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飯も食った。風呂も入った。
さあ、ログインしよう。
『大部屋』。
少し早めにログインしたためにまだ始まっていない。
『ロッカールーム』でアイテム整理をする。
「おお、グレンさん! こんちゃ! こんちゃ!
今日はよろしく頼むな!」
ああ、ゴム屋か。
握手を求めて来たので、返しておく。
なんだかやけにテンションが高いな。
「ああ、そうだ! せっかくだからオープニング撮らせてくれよ!
はい、にっこり笑ってー!」
俺が何かを答える前にゴム屋は俺と横並びになってピースサイン。
たしか普通にゲームしてていいという話だったはずだよな。
しかも、この強引さは釈然としないので、俺は無視することにした。
「はい、ゴム屋の〜、弾力放送!
こんちゃ! こんちゃ! ということで始まりました。
ゴム屋の弾力放送!
今日もいいところをギュッと詰め込んで、ボヨーンと飛び跳ねるぜ!
今日はな、な、なんと! 今、一番ホットな話題の人物、肩パッドがゲスト出演しまーす!」
さて、『大部屋』に戻って魔石を登録しよう。
俺は歩き始める。
「はい、こちらが肩パッド……って、ちょいちょい、どこ行くの? 今、オープニングだってば……。
ああ……たぶん、照れくさいのかね?
まあ、いいや。今日は肩パッドの秘密、全部見せちゃうよ!」
ゴム屋がついてくる。
何か今、聞き逃せない話を聞いたな。
「ゐーっ!〈おい、お前が録画するのは勝手だけどな。俺は特別なことをするつもりはない。それにスキル事情をバラすつもりもないぞ!〉」
ゴム屋はキョトンとした顔をして、それからウンウンと納得したように首を振った。
「ああ、大丈夫! 名前は隠してあるし、喋れなくても肩パッドくんの勇姿を見せるだけで、視聴者は満足だからさ!
なあ、みんな気にしないよな!」
……こいつ、【言語】は上げてないのか。
『大部屋』で誰か見つけて通訳してもらおう。
今は何を言っても無駄なので、『大部屋』へと急ぐ。
「え、ちょい、まだオープニング終わってないってば……と、とにかく、お楽しみに〜!」
お、サクヤを発見した。
「ゐーっ?〈サクヤ、すまんが通訳たのめるか?〉」
「あら、グレンさん、いいですよー。
何かお困りごとですかー?」
俺はサクヤに説明する。
「なあ、肩パッド待ってくれよ。
何か怒ってる?」
「えーと、あなたがゴム屋さん?」
追って来たゴム屋にサクヤが話し掛ける。
「おっと、ファンかな? サイン欲しい?
それともフレンドかな? 俺の弾力放送の良いところを十個言えたら、サインとフレンド、どっちもOKだぜ」
「なるほどー! 自意識過剰で話が通じないタイプですねー」
「はっ?」
「ひとついい事を教えましょう。
あなたにフレンドが少ないのはその性格のせいですねー」
「なに? いや、べ、別にフレンドならいっぱいいるぜ……」
「まず、こちらのグレンさんのスキル情報をバラすのはマナー違反ですねー。
それから、グレンさんはもうあなたの動画に出たくないそうですよー。
という訳で、グレンさんは配信不可設定に切り替えるのが推奨ですねー。
教えておきますが、グレンさん。
説得は不可能です。
そういう手合いの方ですよー、こちらの方は……」
「え!? いや、待ってくれよ。
そんな一方的な……」
「では、ゴム屋さん。肩パッドの情報をバラさずに、インタビューだけするのはどうでしょう?
もちろん、配信不可設定のままですが。
私が通訳して差し上げますよー。
配信不可設定でも、充分に話題作りにはなりますし、グレンさんだってそれなら嫌とは言わないと思いますけど?」
「はあ? 配信不可設定じゃ信憑性なんてないし、インタビューなんて成立しねえよ。
それに俺の配信はバトルの熱さが売りなんだ。バトルが撮れなきゃ意味がねえ!
くそ! もういいよ!」
おお、凄い!
ゴム屋は怒った様子で行ってしまった。
さすがは元『ブラクロ』幹部、と感心して見ていると、サクヤは呆れたように言った。
「ちゃんと配信不可設定にした方がいいですよ。たぶん、盗撮されるので。
んー、最初に録画OKもらってるからって辺りが相手の言い分ですかねー」
「ゐー……〈なにか面倒事を押し付けたな。すまん……〉」
「ああ、いえいえ。私を頼ったのはいい判断でしたねー。
友達にしておくとお得な女なのでー」
サクヤが、あっけらかんと笑う。
うん、魅力的な笑顔だな。
俺は言われた通り、配信不可設定に切り替える。
これで撮られても、俺はモザイクアートになるわけだ。
その後、魔石を五個登録して、俺たちは『作戦行動』に備えた。
波乱の予感?




