第14話 今日の特大イベントはマグロの解体ショーだよ
「親方が早馬に乗れてよかったです」
「ワシだって昔は魚を積んで早馬で運んだ物さ」
「後は無理してでも、日暮れまでにエイヒメの街に着かないと」
「ああ。マグロは腐りやすいからな。明日の朝では遅すぎる」
「やっぱり、獲れた日のうちに運ぶのが一番ですね」
そんなロジャーと親方の話を聞きながら、僕はこっくり、こっくりしはじめた。
横を見ると、親方の前に座っているジョンも同じ感じでこっくりしている。
「おい、寝るな! 落ちるぞ」
いけない、そうだった。
とにかく街に着くまでは寝てはダメだ。
だいたい、最大速度で馬を走らせて、途中2回馬を替えて走る。
それでやっとエイヒメに日暮れ前に着く。
伝説級のマグロは時空収納に入れたまま。
その重さは関係ないから、できる運搬方法だね。
☆ ☆ ☆
「はい、お集りの皆さん。ご注目ください。これから伝説級マグロが入場します」
「「「「おーーーー」」」」
『音楽とダンスの館』の一番大きなステージを借り切って、特大イベントが始まろうとしている。
あ、エレナとジョンと知り合った『音楽とダンスの館』はオーマ街のだけど、エイヒメ街にも同じのがあるんだって。
それも、近くにダンジョンがある関係上、こっちの方が大規模みたい。
その『音楽とダンスの館』の特大イベントというのが、伝説級マグロの解体ショーだ。
いきなり、企画をロジャーが持ち込んで、オッケーを出した支配人もすごいけど、やっぱり伝説級マグロのインパクトは計り知れない。
今もでっかい台車に載せられて全長280㎝、重さ480㎏のマグロが泳ぐ形でやってくる。
「「「「すげーーーーー」」」」
4人掛け80席はすべて満席で立ち見の人も出ている。
その人達にすべて分けてもひとり1㎏になる計算だ。
もちろん、そんな多くは配らないけどね。
「今夜、この伝説級マグロに刃を入れるのは、これを釣り上げた漁師の親方、オリバーさんです」
背丈くらいもある長い刃物を持って親方が登場する。
こんなに大きいマグロをさばくのは初めてだと言って迷っていたが、支配人がこそっと耳打ちしたら「やる!」ってなった。
後で聞いてみたら、街の女性にモテモテになりますよ、って言ったらしい。
親方は街の女性に弱いらしい。
「それでは、まず最高部位、超トロを切り分けます」
親方はすらりと長包丁をきらめかせ、真横から刃を入れてブロック状になった大柵を切り出した。
それを丁寧に切り分けると、300gくらいの柵になる。
「これだけ巨大なマグロからこれしか取れない超希少部位です。これをオークションで値段を決めたいと思います。最初は金貨1枚から」
あちこちで声があがって値段が上がっていく。
最後はでっぷりと太った豪商風の男の手に金貨10枚で渡った。
その男はその柵を持ち上げて、口を天井に向けると口の中に柵を下して、がぶりと喰いつく。
「うまい! うまいぞ~~~~~~」
うん、美味そう。
さすがに、あれは僕には手がでないなぁ。
「次の部位はまた、とっても美味い物になります」
親方が脂がのった柵を大きく上げる。
見ている人達は無言で見つめる。
さて、オークションが始まるね。
「それでは、この部位を、あっ、なんだ?」
なんか白いのが飛んだと思ったら、親方の手からマグロの柵が消えた。
白いのが飛んだ先を見ると。白猫?
マグロを口に咥えた真っ白い猫がいた。
「おい、猫が紛れ込んでるぞ。衛兵!」
あ、でも。衛兵が来る前は白猫が走って逃げた。
途中一回振り返って、僕を見た?
なんか、にやりと笑った気がするぞ。
そんなトラブルがあった後は順調にイベントは進んでいった。
親方は、いろんな部位を切り分けて観客たちに売りまくる。
もちろん、観客もいち早く食べたいと金を出し惜しみせず買いまくる。
「こりゃ、とんでもない金額になるな」
「すごいね、ロジャー」
「何言ってるのさ。他人事じゃないだろう。俺達の取り分の半分はお前の物だよ」
「嘘ッ、すげー」
いったいいくらになるのか、見当もつかない。
聞いてみたら、劇場の支配人が総売上の半分を取って、残りの半分をロジャーと親方で山分けするらしい。
要はロジャーと僕の取り分は1/4で、僕だけだと1/8になるって。
☆ ☆ ☆
結局、ロジャーと僕のそれぞれの取り分が金貨32枚と銀貨5枚になった。
全部だと金貨で130枚というとてつもない売上だ。
劇場り支配人はほくほく顔だ。
1日の売上がそんなになったのは、王都から有名シンガーグループが来た時以来とのこと。
僕はさらに特典として、顔パスで『音楽とダンスの館』に入場する権利をもらっちゃった。
僕だけでなく一緒にいる5人までは無料になるらしい。
顔パスってなんかさ。
お偉いさんになったようで、すごく気分がいい感じがする。
早速、明日の夜、顔パスを試してみよう。
どんな感じかな。
あ、誰と行こうかな。
とっても楽しみ。
それと、ロジャーが1週間のお休み宣言をした。
もちろん、丁稚の僕のお休み。
こんなに長いお休みなんて経験ないから、何をしようかな。
わくわく。
マグロはやっぱり美味いニャン☆




