リエンの苦悩3
「後発魔力『無』?」
「存在を消すのではなく、かつ認識を阻害するわけでもない。存在を無くすことで晦ます魔力はたとえ心を失った人間でもあやつを探すのは不可能。じゃが、数少ない『無』の魔力に対してつなぎとめる魔力は偶然にも近場にあるものじゃな」
「つなぐ……もしかして『運命』?」
「さてな。それ以上は話せぬ。神の業界も色々と規律が厳しくてのう」
その割に俺と契約しちゃった神とかいるけどね。
「わかった。ありがとうございます」
「さて、長話しすぎた。これ以上やると現実世界のリエンが『ポン』するからそろそろお開きにしようぞ」
「だから『ポン』ってなんだよ!」
★
目を覚ました瞬間、すさまじい激痛が頭に走った。
もしかして『ポン』する寸前だったのかな!?
「あうう、まさか息子に頭突きをされる日が来るとは思いませんでした」
「か、母さん!?」
ベッドの近くで母さんが頭をおさえてうずくまっていた。
「うなされていたので布団をかけなおしてたら急に起き上がるのです。びっくりしましたよ」
「ごめんごめん、いてて」
「今治しますね『治癒』」
そう言って母さんは俺の頭に手を当てて、傷を癒した。
ん? 傷を癒した?
「って、人間母さんじゃん!」
「変な造語を作らないでください。間違ってはいないので否定しませんけど!」
「人間母さん治癒術使えるの!? あれってゲイルド魔術国家の王家しか使えないんじゃないの!?」
確かポーラの一族って治癒術があるから王族になれたんだよね。
「術式が王族にしか伝わってないだけで、実際誰でも使えます。あ、これは内緒にしてくださいね。魔術研究所で長年研究してたらうっかり見つけちゃっただけなので」
「王家の秘術!」
この場にポーラやカッシュが居たら卒倒しちゃう事実じゃないかな。
「それよりも調子はどうですか?」
「調子……あ」
そう言えば色々と悩みに悩んでミルダさんに相談してそのまま寝ちゃったんだっけ。
「うん。なんとなくだけど頭の中がすっきりしたかな。まあ、結局レイジを見つけてクロノさんの腕を治さないと俺は助からないことに変わりはないけどね」
「そうですか。親としては息子が危険な目に合っている以上見逃せませんし、全力で応援したいのですが、その前に一言良いですか?」
「何?」
そう言ってガバっと布団をめくられた。
「なーんでプルー様が添い寝してるんです?」
「待て人間悪魔。プルーは不可抗力だ。呼ばれただけで転移先がここだっただけだ。疑うならプルーに『心情読破』を使ってみよ。今の貴様ならそれくらいできるだろう」
水色の目がすげー金色に光出した。と言うか神に対して『心情読破』使えるんだ。
「ふむ、本当みたいですね。仕方が無いから信じましょう。リエンは紳士なので何も触れてないのは調べるまでもありませんし、リエンに免じて許します」
「一度その息子が世界の中心思考を改めた方が良いぞ?」
俺が突っ込む前に色々と言葉が飛び交っていて突っ込み損ねた。とりあえず心の中で『何でプルーが隣で寝てるのー?』と叫んだ。
「それはそうとリエンがこっちに戻った直後、ヒルメから伝言を受け取ったぞ」
「ヒルメ様から?」
「クロノの腕を治したら、話したいことがあるとの事だ。何故リエンが今の世界の今の時間に生きているか教えられる範囲で教えるとのことだ」
「俺が今の時間に生きている理由か……」
重いな。今までの流れを考えると何か危険な香りが漂っているよ。
「杞憂はするな。今回クロノの腕が奪われリエンの命の危機に追い込まれたのは『偶然』に過ぎない。前世のサイトウとやらは捨て猫を家で飼うほどお人よしだそうだ。今回の件もまたサイトウのお人よしに過ぎないため、重い話ではないのは保障すると言っていたぞ」
そうなの……か?
まあ、プルーやヒルメ様がそう言うならそう思おう。
「ところで」
母さんがプルーを持ち上げた。
「いつまでリエンの隣で寝てるんですかー!」
「どあああああ!?」
☆
外に出ると朝になっていた。
なんだか久しぶりにぐっすり寝た気がする。
「ミルダさん、ありがとうございました」
「いえいえ。迷える人を導くのも巫女の務めです」
「プルーも来てくれてありがとう。正直助かった」
「次は場所を考えて呼ぶのだよ?」
毎回ベッドとか準備しないといけないのかな。
「ミルダさん。一つ、これは凄く個人的な質問です」
「何でしょう」
「神様は人間に助けを求めて来ないのは、強いからですよね?」
その質問にミルダさんは少し驚いた表情を見せた。
「そうですね。神様は強いから人間に助けを求めません」
「ありがとうございます」
一礼して俺は教会を後にした。
☆
魔術研究所に到着し、門番に話をしてマリーさんの部屋に案内してもらった。
実際何度も来ているからわかるんだけど、一応体裁らしい。
「失礼します」
『どうぞ』
部屋に入るとあら不思議。
「すげー本が山積み。もしかして部屋間違えた?」
「貴方の目は節穴かしら? ワタクシの声を聞いて入ったでしょうし、今ばっちり目を合わせてるわよね?」
いや、そうだけど、本と本の間にマリーさんの顔があるんだもん。
『すまないマリー女史、あと二日あれば全て同じ場所に戻すと約束しよう』
「仕事をやってもらっているから良いわよそれくらい」
なるほど。クアンの所為でこうなっているのか。沢山ある本の迷路の中に居るのだろう。
とりあえずこの右の本を左にずらそう。
『おいリエン少年。その『誰でも簡単魔術のまの字から教える優しい教科書』を動かすな』
「見えてないのになんでわかるの!?」
え、実は俺が見つけてないだけで見える場所にクアンは居るの?
『音の場所と音の種類でそれくらい分かる』
「もはや音の魔力を持っているとしか思えない洞察力ね。しかも同時進行で書類作業もしてくれてて超有能なのよね」
「ミリアムさんの所に帰ったらマリーさんの仕事が一気に増えますね」
「増えるんじゃなくて元に戻るのよ。まあ、二割はフーリエがやってくれるらしいから良いけどね」
とりあえず本を避けてマリーさんの近くまで行き椅子に座った。
「おいリエン少年。クーが椅子に見えたのであれば君の母親に事実を三割膨らませて言うぞ? 女性を椅子にしたなんて君の母親が知ったら何色の涙を流すだろうな」
「本当にごめんなさい。マジで椅子だと思って座りました。怪我は無いですかクアン様」
え、いやいや、普通ありえないでしょ!
いくら俺でも人間を椅子だと思って座ったりしないよ?
確実に俺は椅子に座ったよ!?
「クアン。今のが『心情偽装』よ。相手の心を書き込んでクアンを一時的に椅子だと思い込ませたのよ」
「マリーさんの仕業かよ! さらっと地味だけど高度な『心情偽装』を使わないでよ!」
だよね!
いくら俺でも人を椅子扱いしないよ!
「遠隔で人を物に認識させる。なるほど、つまりクーを犯罪者に見立てることもできて、敵同士争う事も可能な状況にもできるわけだ。身をもって体験できたから特別に店主にチクるのは抑えよう」
「助かるよ。あはは」
「それより何の用事かしら?」
「あ、ゴルドさんからこれを預かってて昨日渡しそびれたんです」
そう言ってマリーさんにゴルドさんから預かった箱を渡した。
「へえ、懐かしいわね。昔友人と作ったオルゴールね。見た目も新しいし、わざわざ作ってくれたのかしら」
そう言って開くと、中から綺麗な音が鳴り響いた。
「ん? リエン、これもゴルドから渡されたの?」
そう言って箱の中に手を入れて、中から小さな棒を取り出した。
よく見ると小さな筆。先端が光っていて、まるで『蛍光の筆』の小さいバージョンだ。
「いや、俺が見た時はそれは無かったけど」
「光の魔力もある。クアン、何か説明がつく?」
「情報が過疎っているぞマリー女史。そうだな、光の魔力を一つの物質と考えて、それは一部の存在しか作れないと仮定しよう。隣国からここまでの旅路で一度リエン少年が箱の中を見た時には無かったという事は途中で入れられたというのは確定。光の魔力を持つカグヤ殿がその筆を箱の中に入れる理由も無し。口に出すのすらバカバカしいが、リエン少年は『光の神』とやらと出会って知らぬ間に入れられたのだろう」
「です」
「です。じゃない! 結構大事な話よ! なに貴方の手柄にしてるの?」
いや、全部クアンが説明してくれたし。
「地球があれしてるのでヒルメ様が避難してて場所が特殊なあれなので多分あれしたときにあれしたんです」
「クアン!」
「地球の時間軸が狂い管理担当者の光の神がリエン少年の知る場所に一時的に避難しているらしく、そこで出会ったリエン少年は知らず知らずに受け取ったのだろう。神の恵みもしくは神の気まぐれ程度に受け取っても問題無かろう」
やべーよこの仮説だけで真実を言っちゃう系少女。適当に話しても全部通訳してくれるね。
「まあこれは有効活用しましょう。クアン、ほら」
そう言ってマリーさんはクアンに『蛍光の筆』を投げた。
「光り輝く筆。む? インクが存在しないのに無限に書ける。いや、魔力がインクだとすれば無限では無いか」
「ただでさえインク消費が激しいんだから今後のメモはそれで書きなさい。魔力はワタクシが追加するから」
「おお、それは助かる」
「あと、それで魔術的な陣を描かないでね。マジで召喚とかできちゃうから」
「クーは好奇心と常に戦いながらこの筆を握らないといけないのか。なんというアイテムを渡してくれたんだ」
手がプルプル震えてるよ。どんだけ魔術を使いたいんだよ。
「そう言えばその筆をくれた人から一つアドバイスをもらったんだ」
「アドバイス?」
そして俺は後発魔力『無』について、マリーさんとクアンに話した。




