113 side︰グレン
相変わらず後部座席は歌っている。
子供同士、仲良くなったみたいだな。
いや、煮込みは二十歳越えてるじゃねえか。
危うく騙されるところだった。
「ああ、まずいピロ! 『招き猫』と『信楽焼の狸』が奪われてるピロ!
それから参加者以外の魔法文明レギオン員は指定物の破壊が不可だと判明したピロ」
全体チャットをチェックしていたムックが報告する。
「ゐーっ!〈くそ、ここが一番手薄だっただけか……〉」
歌が止まってしまった。
子供たちも不安そうだ。
「ゐーっ!〈急いで戻って、幕間の扉前で決戦だな!〉」
そこでおそらく大勢が決まるだろう。
降りしきる雨の中、『達磨』が雨を弾く音が俺たちを急かすように車内には響いていた。
『りぞりぞツーリスト』を通って戻るべく、ビル前に車を止めて、『達磨』を運んでいると、またもやムックが声を上げる。
「やったピロ! 港湾区の『信楽焼の狸』がリポップしたピロ!」
「お、それは朗報ミザ! 誰がやったミザ?」
「『出血』で死ぬ直前のにゃんこの日がリポップを確認しただけで、破壊は確認できてないピロ」
にゃんこの日、ああ、PKK部隊の一人か。
「ゐーっ!〈敵が全員、俺たちが相対したレベルのマヌケなら、有り得なくはないけどな〉」
「考えるのをやめたら、人は堕落するって先生が言ってました」
ばよえ〜んが手を上げた。
うん、最近の小学教育課程は何を教えてるんだろうな……。
「ゐーっ!〈心に留めておく〉」
「うんうん、素直なのはいいことです!」
俺はいつも、ばよえ〜んに教えられてばかりだな。
じゃあ、可能性を考えてみるか。
と言っても、現状ふたつしかない。
何らかの理由で指定物が壊れたか、何らかの理由で指定物がリポップするかのふたつ。
何らかの理由で指定物が壊れたなら、ラッキー。急いで取りに行くだけだ。
考えるべきはもうひとつの方だな。
このイベントルールは穴だらけで、下手をするとわざと穴を作っている可能性もある。
例えば核の使用だ。
ルール的には、持ち込めるコアはひとつだけだが、スタート後に拾ったコアはその数に含まれない。
また魔法文明レギオン員は参加者に対して不可侵だが、ヒーローやNPCは俺たちに影響を及ぼせる。
つまり、スタート十分前に判明したルールにも穴がある可能性がある。
『信楽焼の狸』には『リポップ5分』とあった。
俺や基地の見解は破壊された時に5分でリポップすると読んだが、条件が違う可能性はある。
例えば、指定位置Aから動かしてから5分経つとリポップする。
もしくは、参加者が指定物に触れてから5分という可能性もある。
破壊後5分の条件は入っているとして、もう一点、動かしてからか、触れてから5分という可能性はある。
では、破壊以外のリポップ条件があるとして、何が起きるか。
リポップ条件を満たした『信楽焼の狸』がリポップする。
取り合いで戦闘になる。
運ぶ途中、幕間の扉前でも戦闘になるだろう。
さらには地点Bで最終決戦が起きるだろう。
これを繰り返すことになると、地点Aは騒然となりそうだ。
ヒーローが出てくるまでの勝負になるか……。
いや、そういう時こそ『りばりば』の強みが出せるんじゃないか?
チャット……いや、もう着くな。
今回の作戦をまとめている幹部に話をしておくか。
俺たちはポータルを使って基地へと戻った。
「おお、良くやった!」「いいぞ!」「その調子で頑張ってくれ!」
俺たちが戻ると、万雷の拍手が出迎えてくれた。
ありがたい、ありがたいが今は幹部と話す時だ。
「良く戻ってくれた! さっそくで悪いが、ムック班は幕間の扉前の大掃除に入ってもらいたい」
糸という幹部が拡声器を使って、俺たちに呼び掛ける。
「ゐーっ!〈待ってくれ、少し話がある! すまん、どいてくれ!〉」
俺は糸に駆け寄って、必死に手を伸ばす。
気付いた糸が拡声器で辺りに静まるよう訴えた。
俺は糸に辿り着いてから、可能性の話をした。
「なるほど……残り二時間二十五分というところか……今は仮定の話でしかないが、それもすぐに分かる。
準備はしておく。今はムック班は急いで幕間の扉を潜って、迎撃に当たってくれ!
追ってパーティーチャットで指示を出す」
「ゐーっ!〈フジン、おい、頼みがある。皆を連れて来て、幕間の扉前で待っててくれ! できるか?〉」
「きうー!」
フジンは俺の声に応えて、肩から降りると基地内に消えた。
「肩パッド取れた!」「あれがテイムモンスか」「あれ本当だったのか!」
俺はムックたちと合流する。
「ゐーっ!〈待たせた!〉」
「行くピロ?」
俺は頷く。
背後では糸が叫んでいた。
「オオミ班、再結成急げ! 新たにボランティアを募りたい、聞いてくれ……」
俺たちは『幕間の扉』を潜った。




