第19話 自由商人の自由すぎる1週間のつけ
「大変よ、ロジャー起きて」
「なんだよハニー。朝からもう一発のおねだりかい。さすがに昨晩がんばりすぎて、まだ眠いよ」
「そんな眠気は一気に跳ぶわよ。ロジャーに面会したいと言う人が来ているの」
「はぁ? ここはハニーとふたりだけで過ごすために1週間借り切った邸宅だよ。ハニーと私以外、誰も入れないさ」
うん、今の私は自由なのさ。
金があれば、仕事などしなくていい。
それが自由商人の生きる道さ。
「なに、寝ぼけているのよ。面会希望の人はこの街の領主の使者よ。早く起きて」
「使者がなんだっていうんだ! 私はこの1週間自由に生きると決めたんだ。たとえ、領主の使者だって、邪魔はさせ……ええーっ。領主だって? 使者?」
すっかり自堕落な生活にどっぷりつかっていたから、頭の切り替えに時間がかかったぞ。
まさか領主から何か言ってくるとは想定外だ。
問題になることは……いろいろとやってしまった気がする。
しかし、街の領主の使者を待たせるなんて、そんな無礼なことはできやしない。
急がねば。
「おい、服を!」
「もう出してあるわ。早くして」
「わかった」
☆ ☆ ☆
「帝国ブランドのポーション800本、用意して欲しいとの領主様からの依頼です」
「はい?」
いきなり言われて、理解できなかった。
ポーション? それも帝国ブランドって何?
だいたい800本なんて数、用意できるはずがない。
一介の自由商人だぞ、俺は。
いったい領主が自由商人風情にそんな依頼を寄越すんだ?
「購入価格は銀貨1枚と大銅貨8枚。もちろん、1本あたりで」
「あのー。帝国印ではないポーションではどうでしょう」
「領主様は帝国印の物だと言っているのだ」
えっと。帝国印って、舶来物だよな。
そもそも、帝国との間に交易なんてできるのか。
私が得意なのは、街と街の間の交易だ。
国外は専門じゃない。
「そんな、無理ですよ」
「なんと、領主様の依頼を断ると?」
「そうは言ってもできないことは、できないんです」
「どうして冒険者には売れて、領主様には売れないんだ!」
「はい?」
どうも、どこかで誤解が生じているみたいだ。
どうなっているのだろう。
「私は冒険者にポーションなど売っていませんが?」
「とぼけなくてもいい。街では売っていないと言うのだろう。調べはできている。街のすぐ外で、お前のところの丁稚が帝国印のポーションを大量に冒険者に売っていた。そこまでは調べがついている」
「まさか! シオンかっ」
やっと話が見えてきた。
だんだんわかってきたぞ。
この件はシオンの仕業に違いない。
そういえば、どこからかパープルポーションを入手したって話もあったからな。
「おいおい、ただの丁稚が勝手に帝国印のポーションを売りさばいたって言いたいのか」
「あー、そういうことになりますね」
「分かった。売ったのは確かに丁稚かもしれない。しかし、帝国印のポーションの入手ルートは上役である、貴方のルートであろう」
参った。どう考えても、そうなるな。
まさか帝国ポーションを丁稚が入手できるはずがない。
私が考えても、そう考えるぞ。
「えーっと。とにかく、うちの丁稚に詳しく話を聞いてから、というのではどうでしょうか」
「うーむ。まぁ、よかろう。すぐに丁稚を呼び出してくれ。領主様は気の短い方だからな」
領主様より、今は私の方が気が短いぞ。
すぐにシオンに話を聞かねばならんだろう。
いったい、この1週間なにをやっていたんだ?
まぁ、宿にいけば、シオンが今、どこにいるかくらい分かるだろう。
☆ ☆ ☆
しかし、シオンは宿にはいなかった。
生まれてはじめての冒険をしているのだった。
次回、シオンの初めての大冒険の話・・・って、どんな冒険なんでしょうかっ。




