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『遊興区』のポータルから出て、俺は用意されている軽トラに飛び乗った。
自動運転解除。スタート。発進。
目指すは遊園地。アクセル全開で俺は軽トラをとばす。
そこが近づいた時、脳内アナウンスが流れる。
───現在、『火炎浄土』『リヴァース・リバース』VS『ヴィーナスシップ』『マギスター』によるレイド戦中です───
───プレイヤーは参戦するか決めて下さい───
もうこの辺りは範囲内らしい。
今の俺は透明化していることだろう。
『遊園地』入口脇に搬入口が併設されている。
やはり入口は開いている。
よし、参戦だ。
俺は参戦を選んだ。
おそらくヒーローレギオンが使っただろう搬入口に軽トラごと入っていく。
中央広場手前には『ユニコーンガン……』が爆破した車両の瓦礫が落ちていて、戦場はより奥へと動いている。
メリーゴーランドの辺りに新しい車両が並んでいて『マギスター』の戦闘員と『ヴィーナスシップ』の戦闘員が好き勝手に攻撃している。
「ゐーっ!〈よし、行くか!〉」
人間アバター解除。【サーベルバンパー】、【ベアクロー】起動。
おっとそうだ。目立つなら配信可能に設定も変えておこう。
俺の顔が熊になって牙が伸びていき、さらに両手足の爪か鋭くごつくなっていく。
俺は軽トラのスピードを上げて、当たる直前に復活石を持って飛び出した。
慣性に従って軽トラは進み、『マギスター』車両に向かう。
「なんだ?」「おい、おい、待て」「避けろー!」
ドン、ガッシャン! 軽トラが『マギスター』車両の横っ腹に刺さって、注目を集める。
「なんだガン……」「ウチの車ブレ」「今度はなんだ?」
軽トラに意識が集まっている隙に、植え込みの中に復活石を投げ入れて隠す。
「ゐーっ!〈狙い撃つぜ! 【一揆呵成】〉」
俺の蠍尻尾から『熱毒』貫通ビームが『マギスター』戦闘員を穿つ。
『ヴィーナスシップ』戦闘員は残り数人しかいなくなっている。『リリーフラワー』が死んだ穴は大きかったようだ。
俺は走り込んで、インベントリから抜いた『ショックバトン』を振り回す。
「か、肩パッドだー!」「なんでだ? 消えたんじゃなかったのか!?」「う、撃て!」
【野生の勘】に従って、ビームを避けたら【正拳頭突き】。
ぐらついた戦闘員に『ショックバトン』一撃でそいつは粒子化する。
蠍尻尾で【一刺し】して、背後を牽制、他の戦闘員が固まっているところに【回し蹴り】。
拳銃を抜こうとしているやつの手を【自在尻尾】で叩き落として、弱った戦闘員の頭に『ショックバトン』。
そうして、混乱を巻き起こしてやると、すっかり戦闘員狩りに慣れた『りばりば』戦闘員たちがなだれ込んで来て、戦闘員同士の乱戦になる。
「イーッ!」「くそ、同士討ちになる撃つな! スキルで対処しろ!」「イーッ!〈グレンさん、美味しいとこ来ましたねー〉」「おい! ヴィーナスシップの応援はねえのかよ!」「ゐーっ!〈おう、なるべく目立とうと思ってな【逃げ足】〉」「お前ら仲間のためにとか流行らねえんだよ!」
いやいや、こんな集団戦が基本の『リアじゅー』で何を言っているのか。
仲間と遊ぶから、面白いんだろうが。
『ショックバトン』を振り回し、キックバフを存分に活かして蹴り飛ばす。
「そこまでにしてもらおう! 【飛鉄拳】!」
俺は正面から『マギアイアン』のパンチ型オーラを食らって吹き飛んだ。
もちろん、【サーベルバンパー】は一撃で部位破損だ。
『マギアイアン』が【バネ式跳躍】を使って、戦闘員同士の乱戦に飛び込み、猛威を振るう。
相変わらずのバイクモチーフスーツは少し新しくなっていて、旧式エンジンの色が銀から黒鉄色、全体的により渋みを増したカラーリングになっている。
やはりヒーローが一人来ると、『マギスター』戦闘員の心持ちも変わるのか、急に息を吹き返して反撃が激化する。
だが、俺としては、ニヤリとするところだろうな。
今、『イナリスター』は三人の怪人から狙われている。
「コン虫標本みたいに縫い付けてやるホッチ!
【芯弾】ホッチ!」
「ぬおっ!」
『麒麟ホッチキス』の技に『イナリスター』が捕まって、腕を壁に縫い付けられてしまう。
「ナイスガン……【狙撃】【光魔弾】【リボルバーマグナム】ガン……」
「まずい! 【変体神使】」
赤い閃光が『イナリスター』の腹に大穴を開ける瞬間、『イナリスター』が一匹の妖狐になった。
「コーン!〈くらえ、【媚び売る妖体】!〉」
変体した『イナリスター』が『麒麟ホッチキス』の肩に飛び乗ると、その顔を尻尾でひとなで、『麒麟ホッチキス』の頭上に『もふもふ恍惚』の状態異常が現れる。
「コーン!〈さあ、今放てる最大攻撃を俺の脅威に放つがいい!〉」
「ぐう……もふもふこそ正義ホッチ! 【袋とじ】」
『麒麟ホッチキス』は頭上を飛ぶ『スカラベブレイン』へとスキルを放つ。
『スカラベブレイン』の左右に二枚の大きな紙が現れたかと思うと、それが『スカラベブレイン』を左右から挟み込む。
そして、その紙を綴じていく幻影のホッチキスが、カシャコン! カシャコン! と音を立てて紙を留めていく度に、「100」点近いダメージが入っていく。
スカラベブレインが二枚の紙に綴じられて落ちてくる。
「「イーッ!」」
戦闘員たちが『スカラベブレイン』の落下ダメージを引き受けて粒子化する。
『スカラベブレイン』は紙を破って出てくる。
「ふーっ、ふーっ……ヤバかったブレ……」
「ぐう……すまんホッチ……」
一撃、放てば解放されるのか。
「コーン!〈次はお前だ!〉」
変体『イナリスター』が肩に乗ったのは『ユニコーンガン……』だ。
「おい、この○ンカス野郎! 気安く俺の肩に乗るんじゃないガン! 【破壊衝動】!」
『ユニコーンガン……』から真っ赤な怒りのオーラが吹き荒れる。
「コ、コーン!〈な、なにー!〉」
『イナリスター』が吹き飛ぶ。
『ユニコーンガン……』は目を真っ赤に光らせる。
「あれは……血涙……」
戦闘員の誰かが呟く。
『ユニコーンガン……』の目から流れる血涙が、全身に赤い光の紋様を描き出す。
「く、くそう……初めては女の子……女の子に乗ってもらうと決めていたのにガン!
何が悲しくて、ケダモノ○ンカス野郎に俺の大事なチェリーををををををガンんんんっ!」
肩からユニコーンの角が伸び、馬面には怒りの隈取り、全身にも血涙の紋様が入って、着ていた十二神将風鎧が弾けるほどにパンプアップして筋肉のラインが浮き彫りになる。
「コーン!〈くそ! ベルセルク持ちか!〉」
「ぬうぅんガン!」
地に降り立った妖狐へと『ユニコーンガン……』の銃身が振り降ろされる。
床に罅が入るほどの打撃。照準狂いそうで怖ぇな。
「コ、コーン!〈このままじゃ、不利だ。変体解除!〉」
『イナリスター』が元の機械式鎧姿に戻る。
「死ねやボケガンッ!」
「【賢知回避】」
『イナリスター』が『ユニコーンガン……』の大振りな攻撃を避けて脱兎のごとく逃げ出した。
「ちぃっ! 時間を稼いでベルセルク・モードの終わりまで待つしかない!」
「待てやコラーガンッ!」
「任せろユニコーンガン……ブレ」
「ああ、俺たちがあのアホを捕まえてやるホッチ!」
『スカラベブレイン』が【聖球爆走】を『麒麟ホッチキス』が【雲曳く疾走】を使い、二人の突進系攻撃が『イナリスター』を追い詰める。
「ああ、忙しいなこの! 【バネ式跳躍】【両飛鉄拳】」
『マギアイアン』が『イナリスター』のフォローに大ジャンプする。
「ゐーっ!〈もう一度、掻き回してやる!〉」
俺はあちらこちらと『トラップ設置』をしながら蠍尻尾と『ショックバトン』と【ベアクロー】キックで『マギスター』戦闘員を翻弄する。
「ゐーっ!〈サクヤ! 罠置いた、踏むなよ!〉」
「イーッ!〈そういうのは先にお願いしますねー! 罠探知セットしてないんで見えませんよー!〉」
『移動床』と『バネ床』だけなので、直接ダメージはないけどな。
「イーやー! なんだこれ……」
最初に引っかかったのが味方だった。
スーッと『ショックバトン』で踏み込んだ体勢のまま横に運ばれていく。
俺は手を上げて謝意を表明する。
「死ねや、肩パッ……ああああああっ!」
『バネ床』で背中から落ちた『マギスター』戦闘員に『ショックバトン』で引導を渡す。
振り返れば別の戦闘員が殴り掛かろうとしているところだ。
俺は手の平を上に向けて、指先を動かして、来いと指示する。
それを訝しんだ『マギスター』戦闘員が、足元を気にするので【回し蹴り】で低くなった頭を蹴った。
「ゐーっ!〈うん、そこは別に何もないんだ〉」
そうやって近距離戦で、躊躇してもらうのが【トラップ設置】の目的だからな。
「みなさーん、肩パッド付近は罠があるので私たちはこっち狙いですよー!」
サクヤが危険を承知で声を上げる。
すまん、助かる。正直、みんなが俺を殺したがるものだから、そろそろ手が足りなくなってきたところだ。
チラリ、怪人たちはどうだと確認すれば、『マギアイアン』は『火炎浄土』とこちらに来ていない『りばりば』戦闘員が足止め中、『イナリスター』は怪人三人、主に『ユニコーンガン……』によってタコ殴りされている。
『マギスター』と残り少ない『ヴィーナスシップ』戦闘員をこちらで引きつけているのが良い方向に動いているな。
ヒィィィン……と、モーター音が聞こえる。
音は後方。気付いた瞬間、俺は空を舞っていた。
何が起きたかと思う。ああ、時間が引き伸ばされているんだと理解する。おお、身体が木の葉みたいに、くるくる回る。
『マギスター』の車両? 何故、身体の真下にあるのかと言えば、そう、轢かれたからだろがばきゅろ……。
───死亡───
頭を打った。頭蓋骨がぱかーんと割れた……のだろう。たぶん。
最後に頭と全身が死ぬほど痛かったのと、途中から頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回されたように混乱して、気付けば復活石を隠した植え込みの中だ。
あと二秒。復活だ!
復活と同時に身を伏せて隠れる。
ここまでは良かったが、まだ意識が肉体に追い付いていない気がする。
深呼吸。
さっきの混乱が良くない。
繋がらない記憶が不安を掻き立てるが、それを必死に想像で補う。
なるほど俺は、自分の死を客観的に分析することで冷静さを保ってきたのだ。
先程の死は、脳が傷付いたことによる混乱が問題だったのだろう。
もしかして、一気に脳が破壊されていれば、立ち直りも早かったのかもしれない。
だが、損傷が半端だったが故に混乱を起こした。
身体からの危険信号を正確に捉えられずに混乱した。
そういうことか。
俺は自身が冷静になっていくのを、実感していた。




