第11話 エピローグ 天下無双令嬢は婚約破棄宣言を回避した
これは後でじっくりと話を聞かなければと、ベラドンナは思った。もちろんコニーも同じ心境だった。
「婚約者を変えたってことですか?」
「そう。家同士の繋がりもそのままで、良い案でしょう?」
その日の晩、剣術大会の打ち上げの集まりなどが終わって少し遅めの時間に
ベラドンナとコニーとケイトは、コニーの部屋に集まっていた。
ケイトの部屋でも良かったのだが、ケイトの部屋には固い焼き菓子しかないので
消去法でコニーの部屋となった。コニーの部屋にも特別な菓子が用意されているわけではなかったがドライフルーツやナッツなど、ちょっと摘めるものは常備されていたのだ。
「ケイトが良いなら、良いのですけど。すんなり話は纏まりましたの?」
「解消は渋られたんだ。騎士団長は、ラッセルが悪い事は認めてくれたんだけど、
謝らせるからって言われて……。
そうしたら、テオが、テオドールが来て、自分と婚約するのはどうかって申し出てくれたんだ。
騎士団長からすると、コランバイン家と縁が結べるなら、ラッセルでなくても良かったらしい。」
「……コランバイン家と言うより、ケイトが良かったのでは。」
「武力重視の家だから、そうかもね。ただ、ラッセル・ダフネルと私との婚約を知る人もいたから
急に婚約者交代というのは、外聞が悪いとか色々思惑があったみたい。
私が、剣術大会に優勝したら、それを理由に発表しようってことになったんだ。」
「……それって、ラッセル・ダフネル伯爵令息はご存じでしたの?」
「言ってないよ。ダフネル伯爵家からも知らせてないと思う。そもそも婚約破棄するつもりだったなら、言わなくても良いでしょう?」
ニヤリ、とケイトが口の端を挙げた。
「……恨まれたりしないかしら?」
コニーが心配そうに言う。
「ラッセル・ダフネルに?そこはダフネル家で話してくれるって。
ラッセル・ダフネルも想い人がいるなら、寧ろその方が良いだろうって話だったよ。」
「まあ、確かにそうね。」
「ただ……。」
ベラドンナとコニーは、ケイトの婚約破棄宣言危機が回避できたことと、
どうやら元々仲が良かったらしいテオドールとの婚約が決まったことを喜んだ。
ただ、ケイトには少しだけ懸念点があったようだった。
「ケイト様ぁ。私と踊ってください〜。」
卒業式後の祝賀パーティの場で、オレンジ色のふわふわした髪の令嬢が甘い声でケイトに呼びかけた。
「ジャスミン子爵令嬢。」
「マイラって呼んでください。義理の姉妹となるのですからぁ。」
くねくねと身をくねらすマイラ・ジャスミン子爵令嬢の背後には、ムスッとした顔のラッセル・ダフネル伯爵令息の姿があった。
スッと、テオドールが笑顔のまま割って入った。
「ジャスミン子爵令嬢、ケイト様は僕とダンスを踊るのです。僕の婚約者ですから!」
「ああん……。仕方ないですわぁ。後で、後で良いですから私とも踊っていただきたいです。」
「ダメです!僕の婚約者なんですから!どうぞ、兄上とのダンスを楽しんでください。」
ニコニコした笑顔のまま、スッとケイトの背中に手を添えてケイトをダンスフロアの中央の方に導いて行った。
気のせいか、剣術大会で見かけた時よりもケイトとテオドールとの身長差が縮まったように見える。
ムゥっと頬を膨らませる令嬢に聞こえるように、ベラドンナとコニーはクスクスと笑った。
「あんなに仲の良い婚約者同士のお二人に割って入るのは無粋ですわぁ。」
「ええ、本当に。」
ベラドンナ達の話し声が聞こえたのか、マイラ・ジャスミン子爵令嬢はフンッと顔を背けラッセル・ダフネル伯爵令息の腕に手を添えるとダンスをしに行ってしまった。
ケイトが懸念していたことは、ラッセル・ダフネルの当時の浮気相手であったマイラ・ジャスミン子爵令嬢が剣術大会の様子を見て、すっかりケイトのファンになってしまったようだと言うことだった。
ケイトを見ると、ラッセル・ダフネルをそっちのけで近づいてくるらしい。
それでも、テオドールがしっかりガードしているようなので特に心配はいらなさそうだ。
テオドールは小柄でパッと見は可愛らしい雰囲気があるが、
俊敏で剣術の腕前はなかなかで、頭も切れるらしい。
来年の剣術大会では優勝を目指しているそうだ。
ケイトとは、テオドールの卒業を待ってから式を上げるとのことだ。
「あら、もしかして最強カップルのでは。」
「そうですわね。うふふ。」
騎士としての功績は、剣術の腕だけでは決まらないだろうが
ケイトと結婚した場合、功績は実は二人分となるのではないだろうか。
そうなると功績を重視したダフネル伯爵家の後継者の有力な候補となりそうだ。
そうなるとラッセル・ダフネルは、惜しいことをしたのではないかとも思える。
「ふふ。」
将来のことはまだわからないが、ダンスフロアの中心で輝く笑顔を見せている親友の今が幸せそうなので何よりだとベラドンナは思ったのだった。
騎士服の二人が見つめ合ってダンスをしているので時折黄色い歓声が上がっていたけれど。




