分解ヒーロー・???
「第一回、D.E.T.O.N.A.T.E.くんをヒーローとして更生させよう会議、開始~」
「投了するわ」
「将棋じゃねえんだから」
タイトルを言っただけで澪に諦められた。
仁は新聞を読み、すだまは家事に集中している。
いつもはクローゼットにいるD.E.T.O.N.A.T.E.を引き出して来てテーブルに座らせたが、会議の参加者は俺と澪の実質2名だ。
いちいち同時翻訳するのもめんどくせえし、D.E.T.O.N.A.T.E.から建設的な意見が出てくるイメージがわかない。
いつまでもD.E.T.O.N.A.T.E.をクローゼットにしまっておくわけにもいかないだろう。
本人には何の不満もないようだが、何の不満もないのが怖い。
もっと生きる喜びとか知ってほしい。こいつ何が楽しくて生きてんだろう。
何も楽しくないが、贖罪のために生きているんだろうか。そんなのってねえよなあ。
「とりあえずヒーロー名から考えるか」
「現実逃避ね」
「夢はでっかく持つもんだろ」
とはいえ、俺もネーミングセンスに自信があるわけではない。
俺が名前を付けたのなんてナナメさんくらいだし。いいのか、そういう感じでも?
逆にゆるっとしてるくらいのほうが、かっこつけてなくていいのかもしれんが、D.E.T.O.N.A.T.E.にあっているかといわれると悩ましい。
「D.E.T.O.N.A.T.E.は悪名が高すぎるからな。それに意味は爆発だ。能力とも乖離してるし、もっとピースフルな方向性のネーミングにしよう」
「でもその頭文字でしか喋れないんでしょう? それほど名は体を表していることもないと思うけど」
「それはそう。おかげさまで本名も聞けてねえよ」
「そもそもあるのかしら」
「ええ? 出生届出されてねえパターン?」
国外の話だ、俺も詳しくはない。
そういうことがある、と言われたらそうなんだろう、と思う程度の知識量だ。
アメリカの方がそういう法整備が進んでるって聞いてたんだけど、それはそれとしてって感じか。
本人に新しい名前の希望を聞いたところで、それこそD.E.T.O.N.A.T.E.のどっかの頭文字が入ってくるだろう。
それはそれでいいのか? もうわかんねえよ。
「ヴィランと間違われて倒される未来が見えるわ」
「見た目がなあ。白衣着てると悪の科学者だし、服変えたところでツラがこれだから枕詞に『狂気の』がついちまう。髪染める?」
「何色でもだめでしょ。骨格標本にウィッグを被せるようなものだわ」
「食わせても肉つかねえんだよな、そもそも食わねえし」
燃費が良いのか、D.E.T.O.N.A.T.E.は飯を全然食わない。
食いたくなったら食うだろ、でしばらく放置していたら、こっちが不安になるほど食わなかったため、今は無理矢理口に食い物を突っ込んでいる。
食わせすぎてもいかんだろうということでほどほどにしているが、それでもまるで肉付きはよくならない。
一回マジで、電池で動いてる? と思ってバッテリーがついていないか探してしまった。
人間っぽさがなさすぎるんだよ、アンドロイドかこいつは。
骨格標本とは言い得て妙だ。
骨ばっていて目はぎょろつき、アルビノのために色素の薄く白いD.E.T.O.N.A.T.E.は、理科室が良く似合う。白衣も着てるし。
「ヒーロースーツがあれば解決するんじゃねえか。着ぐるみみたいなのを着せて、見た目をゆるキャラマスコットにしよう」
「あらあ、アタシは自前のがあるからそのへん詳しくないのよね」
「うわ、そうか。俺も詳しくねえな。今度雪狐かインフェルナに聞くか」
フラックスは液状の姿をしているため、わざわざ自分でヒーロースーツを用意する必要がない。
シャツの下にスーツを着ていた雪狐、トイレで着替え直していたインフェルナ、は明らかにヒーロースーツを仕立てている。
自分で作っているのかはわからないが、少なくともツテはあるのだろう。今度聞かなきゃ。
「ライデンに聞きに行くならついていくわよ♡」
「聞きに行くのがライデンじゃなくてもついてはくんだろ。アイツは素性隠してるし、あんま突っ込みたくねえな。なんかうっかりで口滑らせそうなんだもんよ」
「雪狐とインフェルナはいいの?」
「あいつら口滑らせまくりだからもはや関係ねえ。世間に正体がバレてねえのが不思議なくらいだ」
澪ですら既に雪狐の中身を知っているし、インフェルナについても時間の問題だろう。
あとはニュースで報じられるほどに有名にならなければ、なんとか覆面ヒーローとして面目がたつかとうか、といったところ。
実際あいつらヒーロースーツどうしてるんだろう。
オーダーメイドで作ってもらっているとしたら、そこから素性がバレてもおかしくはない。
出会ったときからなんとなくそれっぽいのを着ていたから、特に突っ込んで聞いたことがないのだ。
活動を続けていくうえで、特にライデンなんかは、スーツのデザインがどんどん変わっていっているが、やはり自分で作っているのだろうか。
話はD.E.T.O.N.A.T.E.に戻る。
真剣に相談している澪と俺だが、D.E.T.O.N.A.T.E.本人は相変わらず目をぎょろぎょろとさせ、どこを見ているのかわからなかった。
「見た目はスーツでなんとかするとして、まず意思疎通ができないんだもの。少なくとも他のヒーローとの連携は絶望的よね」
「やっぱコミュニケーションが一番問題か。どこの職場でもそうだよな」
「問題を普遍化しないで頂戴。かなり段階が違うわよ、彼の言語は」
「まず英語だしなあ」
「そういうことでもないのよ」
そういうことでもないらしい。
デトネイト構文なあ。わかれば俺以外でも再現できると思うのだが。
澪に言ったら首を横に振られた。英語はそこそこできるが、そこまで組み立てられるほどではないとのこと。
日本語でだって難しいからな。
急に五七五の川柳でしか喋っちゃいけません、と言われるようなもんだ。
できなかないけど面倒だし、ミスるかもしれないし、ついついちょっとうまく言おうとしてしまって失敗する。俺もずっとそんな感じだ。
「そもそも、爆弾使わずに戦えるの? ヒーロー活動に必ずしも戦闘能力が必要ってわけじゃないのかもしれないけど、目下ヒーローっていったらヴィランと戦って市民を守る者に対しての称号よ。アタシがまだヒーローになってないのは、一旦目立たないようにしてるからだもの」
「おっ、本気出せばあっという間に人気ヒーローになれるという自信か?」
「当然。だってフラックスは芸術的でしょ?」
「ああ。既に毒霧はお前の毒牙にかかってるしな」
「毒はあっちでしょうに」
澪は自分がどれだけ毒霧から好かれているか、いまいち自覚がないようだ。
たぶんアイツ、結構命かけられる程度には澪のこと好きそうなんだよな。
自分がオタクである、澪をコンテンツである、という認知をしていそうだったので、恋愛感情とはまた異なっていそうだが、それはそれとしてオタクは強い。
オタクってのは自分が虐げられる弱者だと認識したうえで、その権利を守るために戦う決意を持った戦士だ。
「D.E.T.O.N.A.T.E.本人的にはある程度、戦えると思っているっぽい。実際の方法はちょっとしか見てねえけど、触れたら一瞬で人間バラバラにできるし、非殺傷でヴィランを捕獲できると考えれば有用と思うんだがな」
「ねえ、もしかして自分で試したのかしら?」
「なんか問題あったか?」
澪は深い、深いため息をついた。問題があったらしい。
「アタシがいない間、無傷だったって、言ったじゃない」
「無傷だろうが。ちゃんと組み立ててもらったぞ」
「価値観の違いね。これからは気をつけるわ」
ようわからんが、澪に謎の学習をさせてしまったようだ。




