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第9話 ダンスはおまけのダンス館

「うわー、迷った!」


確かこっちの方だって、聞いたんだけど全然見つからない。


なんか夜のガイドさんぽいのがウロウロしているけど、それこそついて行ってはいけない人だ。

でも、街なんて夜に歩くのは初めてだから、どうしたらいいか分からない。

もう宿屋に帰りたい…どうしよう。


「あれ?」


白のが横切った…ネコ?

なんか、ただ白いだけじゃなくて白く発光していない?


良く分からないけど、好奇心で追いかけた。

変な奴はついていってはダメだけど、妖しいネコはいいのかな。


「あ、いた」


なんか、すぐ見失ってしまうんだけど、キョロキョロしていると見つかる。

そんなのを繰り返してしたら・・・どどーんと大きな建物の前に来た。


『音楽とダンス館』って大きな看板が出ている。

ロジャーが言ってたのは、これだな。


入口の前はちょっとした広場になっていて、芝生が張ってある。

そこに僕と同じくらいの未成年の少年、少女が座って話をしている。


街の普通の恰好をしている少年少女だから、変な人じゃないよね。

ちょっと、ダンス館のことを聞いてみよう。


「ねぇ、ちょっといい?」

「ん? なんだ?」


少女に声を掛けようと思ったけど、ドキドキするから同い年くらいの少年にした。


「ここって、誰でも入れるとこだよね」

「おー、金さえ持っていればな。あの入口から入るのには銅貨5枚必要だ」

「お金があれば入れるの?」

「もちろんさ。お前、お金持っているのか?」

「えー、そこそこは」

「いいなー。俺たちは金ないから、こうしてお金のかからないとこでだべっているんだ」


なるほど。普通の街の少年少女にとって、ここの入場料は高いのか。

僕もロジャーにお小遣いをもらってなかったら入れないな。


「ひとりで入っても楽しいのかな」

「まー、本当はカップに行くのが最高なんだがな。デートに誘うならここが一番成功率が高いぞ」

「あー、そういう相手いないし。ひとりでも大丈夫かな」

「おー、それなら俺の仲間紹介しようか。中に入れると思ったら絶対ついていくぞ」

「えっ、そんな」


変な人について行ってはいけないって言われているのに、知らない少女を連れて遊楽施設に入るのはどうなんだろう。

僕が変な男になってしまうのか!


「おまえ、お上りさんだろう。この街のこと、全然知らなそうだし。まー、半分ガイド役だと思ってどうだ? かわいい子紹介するよ」

「あーうー。でも、知らない女の子とふたりだと緊張しそうだし」

「・・・お前、ずいぶんと人見知りみたいだな。しかたないな。俺もついていってやるよ」

「あ、そうしてくれる?」

「えっ、本当にいいのか? 入場料おごりだぞ」

「うん」


こうして、たまたま声を掛けた彼、ジョンがダンス館の探検の仲間になった。

そして、もうひとり。


「そうだな、同い年でいいよね」

「何が?」

「お前の相手だって。13歳の少女。かわいい系とキレイ系と巨乳系、どれがいい?」

「えっ、えっ」

「俺が声掛ければ、お前の相手してくれるぞ。ただ、入場料とその他はお前のおごりだぞ」

「も、もちろん」


街の少女かぁー。

どんな子が相手してくれるのかな。

巨乳って、どのくらい大きいのかな。


いかん、そうじゃない。

あんまり高望みすると、痛い目みるぞ。


「じゃあ。大人しめの女の子がいいなぁ」

「おー、意外だな。大人しめな女の子を自分の思い通りにする系か!」

「いやいやいや」

「気にするなって。ここではお金がある男はモテるんだって。まぁー、成人前の平民の俺たちじゃダンス館の外で流れてくる音楽を聴いてダベるくらいしかないからな」


そうなのか、平民。

農奴だった僕からすると平民って言葉にあこがれていたんだけど。

普通の平民の少年は貧乏なのね。

まぁー、農奴の少年は貧乏以前だけどもね。


今の僕はロジャーが甘いからそこそこお金持ちだ。

せっかく街に来ているんだから、楽しまないと。


そんなことを考えているとジョンがひとりの少女を連れてきた。

かわいい!

薄ピンクの髪の気をツインテールに結んでる。

瞳は濃いピンク。

ついでに、唇も綺麗なピンクで肌は透き通るような白。


「ほら、挨拶しな」

「あ、私、エレナ。よろしくね」

「あ、僕はシオン。よろしく」

「よし、行くぞ。音楽とダンスの館へ!!」


難しく考えるのはやめた。

今、楽しむことを優先することにした。


☆  ☆  ☆


「な、ジョン。あっちに座らないのか?」


僕らが入った部屋はとても大きくて、4人掛けのテーブルが15もある。

そのテーブルの前は広いステージになっていて、踊っている男女がある。

ステージの右端には楽器を持ったグループがいて、音楽を奏でている。

ひとりの女性がその前に立って、綺麗な声で歌っている。


「何言ってるんだよ。あの席は最低注文が大銅貨3枚だぞ」

「えっ」

「座ったら、大銅貨3枚以上の注文を出さなきゃいけない席だ。そんな金、あるのかよ」

「あーーー、あるけど」

「本当か!」


時空収納には3人の入場を払っても、まだ大銅貨9枚と銅貨5枚残っている。

大銅貨3枚ならいいか。


「じゃあ座ろう。シンガーのすぐ前の席がいいな」

「うん」


僕とエレナが並んで座り、対面にジョン。

エレナは僕に身体をぴたっとくっつけていて、暖かさを感じるし、なんかいい匂いがする。

こんなに近くに女の子がいたことなんてないから、どきまぎする。


「じゃあ、エールでいいか?」

「あ、エール…僕は果実水で」

「何言っての。こんなとこきてそれはないだろう」

「でも・・・」

「エレナもエールでいいな、じゃあエール3つ」


僕はエールを飲んだことない。

農園じゃ、そもそもエールなんてなくて、ガンガン強い火酒だけ。

ロジャーと一緒に旅をしても、ロジャーが頼んでくれるのは果実水だったし。


「さぁ、きたぞ。乾杯!」

「「乾杯」」


おそるおそるエールに口をつける。

素焼きのジョッキに入ったエールはちょっと苦い。


「ぷわっ、うまいだろう?」

「えっと」

「おいしい」


エレナはエールが好きなのかな。

僕はまだ慣れないな。


「あのね」

「なんだい、エレナ」

「今日はありがとう」


あ、カワイイっ。

ほんのり色づいたエレナがうるんだ瞳に僕を見ている。


「いや、いいんだよ。臨時収入あったし」

「そうなのね」


いつもロジャーが銀貨くれるとも限らないから、次はいつ、ここに来れるか分からないけど。


「おい、エレナ。彼女の歌が終わったぞ。準備はいいか」

「えっ、もう?」

「準備って?」


ロジャーとエレナはなんか打ち合わせしていたみたい。

何をするのかな。


「はーい。シンガー・ミッシャの歌を聞いていただきました」


蝶ネクタイの男がステージに立って話はじめた。

司会って奴だな。


「次は飛び入りシンガーの時間です。誰か歌いたい人!」

「はい!」


あ、エレナが立って手をあげた。


「はい、そのお嬢ちゃん。こちらに」


おおー、エレナが呼ばれた。

もっとも手を挙げたのはエレナだけだったけど。

エレナがステージに向かって歩き出した。


「それじゃ、何がいいかな。おっと、そうくるか! このかわいらしいお嬢さんの選んだ歌はムーンライト・バラードです」


まだ早い時間なのか、席は半分くらい埋まっているだけ。

それなのに、大きな歓声があがった。


「こういう店の定番曲だぞ、あれ。男女がくっついて踊る曲だ」

「へえー、エレナって歌、うまいの?」

「まあな。ここに来たがっていたのも、シンガーとしてスカウトして欲しいからさ」


静かな演奏が始まり、エレナの高い声が響き渡る。

他のお客さん達を見るとうっとりと聴いている。

若いカップルが3組ほど、ステージで身体をくっつけあって踊っている。


「うまいね、彼女」

「だろう。でも、うまいだけじゃダメなんだよなー」

「そうなの?」


エレナの歌はサビの部分に入っている。

踊っている人も席で聞いている人も、真剣に聴いてくれている。


「エレナはスカウトされないといけないんだ。スカウトされてシンガーになって、お金を稼がないと」

「へぇー、お金かぁー」

「エレナのことは母子家庭でな。だけど、お母さんが肺病になってしまって毎月パープルポーションがいるんだ」


母子家庭。

えっとお母さんだけってことだよね。

お父さんがいないって。


それでお母さんが病気だと子供が稼ぐしかない。

そういうことかな。


農園育ちの僕からすると、お母さんって存在がよくわからない。

農園の農奴はみんなまとめて育ってきたから、お母さんって誰だか分からない。


それが分かるとスカウトされた時、分かれるのが大変になる。

そんなことを農奴管理人さんが言ってたな。


「パープルポーションって高いの?」

「そりゃ、高いさ。なんといっても錬金術じゃないと作れないんだぞ。薬師じゃ無理だから」


錬金術!

なんか、むきになる言葉が出てきた。

ポーションを作る魔法のことかな。


「1本、金貨1枚だ。毎月それだけ稼がないとお母さんがしんじゃうんだぞ。だからスカウトされてシンガーにならないと」

「そうなんだ」


お母さんって存在がよく分からないから想像するしかないけど、なんとしても助けたいって思うんだろう。

できれば、僕も助けてあげたいけど、毎月金貨1枚は無理だな。


「あーあ。どこかに錬金術ができる人がいないかな。いれば頼むのに」

「えっ」


なんでだ?

なんで僕が錬金術ができるんだ?


「パープルポーションって材料は何かな」

「そんなの薬草だろう。だけど、いくら薬草があっても錬金術ができる人がいなかったら意味ないじゃん」

「やってみていい?」


なんでだろう。

僕は錬金術ができる気がしている。


「あ」

「いきなり、なんだよ」


もしかして、新しく覚えたソルアとソルダは錬金魔法なのかもしれない。


ソルアで材料を入れて、ソルダで錬金品を取り出す。

時空錬金の魔法なのかもしれない。


「なんか、できる気がしてきたぞ。パープルポーション」

「おいおい、本当かよ。錬金術使えるのか?」

「あー、錬金術ではないけど、できるかも」

「どうやって?」

「・・・内緒」


ヤバイ。次元魔法のこと、言いそうになった。

ロジャーは秘密にしろと言われていたんだっけ。


「お、終わったみたいだ。帰ってくるぞ」

「すげー拍手」

「そうだな」


ちょっと高揚した顔のエレナが帰ってきた。

拍手に見送られながら。


「すごい。やったじゃん」

「駄目」

「え、なんで? すごい拍手だよ」

「スカウトされなかったもん。そんなに上手くないんだ、エレナ」

「そんなことはないよ。たまたま、今日はスカウトの人がいなかっただけじゃん。気にすんなよ」

「そうだよ。すごくうまかったし」


僕らが何を言っても、エレナの視線は下がったまま。

ステージで歌えばもしかしたら、という期待が崩れてしまったからなー。


「そうだ。エレナはシンガーにならなくてもいいかもしれないぞ」

「どういうこと? ジョン」

「シオンがパープルポーションを作ってくれるって」

「ええーーー、本当?」


そんな。。。

まだ、うまくいくかどうか分からないのに。


「だから明日の朝はみんなで、薬草取りだ。薬草があればパープルポーションができるんだよな」

「えっと、どうだろう?」

「おいおい、さっき、できるって言ったじゃん」


できるかも、って思っただけなのに。

ちゃんと検証して、確実になってから言って欲しかったな。


「まだ、わからない。でも、出来る気がしているんだ」

「だったら、チャレンジだ」

「もし。もし、本当にパープルポーションが作れるかもしれないなら、なんでもするから」


うわっ、女の子なんでもするって言われちゃった。

なんでもって、なんでも、だよな。


「おい、シオン。今、エロい顔になってるぞ」

「うわっ、そんな」

「そんなことない。シオンはパープルポーションのことを考えているの!」


すみません。エロいこと考えていた。


「そ、そうだよ。パープルポーションをどう作ったらいいか、考えていたのさ」

「本当! 嬉しい」


エレナが抱き着いてくた。

うわっ、女の子の身体って柔らかい。

とっても気持ちいい。


「ほら、エロい顔してるぞ」

「そんなことない!」


なんか、いいな、知らない街にきて、こんな気のいい友達ができた。

大切にしたいなに最初の友達を。


そんなことを考えていた僕を、隅っこにいた真っ白なネコが見つめていたとは、全く気付くことはなかった。


うわっ、今回のは長いなー。

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