱり鎖SMと呼ばれる、あの地面から出る鎖スキルですかね?
あ、もちろんスキル名称などは内緒で大丈夫ですよ」
「ゐーっ!〈アレか……アレは『麻痺』『盲目』『暗闇』『猿轡』『回復無効』『行動阻害』を与える必中スキルだ。ダメージはない〉」
「かなり強烈な効果ですよね?」
「ゐーっ!〈代償として、片腕が弾け飛ぶけどな!〉」
「痛いですか?」
「ゐー……〈齧り取られるような痛みがある……〉」
「そうなんですか!?」
今まで通訳をしていた糸が思わずという風に声に出す。
「糸さん……」
「あ、すいません……」
「なるほど、あまり乱発されないと思っていましたが、代価の大きなスキルなんですね」
「ゐーっ!〈ああ、それと体感だが致命的な状態異常ほど先に解除されていく可能性が高い。
どちらかといえば、牽制のためのスキルだな〉」
「うーん……このスキル情報は観ている皆さん、秘密でお願いしますね!
あくまでもグレンさんの厚意による情報ですから。
私との約束ですよ!」
実はこのスキルのくだりだけは、最初から用意されていたものだったりする。
バレたところで必中スキルなので対処が難しいからだ。
ヒーローだと、状態異常回復薬を各症状に合わせて使う暇があるなら、暴れた方がマシだからな。
まあ、みんなが気になるスキルの内、ひとつをバラすことでガス抜きにしようという意図があるらしい。
「さて、そろそろいい時間ですね。最後にひとつだけ。あなたにとっての『リアじゅー』ってなんですか?」
「ゐーっ!〈ひと言でまとめるなら。第二の人生、だな〉」
「今日はおつきあいありがとうございました!
反響が良ければまたやるかもしれません!
皆さん、戦争イベントお疲れ様でした!
りばりば、ばんざーい!」
「ゐーっ!〈ばんざーい!〉」
こうして、謎のTVショーもどきが終わった。
これで良かったのか謎だが、俺はログアウトしたのだった。
明日はレオナに時間をとって欲しいと言われている。
なんだか分からないが、それは明日のお楽しみらしい。なんだろうな?
おまけ
「一番、おいしかったヒーローは?」
「美味しかったヒーロー!?」
「はい、相性が良かったヒーローといいますか、戦いやすかったのは誰ですか?」
「あ、そっちか……」
「え、どっちですか?」
「いや、なんでもない……どのヒーローも手強かったな……ただ甘いのは、俺が殺されずに終わったリリー……」
しばし、考え。
「待てよ……刺激強めのマギシルバーも捨て難いが柔らかさでいえばロータスフラワー……」
「なんだか妙な批評ですね?」
「あ、そうか、そっちの話だったよな」
「え、どっちの?」
「個人的にはサメたこ焼きと戦ってみたかったな〈食事的な意味で〉」
「そ、そうですか……なんだか微妙に噛み合ってない感じになっちゃいましたね」
「そうなんだよ、噛み合いたかった……」
すいませーん。NGでーす!




