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「くくく……びびったか? なあ、居るんだろ、カンバ! 出て来いよ。蹂躙してやる!」
鮫島はバカみたいに笑っていた。
そりゃそうだろう。総勢十四人のサメ人間を後ろに従えていたら、笑うしかない。
このまま放置していたら、それこそ蹂躙が始まってしまう。
意を決して、俺は前に出ることにする。
建物の陰から前に出る。
「あっはっはっ! なんだよ、あんたもそのまんまでやってんのか! くくく……」
「ゐー〈レオナ、通訳してくれ〉」
「あ? まさか、言語スキルすら持ってないのか?」
俺のすぐ隣りにレオナが顔を出す。
「なんだ? お前の女か?」
「リヴァース・リバースの幹部、レオナです。
ただの通訳ですのでお気になさらず……」
レオナも緊張しているのだろう。
それでも冷淡な態度を作れるのは流石というところか。
「はははっ! 通訳……マジで、言語スキルすら持ってないのかよ……どんだけレベル低いんだよ……」
鮫島は腹を抱えて笑う。
「ゐー〈まず初めに、ここではグレンだ。グレンと呼んでもらおう〉」
淡々とレオナが俺の言葉を通訳する。
「くくく……オーケー。グレンか。なあ、とりあえず、率直な感想ってやつを聞かせてくれよ、グレン」
「ゐー〈どんな裏技を使うと、それだけのコアが揃えられるんだよ〉」
「裏技? いいや、裏技でもなんでもない。
真っ当な方法だよ。
課金ガチャでたまに当たるだろ、コア。
それを二十個ほど当たるまで回し続けただけだよ。
ほら、真っ当だ」
大仰に身振り手振りを交えて、話すことで俺への挑発としているらしい。
最後には肩を竦めて、やれやれといった風に馬鹿にしてくる。
だが、待てよ。鮫島は社長の息子だが、社長はワンマンだが常識人の鮫島さんだ。
息子だからと、一人だけ給料を高くするとは思えない。
二十個のコア。
最大規模を誇る『りばりば』だって四個しかなかったものを、ガチャで当てるなんて、幾ら掛かるんだよ……。
「ゐー〈まさか、会社の金じゃねえだろうな?〉」
「もしかして、会社のお金ですか?」
レオナがそこだけ言い方を変えた。
「……は? そ、そんなことするわけないだろ。
なんで、俺がそんなこと……」
「最低ですね。犯罪ですよ」
レオナが冷たく言い放つ。
「はあっ、お前に関係ないだろ! いいんだよ、最終的にそこのカンバが払うことになってんだ。借金してでもな!」
そこで俺はピンと来てしまった。
俺に勝って、最新式で新品の商品を着けさせ、それを売り払って中古をつける。
差額で言ったら百二十万くらいか。
それだけあれば、ガチャで核を二十個手に入るまで回してもお釣りが来る。
救えねえ……。
「ゐー〈今から、俺は酷いことを言う。りばりばのやつはできれば耳を塞いでくれ。レオナもな〉」
「今から、俺は酷いことを言う。りばりばのやつはできれば耳を塞いでくれ。え、私もですか?」
レオナが困惑する。まあ、通訳だからな。
だが、レオナにも聞かせられないので、俺はレオナを見て頷く。
「皆さん、りばりば側は耳を塞ぎましょう!」
coinが顔を出して、自分から耳塞ぐ。
怪人たちが耳を塞いでいる姿は、少し滑稽で可愛らしくも見える。
鮫島はニヤニヤとこちらを見ている。
俺が何を叫んだところで、どうせ俺には【言語】がないからな。
だが、たったふたつだけ、俺にだって話せる言葉はある。
それを聞かせてやるよ。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「まじなうものなり!〈終わりだよ、鮫島! 社長を甘く見過ぎだ!〉」
「ん〜? 今、なんて? マジなう? ごめんな〜、言語スキルくらいつけてから言ってもらえるかな? グレンくん」
よし、全員の頭上に『呪い』が入ったな。
「ゐーっ!〈今だ! 総攻撃!〉」
俺はレオナの手を掴んで、走って建物の陰に隠れる。
「鮫島さん、状態異常だトン! アイツやりやがったトン!」
「おお、ニシ、お前もついてるぞ。呪い?
動き難いとか、不具合出てるか?」
「そういえばないトン?」
「ぷっ……低レベルの悪足掻きかよ……」
鮫島と共にサメ人間たちが笑っている。
俺たちは一斉に攻撃を開始した。
「ゐーっ!〈ムック、鮫島を頼む。【闇芸】!〉」
「任せるピロ……」
『シノビピロウ』が俺の影を伝って移動していった。
「【飛翔斬り】ピロ」
「あ?」
鮫島の左腕が飛んだ。
「なっ、部位破損……くそっ!」
「てめぇ、なにしてるトン!」
『シノビピロウ』は『サメトング』〈パスタなんかを湯から上げるトングとサメの合体怪人だ〉から逃れて、距離を取る。
俺とレオナも銃撃でダメージを重ねる。
『マンティスミザリー』が、『ディアスプーン』が、『カナヅチゴーレム』がそれぞれに三体程度の敵を引きつける。
「よーし、僕もやります!」
シシャモが『動く棺桶二号』をインベントリから取り出した。
ズズン! と音が響く。
ひと回り大きくなった身体、両腕に取り付けられた『杭打ち機』、相変わらずのずんぐりむっくりな体型だが、頭に刀の柄を思わせる細長い角がついている。
あれは武装か? 刀を脳天から抜くのか?
「あれは何ヘリ?」「ロボガン?」「シシャモ……サイ?」
シシャモは『リビコフ二号』の体表面に据え付けられたタラップを登って行く。
『リビコフ二号』の背中、脊椎部分にハッチがある。
「行きます! 【水中行動】!」
シシャモが入って、三秒、『リビコフ二号』の目が光ると同時に、キュピーン! と電子音が響く。
だが、そのまま、動かない
「なんだシシャモ、そんなデカいもんに乗らないと戦えないほど、臆病になっちまったのかソド」
「おら、出て来いヘリ。【誤差数センチ】」
幻想のミサイルが『リビコフ二号』に着弾、大爆発が起きる。
『リビコフ二号』が爆煙の中を歩く。
鎧には煤ひとつなく、皆を驚かせる。
「1」点ダメージは入っているはずだが爆煙に隠れて見えていないようだ。
『リビコフ二号』が手を振り回して、サメ人間の一人がぶっ飛ぶ。
運の悪いことに、ぶっ飛んだサメ人間は、他のサメ人間を巻き込んだ。
「てめぇ、俺を巻き込むんじゃねえブレ!」
「はあ、それくらい避けろコラ!」
「チャンスカナ? 【鉄壁の城】【王の帰還】【ハンマーパンチ】カナ!」
お互いを罵りあうサメ人間の一匹、『ブレインシャーク』に向かって、『カナヅチゴーレム』のパンチが唸る。
防御力大幅アップスキルと自身の防御力と攻撃力を一時的に入れ替えるスキル、さらにパンチ攻撃力を一撃だけ三倍にするスキル〈後で静乃に聞いた話だ〉を使って当てた剛腕パンチは、『ブレインシャーク』を一撃で粒子化させた。
「おお、クリティカルカナ?」
『呪い』効果のファンブルだろう。
『カナヅチゴーレム』のパンチは『ブレインシャーク』の脳天を撃ち抜いていた。
どう見ても弱点だろ、あの脳みそ。
似たような現象があちこちで起こる。
俺が放った『ベータスター』の弾丸は『コーラシャーク』の目玉を撃ち抜き、『コーラシャーク』が放とうとしたスキルは方向を変えて、霊体と実体を操る『ゴーストシャーク』に当たった。
『シノビピロウ』を追った『サメカンテラ』は胴体のカンテラの炎を強くして自身にバフをかけようとしたが、これが大失敗。
デバフになって、能力値を著しくダウンさせた。
俺の『呪い』が効かなかったやつもいる。
関節の各部にサイコロをつけた『サイシャーク』だ。
こいつも『祝い』と『呪い』と似たようなスキルを操るらしく、自身に『祝い』系の状態異常をかけることで、『呪い』を打ち消していた。
全体的に盛り返してきたな。
「ふざけんな! 俺が負けるわけねえ……負けるわけねえだろうがっ!」
鮫島が絶叫する。
残った片腕で鮫島はポケットから石みたいなものを取り出しだ。
「変身メガ!」
鮫島が変身していく。顔が鮫に、さらに肩からもうひとつ鮫頭が出現する。
着ていたスーツが消え、人肌はサメ肌になっていく。
肉が盛り上がって、ボリュームアップどころではなく、どんどん大きくなっていく。
全高7mほどのダブルヘッドシャークなサメ人間だ。
「メガロメガロドン、メガ〜!」
太古の巨大サメ、メガロドンにもしや、核︰メガロドンの歯ということか?
どんだけメガロドンなんだよ。
先程の左腕部位破損の影響か、左腕がない。
だが、シシャモの鎧が5m50cmプラス角なのに対して、『メガロメガロドン』は7m。
俺たちは呆然と空を見上げた。
鮫島くん、ポッケに核︰メガロドンの歯を入れてました。
インベントリに入っている、ステータス上でセットしている、手に持つ、肌に密着していると語尾が変化しますが、ポケットはセーフのようです。
シャーク団は語尾が変化していると、『繁華街』のNPCキャバ嬢にモテないので、だせぇという扱いを受ける風潮があります。




