第8話 剣術大会当日
「将来性がないなら、家の為にならないね。……解消するか……。」
スッとわずかに細めた目は、今まで布団をかぶって動揺していた様子からすると別人のように冷たい光を纏っていた。
早速、婚約解消に行ってくると行って、ケイトは出かけて行ってしまった。
ベラドンナとコニーもついて行こうかと申し出てみたが、それには及ばぬと、凄い勢いで女子寮を飛び出して行ってしまったのだ。
ケイトがどのように婚約解消に向けて動いたのか詳細は分からなかったが
翌日の騎士科との合同授業の時に顔を合わせたケイトの表情はすっきりとしていた。
「どうなったの?」
「うん。まあ、なんとかなりそうだよ。」
結果を尋ねてみると、ケイトはそう言って不敵に笑っていた。
まだ婚約解消自体は済んでいないようであったけれど、もう心配はなさそうだったのでベラドンナとコニーはホッと胸を撫で下ろした。
そうして、問題の剣術大会の日がやってきた。
闘技場の入り口近くに張り出された対戦表をみると、大会は勝ち抜き戦となっていて順調に勝ち進んだとしてケイトとダフネル伯爵令息は決勝で対戦することになるようだ。
出場者にはあらかじめ対戦順は知らされていたのだろうか。
どちらかが先に敗退をしてしまっていたら、ダフネル伯爵令息のいう婚約破棄予告は成り立たない
ことになってしまうのではないかと、ベラドンナは思った。
闘技場から歓声が聞こえてきた。まだ第一試合は開始されていないが、開会式で出場者がグラウンドに集まり始めているようだ。
「ベラドンナ様〜。」
奥からコニーが手を振っているのが見えた。
ベラドンナも手を振り返して、コニーの方に進もうとした時、ザワリと周囲が騒がしくなった。
「ダフネル騎士団長様だ。」
「騎士のスカウトに来たのかな。」
背が高く重厚な筋肉の髭面の男性が闘技場の前に止まった馬車から姿を現した。
周囲の声から、ダフネル騎士団長なのだろうと推測した。
学園の生徒ではない、騎士姿の男性達を伴っている。
その周囲だけ空気が緊迫して見える。
「父上!」
駆け寄って行ったのは騎士科の制服を着た小柄な少年だった。
髪色がダフネル騎士団長と似ている。ラッセル・ダフネル伯爵令息の弟なのだろう。
「お急ぎください。始まってしまいますよ。ケイトお義姉様の勇姿をみていただかないと。」
ダフネル少年が、闘技場の奥を指差して騎士団長を促している。
その台詞を聞いて「おや?」と思う。
婚約解消の話が進んでいるのではなかったのだろうか。
それとも、弟君にまでは、まだ知らされていないのだろうか。
チラリと見えたダフネル少年の顔は、厳つい髭面の騎士団長とは違い、あどけない雰囲気の美少年だ。
ニコニコととても嬉しそうな顔をしている。
「うむ。」
騎士団長は表情を変えずに頷き、ダフネル少年を伴って闘技場の奥へと進んでいった。
思ったよりケイトはダフネル伯爵家に歓迎されていたようだ。
この様子でケイトは婚約解消できるのか、とちょっと心配になる。




