ガラン王国とゲイルド魔術国家の対談
シュッ。
シュッ。
「なかなか良い音になってきたわね」
「これも先生が良いお陰だよ」
「ふふ。そう言ってもらえると、教えてもらっていたお返しがちゃんとできている気がしてほっとするわね」
今日はお客様が多いということで最初に剣術の特訓をしてからご飯となった。
ゲイルド魔術国家は奥地にあるということで、実際少人数での移動はあまりない。
商人たちもここへ来るときは集団で来るから、宿も大人数で埋まるか、まったくいないかの二極端らしい。
剣術の特訓をしていると、セシリー(小)が頭の上にポンと現れた。
『こうしていればまともなのに、どうして人間というのは極端に変貌するのじゃろう?』
「それはそれ、これはこれよ。セシリーはとりあえず私の頭の上に乗れば良いと思うわ」
「主人はリエン様じゃからな。不思議な魔力の壁があるせいでイケナイノー」
まあ嘘なんだろうけどね。
「もう。私だって場をわきまえるわよ。今まで王家の中で暮らしていたから自由が無かっただけで、今だけでも思いっきり好きなことをしたいのよ」
そうか。
やっぱりガラン王国に帰ったら姫としての業務が待っているのか。
そうなれば、この楽しい旅も終わりなんだな。
「帰ったら姫としての業務はあると思いますが、そこまで束縛もされないと思うっすよ?」
おや、この軽い口調の声は。
「イガグリさん?」
「久しぶりっす。シャル隊長とリエン殿」
「どうしてここに?」
「一度報告をしてからまた出発しただけっすよ。元々ここへ来る予定だったっす」
「元々? シャルロットの護衛のためとか?」
「いや、この方のっす」
イガグリさんの後ろを見ると。
「ガラン王国ぶりね。元気だった?」
シャムロエ様がそこに立っていた。
☆
「とうとうフーリエの正体を知ったのね」
「はい」
「まさか店主殿が館長様だとが思わなかったですよ」
「ふふ。リエンは気が付いたと思うけど、あの謁見の間で魔術学校の編入の手続きは同時進行で行われていたのよ。口頭だけどね」
母さんがその場にいたから館長兼校長に直接交渉もかねての話だった……なかなか高度な編入手続きだよね。
やっぱりなんとなく解られていたのかと思っていた矢先、奥の扉からパムレが入ってきた。
「……げっ。久しぶり」
「あらマオ久しぶり。全然顔を出さないから心配したのよ。『ほら膝に乗りな?』」
パムレを膝の上に乗せるのってガラン王国の血筋的なモノが関係してるの?
パムレもパムレで初手『げっ』って言ったよ?
「大叔母様も来るなら手紙でも伝言でも先に言ってくだされば良いのに。ゲイルド魔術国家の姫とは仲良くなったから段取りとか取り繕ってもらえますよ?」
「あらそうだったの? 今イガグリに行ってもらってるけど、その方が手間が省けそうだったわね」
まあそもそも何の用事で来たのか気になるところだけど。
「ただいま戻ったっす。明日の早朝に謁見の間にて打合せっす。あ、リエン殿も同席願うっす」
「俺も?」
「シャムロエ様から聞いたっすよ。『魔術研究所の館長の息子』という話なので、一応大切なお客様扱いっす」
え、じゃあ寒がり店主の休憩所と魔術研究所の館長の関係性も知られたのかな?
「訳あってタプル村の寒がり店主の休憩所に預かってもらってたらしいっすね。久々の故郷はどうでしたか?」
あ、そういう風になっているのね。
「まあ、寒いよね。あはは」
「館長様は姿を出せないけど、代理としてその息子に出てもらうわ。と言っても立ち会うだけになるけどね。あとマオも来てもらえる? まさかマオもいるとは思わなかったわ」
「……パムレットで手を打つ」
「待ってください大叔母様、私は?」
「もちろんシャルロットもよ。今回一番来て欲しいわ」
「ほっ」
それにしても一体何事だろうか?
☆
謁見の間ではガラン王国の重要人物とゲイルド魔術国家の重要人物が集まっていた。
それに加えて三大魔術師のマオと三大魔術師の魔術研究所館長代理(俺)もいる状態で、状況は少し緊張気味。正直俺ここにいて良いの?
奥の方にはポーラとカッシュも立っていて、すごく真剣な表情で立っている。
「はるばるよくぞ来てくださった」
「こちらこそ突然の訪問に対応していただき感謝します」
「それで、何の話を?」
「はい。これからの時代、三国共同で物資の流通を均等に行いたく、新しい流通をと思い提案を持ってきました。本来は女王が直接お伺いする内容ですが、代理として先代女王の私シャムロエが持ってまいりました」
「ふむ」
おおー、なんだかわからないけど難しいぞ?
隣にいるパムレはあくびをしているし、きっとパムレもわからないのだろうな。良かったー俺だけ仲間外れにならなくて。
『……あー、三国はざっくり言うと縦に並んでいるから、物資を持ち込む際にどうしてもミッドガルフ貿易国を通す必要がある。で、関税とかなんやかんやでガラン王国とゲイルド魔術国家間の物資のやり取りは満足に行えない状況がずっと続いていたー』
パムレわかってたの!?
というか『心情偽装』で心の中に話しかけてこないで!
あと『心情読破』で俺の心を読まないでよ!
「して、新しい流通とは?」
「大型の船です」
「何と。研究をしていたとは聞いていたが、とうとう?」
どういう事?
『……あー、ガラン王国は他の国と比べて森が多いから船の材料となる木材が豊富。そして動物もたくさんいるから皮も取れる。だからガラン王国は他の国と比べて木を使った建造物の技術は優れている。で、今回その大きな船を作ったから、陸を使わずに海から届けようという提案』
解説ありがとう! でもね、すっごく俺が無知だったって気がするよ!
「だがこの国は見ての通り雪が凄い。昨夜も猛吹雪があったと思うが、大丈夫か?」
「二通り考えております。まず、悪天候時はガラン王国とゲイルド魔術国家の途中にある『孤島』を休憩地点とします。もう一つは強行突破です」
「さすがガラン王国。強行突破できる自信があると?」
「ええ。実績がすでに今ここにありますから」
そう言ってシャムロエ様は胸に手をあてた。
なるほど。
もしかしてシャムロエ様は昨日船で来たのか。
「だが一つ心配事もある。ミッドガルフ貿易国がこの貿易に納得がいくかどうか」
「ふふ。すでに説得済みです。もちろんいくつか条件はありましたが、平等に物資の取引が行われるのであればそれ以上に言う事は無いと」
「ふむ? あれほど貿易には厳しいミッドガルフ貿易国の王族が? 心変わりでもしたのか?」
……なんだろう。多分俺たちが悪魔を退治したからかな?
あれって場合によっては各国に被害をもたらす出来事だったし、もしかしたらその事件を知っているかも? という感じで交渉をもちこんだのであれば、ミッドガルフ貿易国は嫌でもはいと言わざるを得ないだろう。
「ふむ。正直これからさらに雪が強くなる季節に入るため、食力調達は我々にとっても生命線。ガラン王国の協力を直接受けられるのであればそれ以上にうれしいことは無い……が」
「何か不満でも?」
「ミルダ様と魔術研究所の館長様にも伺いをしたい。この国は我々よりも偉大な方がいるからな」
え?
それって……今の話をミルダ様達に投げるということ?
「まあ、そう言うと思いました」
「許してほしい。代々こういう国故に我々は代理人」
「いえ、今私はゲイルド魔術国家の王と対談しています。そしてこれはこの場で決めてもらう話であり、もし決まらなければ無しという事で帰ります」
「なっ!」
シャムロエ様の目は真剣だ。
「ミルダ様は確かに国政に干渉できますが、決めるのは王です。そしてこの場には三大魔術師マオと魔術研究所館長の息子がいます。大陸随一の人物がこれほど揃っている中、貴方は無様にも逃げるのですか?」
「それは!」
おいおいおい、大丈夫なのこれ!?
「それに、私は遠い血筋の娘シャルロットを現在ゲイルド魔術国家に預けている身。言ってしまえば貸しが一つある状態。それを『ゲイルド魔術国家の王』に返すためにこの案を持ち込みました。そろそろ名ばかりの王族ではなく、偉大なことを成し遂げた人物として成長なさっては?」
「さすがはガラン王国のシャムロエ様。その率直な意見は突き刺さりますな。わかった。文書は後ほど残させてもらうが、ここで決定させてもらう。ガラン王国との船での貿易に我々ゲイルド魔術国家も賛同するとしよう!」
こうして、ガラン王国とゲイルド魔術国家の貿易が開始するという歴史的瞬間を間近にしたのだった。
☆
少し遅れて学校へ登校。
謁見の間では真顔だったポーラとカッシュも今は緊張が解けて俺たちに話しかけてきた。
「ふふー、とうとうワタシの父上の判断でガラン王国との貿易が決まったのね。これは大きなことよ!」
「姉様うれしそうだね」
「当然よ! 色々偉大な人物に囲まれて肩身が狭かったのが解放されたのよ!」
「あはは。僕は気にしていなかったけど、姉様がうれしいならいいや」
そんな二人の会話を見つつ俺はシャルロットに話しかけた。
「シャルロットせんせー質問」
「はーい」
「ガラン王国からゲイルド魔術国家にはどんな物資を持っていくのかな?」
「そうね。動物や野菜の食材や、木などの資材かしらね」
「ゲイルド魔術国家からガラン王国には?」
「……うん。多分だけど……魔術に関係する技術かしら?」
一見平等に見える貿易だけど、こと軍事だけを見れば、ガラン王国の戦力がさらに上がる。
それを伏せて『偉大な決定』という事を前面に押せば勝てる交渉。やっぱりシャムロエ様は怖いなー。




