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リエンの苦悩4


 ☆


「得体は知れないけど、レイジが見つからない理由が少し理解したわ」

 ため息をつきつつマリーさんはお茶を飲んでいた。

 クアンは目を閉じて考え込んでいた。

「姿を消すとかではなく『無』の魔力ね。後発魔力については調べていたけど、まさかそんなものもあるなんて思わなかったわ」

「そういう意味でも『無』なのだろう。無いものに対して有ると言うのは矛盾だからな」

「ヒルメ様の話から察するにこの情報一つでクアンは答えにたどり着くって言ってたけど」

 その問いにクアンはゆっくりと目を閉じた。

「今すぐは無理だ」

「あら、クアンならすぐにでも『見透かしの望遠鏡』を強奪してレイジを発見してクロノの腕を取り戻してハッピーエンドまで言うと思っていたわ」

「買い被りすぎだマリー女史。リエン少年の『無』の魔力の存在については一つの土台となる情報に過ぎない。ただでさえ魔術というクーにとっては意味不明な存在ですら原理をようやくつかみかけている中で『無』という魔力の存在はさらにクーを陥れる。二次元的にとらえてどこまでの範囲が『無』となるのかさえ分かればまだ仮定を導き出せるが、何よりも情報が足りない」


「マリーさん。クアンの言っている意味がわかりません」


「要するに『わかんね』ってことよ」


「クーが一番嫌いな単語上位に君臨する『要するに』を使うとは、これは戦争の合図と受け止めよう」


 しょうがないじゃん。クアンって難しい単語をつらつら言うんだもん。こっちは十六歳だよ。クアンも同年代だけど平均を考えてよ。

「せめて何もないところから何かが出てくる現象を目で見れれば何かにつながるかもしれないな」

「魔術じゃ駄目なの?『火球』っと」

 手の上に火の球を出して見せた。

「それは体内に宿る魔力が変換された物質と言えよう。どちらかと言えば可燃性の気体が着火して燃える現象に近い」

「じゃあ精霊の出現は? セシリー出てきてー」

『ほい』

 ポンっと音を立てて登場。


「物質ではなく生命体? いや、精霊は全体が魔力と結論付けたから、体内の魔力が生命体を……しかし記憶は宿しているから毎回同じ個体となる」


 予想以上の好感触。俺からすればさっきの『火球』を出すのも『精霊』を出すのも似たようなものだと思うけどね。強いて言えば精霊って意思関係なく出てくるから、クアンの言う着火というのは無い感じかな。

「かなり時間をくれ。その間に『見透かしの望遠鏡』を強奪するなりしてくれれば都合が良いだろう」

 強奪って。

「確か以前シャルロットが天井に向けて『一か月くらい寝てなさい』って言ったらゲイルド魔術国家にあるとある組織の幹部が倒れたんだっけ」

「フーリエから話は聞いているわ。『北の医師団』という組織で今はゲイルド魔術国家内だけで活動しているわ。活動内容も薬学を駆使した患者の看病とかだし、かなり縮小したみたいね」

 以前ミッドガルフ貿易国で会った時はあんなに大きな態度を取ってたのに、今は町の病院か。

「それなりに住人からの信頼もあるし、強行手段で施設破壊して『見透かしの望遠鏡』を奪うのはちょっとできないし、フーリエにお願いして専門家を派遣してもらう事になったわ」

 あ、結構色々と手を進めてくれてたんだ。

「って、専門家?」

「ワタクシは直接面識が無いけど、そうね。そろそろ自宅についているんじゃないかしら?」

 一体誰だろう。


 ☆


 寒がり店主の休憩所に帰り、扉を開くとパティが出迎えてくれた。

「おかえりなさいです!」

「ただいまー。あれ、パティだけ?」

「店主さんは厨房にいます。他の方はお部屋にいます。リエンさんも是非来てください」

 手を引かれて行った場所はシャルロット達の部屋。

 扉を二度叩いて中から声が聞こえてから入ると、見覚えのある顔ぶれが揃っていた。

 シャルロットとパムレは椅子に座っていた。


 フブキは床に仰向けで寝ていた。


「あ、専門家ってフブキの事か」

「この状況で何も突っ込まんとは、リエン殿も冷たくなったのう」


 いや、そもそも状況わからんし。

 と、そこでパムレが話始めた。

「……簡単に説明する」

「え、うん」



「……フーリエからお願いされてパムレはビューン。タプル村にボーン。フブキ捕まえる。パムレ達ビューン。で、今」



「うん。理解。フブキ、大変だったね!」



 要するに飛んできたのね。しかもパムレに連れられて。

「パムレちゃんから抱き着かれて飛ぶなんて、私からすれば幸福の極みだと思うけどね」



「……え、やってみる?」



「へ?」


 ☆


「もう二度とあんな軽口は言わないと誓うわ」


 現在フブキの隣でシャルロットが仰向けで寝ている。

「ちなみにどこまで行ってきたの?」

「……シャムロエとトスカが優雅にお茶を飲んでいる近くの池に突っ込んだ。怒られる前に帰ってきた。多分自己ベスト更新レベルの最高速度だった。いやー、焦った焦った」

「何老後の生活に水差しちゃってるの!?」

 と、そこへ母さんが部屋に入ってきた。



「マオ様がガラン王国城の庭園に大穴を空けたので、ワタチも含めて総出で穴埋め作業をすることになったのですが、何か言い分はありますか?」


「店主殿、私が安易に提案したから起こってしまった事件です。あの、お店の店員しばらくやりますので許してください」


「では看板にがっつり『現在ガラン王国の姫が研修中』って書き込みますね。有名人が店員になるとお客様も来てくれるので忙しくなりますねーふふふー」


 そう言って母さんが戻っていった。



「完全に怒ってるじゃん!」


 ☆


 フブキの調子も戻ってきてようやく普通に会話ができるようになって、広間で昼食を取りながら話し始めた。

「北の医師団の本部へ潜入して『見透かしの望遠鏡』を奪うという事じゃな。まあ無理では無い」

「え、不満点があるの?」


「雪国の装いを恵んでくれぬか? もしくはフェリー殿を頭に乗せても良いか?」

「よく考えたらめっちゃ薄着じゃん。パムレもその辺配慮してよ!」

「……うっかり」


 クアンが強奪とか言ってたけど、その前に遠い南の土地から一人の少女を誘拐しちゃってるんだよね。もう俺の周囲ってやばい人しかいないじゃん。

「とりあえずフェリー乗せるね。出てきてー」

『あいー』

 ぽんっと音を立ててフブキの頭の上に乗った。

「儂の主はリエン殿にしたいくらいじゃ。本当の主は宿の手伝いをしているという悲しい事実よ」

「一応一国の姫だからね」

 俺は一般人だし、地位的な部分を考えるならシャルロットの下に就いた方が多分いいと思うよ。

「そういえば以前『危篤者の代弁者』の通り名で有名なプルーがフブキの事を評価してたよ。三大魔術師とは別次元でこの大陸では強い人みたいな感じで」

「儂はこれでも裏世界ではそれなりに活躍しておるのじゃぞ? 今は田んぼや畑を耕すことに全力を出して居るがな」

「えーじゃあ少し体訛ってるんじゃない?」

「はっはっはー。何を言う」

 そう言ってフブキは昼食を食べ終えて立ち上がった。



「すまぬリエン殿。ちょいと手合わせせぬ?」



「言わなきゃよかったかな!」


 ☆


 突然フブキと手合わせすることになった。

 影の者頭首で三大魔術師に引けを取らない強者。

 何度か稽古をつけてもらったけど、一度も一本も取ったことが無いんだよね。

「あのあの、ちょうど良い感じの木の棒を持ってきました!」

 パティが木の棒を二本持ってきて、俺とフブキはそれを受け取った。


「……せっかくだから木刀にしたげる。ほい」


 シュルルルルルと音を立てて木の棒があっという間に剣の形に!

「パムレ殿。もう少し鋭利でないと切れぬぞ?」

「攻撃力はいらないんだよ! これでいくよ!」

 パムレはこれだけでお金には困らないと思うよ。

「とりあえずリエン殿は打ち込んできて欲しい。今回の任務は物品の回収。殺生は避けたいからのう」

「分かった。じゃあ行くよ!」

 そう言って俺はフブキに近づいて木刀を振った。

 普段ならかすりもしない木刀だが、フブキはあえて攻撃を受け流して横に移動した。

「せい! てい!」

「はっ!」

 二度。三度。それらも受け流して避けた。

「間合いが取れている。強くなったのう」

「まだまだ!」

 何度も打ち込むも、全部受け流される。

 足元を狙った蹴りも避けられ、フブキに一打を与えられない。

「息が切れているのう。そろそろ手元が緩みそうか?」

 一瞬だった。

 まるで流れるように木刀の底を切り上げられ、俺は木刀を手放してしまった。

「あっ!」

「ふう、なかなか良い相手じゃったぞ」

「いや、いや、ぜん、ぜん、あいて、に、ならな、かった」

 もう息が上がって全然話せない。

「相手が儂じゃからそう思うだけで、実際かなり良い。もう少し呼吸を整える訓練が必要かものう」


 ゴッ!


「ふむ、訂正しよう。儂が一番油断していたわい」


 まさか切り上げられた木刀がフブキの顔面に直撃するとは思わなかった。

 もしかして運命の魔力関係してる?


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[一言] >「もう二度とあんな軽口は言わないと誓うわ」 wwww
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