ガラン王国の歴史
夜になり寝る前に少し運動しようかなーと思い腕立て伏せと腹筋を自主的に行おうと思ったんだけど、普通にやるのはつまらないからセシリーに『犬』を召喚してもらって、それを背中に乗せながら腕立て伏せを行っていた。
「なかなかいい感じの重さ……サンキュー」
『ワフッ!』
「ぬおおおお……あー、駄目だ。疲れたー」
体の力が抜けて床に伏せる。すると『犬』は俺の背中から降りて顔を近づけて舐めてきた。
「うお、汗を拭きとってくれてるのか? かわいいな」
『クウン』
「よーしよし、うん、シャルロットが小さいもの好きなのは仕方がないとして、このワンコのモフモフな感じはなかなか癖になるな……うむ、シャルロットの言い分も分からなくはない」
そう言って伏せていた体を起こして膝の上をポンポンと叩くと『犬』は俺の膝の上で丸まった。
白い毛並みに丸っとした目。うん、これが可愛いという奴か。
「おおー。タプル村からガラン王国まで行くのに一度乗せてもらったけど、改めて触ると結構モフモフだな」
頭を撫でると嬉しそうに眼を細めていた。
「そろそろリエンの顔面をぶん殴って良いかしら?」
「うぉおおああああ!? 部屋にいるなら言ってよ!」
背中からシャルロットが『ぬっ』っと登場してきた。
「『認識阻害』の練習ついでに侵入したら、リエンが立派に自主練をしていて関心してたのに、まさかワンちゃんをモフモフし始めるとは思わなかったわ」
「姫なんだしもう少し節度とかわきまえようよ!? 俺男だよ!?」
「長い付き合いなんだし部屋に入るくらい今更でしょ」
やれやれという顔をするシャルロット。
「俺は別に良いけど、部屋の隅っこにいる『空腹の小悪魔』がさっきからすげー殺気を出してるからね。ガラン王国の大臣の補助を兼務しているから下手な行動はしない方が良いと思うよ」
『ご安心くださいギャー。とりあえずラルト様に『リエンお仕置きジュース』を飲ませて今日は徹夜で勉強させますギャー』
「私としたことが完全に店主殿の事を侮ってたわ」
俺は悪くないからね! シャルロットが部屋に入ってきたのが原因だからね!
「店主殿のリエンへの執着心は流石の私もびっくりね。私は王族という立場上母上からは分かりやすい愛情表現という物を受け取ったことは無いから逆に羨ましいわね」
『シャーリー様は真面目な方ですから例えシャルロット様の事を第一に思っていても、それを表現することは難しいんだと思うんですギャー』
「そうね。でも時々思うの。もし私がリエンと兄妹で店主殿の娘だったらどうなってたのかなーって」
『今と大して変わりませんギャー。普通にご飯を食べて普通に生活する。もしシャルロット様がワタチの娘なら魔術研究所の次期館長になってたかもしれませんね』
うわー。それはそれで大変そう。あ、でも……。
「シャルロットの結婚相手をシャーリー女王によって勝手に決められそうになった時、他人なのにガラン王国城をぶっ壊すくらい暴走する母さんだから、もし本当の娘になったらミルダ大陸をぶっ壊すくらい可愛がるんじゃない?」
「え? 結婚相手!? ガラン王国城壊す!?」
『ちょ、リエン!?』
ジリジリと空腹の小悪魔へ歩み寄るシャルロット。
「店主殿、その話詳しく聞かせてもらいますか!? え、私のために色々と奮闘を?」
『し……仕込みがあるのでー』
「厨房ね! いきなり行くと驚くから予告してあげる。今から思いっきり抱き着きに行くから覚悟しててくださいね!」
『ギャー! リエン、後で覚えておきなさい!』
ピューと部屋から出て行くシャルロット。遅れて母さんの悲鳴が聞こえてきた。簡単に捕まったんだな。
『相変わらず元気な娘じゃ』
『悪魔と精霊。それらの種別を気にせずに話しかける人間は珍しいー』
ポンと二体の精霊が登場。
「あ、セシリー。『犬』ありがと」
『うむ、リエン様のためなら惜しみなく出そう』
いや、俺の魔力で出てるんだけどね。
「それはそうとシャルロットみたいな人間って珍しいの?」
『ウチの住んでいた場所では親しいというよりも崇めてたー?』
『我もそうじゃな。セルシウス様ーなどと呼ばれておったが、ただ怯えられていただけじゃな』
精霊と人間の間って溝みたいなものがあるのかな。まあ魔力量の違いとかもあるし、生きている年数も違うもんね。
「まあシャルロットの場合は音の魔力も保持しているし、普通の人間という区分に入れて良いかわからないけどね」
『それもそうじゃな』
『シャムロエと音操人の間の子孫かー。ウチたちも年取ったねー』
精霊が年取ったとか言うの?
「ガラン王国の歴史を少しだけ勉強したけど、確かシャルロットの上にシャーリー女王。で、その上がシャンデリカ様。そしてシャムラ様。シャルドネ様に俺らが知っているシャムロエ様と。本当に全員『シャ』がついているんだよね」
お陰で資料を見た時に一発で覚えれたよ。
「あれ? そう言えばパムレが以前ゴルドさんの事を怒っていたっけ。確かシャルドネ様が危篤寸前で帰ってきたって」
『ふむ、シャルドネとやらが亡くなる寸前となると数百年前かのう』
「パムレの言い方だとシャルドネ様の大切な人ってゴルドさんっぽいけど、子孫を残すために別な誰かと結婚したという事なのかな?」
『む? そもそもシャルドネとやらに娘や息子はおらぬぞ?』
え? そうなの?
『前提としてシャルドネに音の魔力は宿っておらぬ。詳しい話は省くがシャルドネとシャムラは父親が異なる姉妹じゃな』
「姉妹だったんだ。あれ、でもあまり文献には残って無いよね。名前だけならシャンデリカ様とかは時々聞くし、シャムロエ様の話ではシャルドネ様の名前しか出てこなかったような」
と、そこへ部屋がゆっくりと開いた。
そこにはシャルロットと抱っこされた母さんが立っていた。
俺はゆっくりと扉を閉めた。
「ちょ! 何で閉めるの!」
いやいや、母さんが抱っこされてる光景を見せられる息子の心情を是非とも得意の『心情読破』で読み取って欲しい物だ。
「それにしてもなかなか深い話をしているわね。まさかリエンの口からシャムラ様の名前が出るとは思わなかったわ」
「懐かしいですねー。ガラン歴史の『黒』とも呼ばれる時代。彼女がいなければもう少し良い時代になったと思うんですけどねー」
「店主殿……一応私の前でそれを言われると刺さります」
母さんは容赦が無いなー。
「もしかして聞いちゃ駄目な話?」
「うーん、それほどでも無いわね。実際店主殿は当時体験しているわけだし」
「あの時代は超頑張って乗り切りましたね」
「いやいや、何があったの?」
「音の魔力を最大限に駆使して税金を巻き上げたのですよ」
うわあ。これは聞いちゃいけない奴だったな。




