大臣選挙5
「これより大臣任命の儀を行う。ラルト、前へ」
兵士の一人が声を出し、ラルト隊長は謁見の間の中央に立った。
「選挙によりラルト隊長は本日をもってガラン王国軍第一部隊隊長を退任し、大臣になることをここに宣言する」
「承りました」
ラルト隊長は腰の剣をシャーリー女王に渡した。兵士をやめるということで剣を返すということなのかな? やはり伝統ある国はその辺をちゃんと決めてるんだな。
「……リエン、試しにラルトとシャーリーに『心情読破』を使ってみて」
「え」
いや、まあ、こういう状況での二人の心境とか少し気になるな。ちょっとだけ使ってみるか。
『それっぽく! それっぽく! とりあえず剣を渡せばそれっぽくなりますよね!』
『ううう受け取れば良いのかしら!? 受け取ったら近衛兵に渡せばそれっぽくなるかしら!?』
前代未聞の状況かよ!
何だよ『それっぽく』って!
「……兵士から大臣になった例は無い。今まで貴族からしかならなかったし、まあそうなるよね」
「それにしたって演技をしてまでやる必要ある?」
「……あれ」
パムレの視線を追ってみると、そこにはミッドガルフ貿易国のガルフ王が来賓の席に座っていた。
「……タイミングが悪かった。今回偶然トスカとガルフ王が対談するということで来てたみたい」
「何故?」
「……ガラン王国の大臣選挙は市民にとってはただの騒がしい出来事だけど、他国からすれば次の交渉相手になりかねない。だから誰が大臣になるか視察も兼ねて来たみたいだけど、問題が発生した」
問題……それは?
「……大臣候補が全員不正しちゃってたから、候補が無くなってしまってヤバイとなった時にラルトが候補に上がっちゃった。正直ガラン王国って歴史だけ無駄に長いだけのハリボテだね。そのタイミングでガルフ王も居たもんだから、もう家族にとっては笑いのネタにしかならないよね」
パムレがすげー辛辣な事言ってるよ! いや、俺も前々からそう思ってたけどね!
と、そんなこんなでラルト隊長が立ち上がってまた中央に立つ。
そこでガルフ王が立ち上がり、拍手を送った。
「大臣任命、おめでとうございます。しかし、就任直後のこの場で申し上げるのはとても心苦しいのですが、先日まで軍人だった者が様々な金貨の流れを把握できるとは到底思えないのですが」
いつになく強気の態度である。
「ご指摘誠にありがとうございます。若輩者故、これから勉学をしつつ国の財布を持つものとして、日々最善を尽くさせていただきます」
「努力だけではどうにもならないだろう。どうだろうか、我々の国から一人、算術が得意な者を呼ぶと言うのは」
と、ガルフ王がシャーリー女王を見た。
「貸し……ですか?」
「いえいえ、これは『お返し』です。ミッドが再三に渡ってご迷惑をおかけしたお詫びとして、できる限りのご協力をさせていただきたくご提案をさせていただこうかと」
「それなら間に合っております。ラルトの補佐としてすでに協力者とも契約をしております」
「ほう? 我々の知っている者ですかな? 言っておきますが我々の考えている者は商人の中でも頭が切れる強者です。納得ができる人材であればこの場で逆立ちでもしてあげましょう。はっはっは!」
よほど自信があるのだろうか。ガルフ王はすさまじい大声で笑いだした。周囲のお付きの人たちも微笑んでいる。
「寒がり店主の休憩所の店主殿です」
「は?」
母さん?
シャーリー女王の口からまさか俺の家の名前が出るとは思わなかったし、多分母さんの事だよね?
「もはや説明もいらないでしょうけど、ミルダ大陸の各国のみならず、孤島にまで宿を持っている『寒がり店主の休憩所』の店主殿にお願いをして、ラルトの補佐をしてもらいます。すでに昨日お願いをしてきました」
「なっ! 馬鹿な! しかし……あの……」
ガルフ王がすごく困った口調で何かを言いたげな感じ?
と、疑問に思っていたらシャルロットが俺に耳打ちをしてきた。
「多分だけど、ガルフ王は店主殿の正体を知っているんじゃないかしら。王族のごく一部は魔術研究所の館長の正体を知っているし、でもこれは極秘だからこの場で具体的な発言ができないんじゃないかしら」
「あーなるほど。でも今は魔術研究所の館長じゃ無いけどね」
「あと今の情報は私も初めて知ったんだけど、正直相当焦っているわ」
「え? シャルロットが?」
焦る要素無くね?
「とうとう店主殿がガラン王国の内部に入ってきたかーと」
「もうガラン王国は母さんに侵略され始めてるね。ガンバッテネ」
いや待てよ? 母さんが本気でガラン王国を乗っ取ったら俺の生活も大変になるんじゃね?
と、そんな事を考えていたらシャーリー女王が話始めた。
「あくまでも一時的な契約です。ラルトが大臣として仕事がこなせるようになったら引いてもらう約束となってます。もしガルフ王が寒がり店主の休憩所の店主殿よりも優秀な商人をご存じでしたら、ぜひ教えていただきたいです」
「む……いや、ここは引こう。これ以上は何も無い」
そう言ってガルフ王は椅子に座った。そしてラルト隊長は無事に財務大臣となり、式は終わったのだった。
☆
「ということで店主様。どうかラルトへ大臣とは何かをご指導していただけないでしょうか」
「なーにをふざけたことを言っているのですか! ワタチは今タプル村で今度行われる村の清掃活動の宣伝用回覧板作成で忙しいんですよ!」
ガラン王国女王とその近衛兵は全員母さんに頭を下げていた。
ちなみに場所は『寒がり店主の休憩所』のガラン王国城下町店なんだけど、店の周囲は兵たちに囲まれて店の中もガラン王国城の人達だらけである。
「というかすごく営業妨害ですよ! 大臣選挙があるから今日はお客様がいないですけど、これじゃあまるでワタチの店で事件が起こっているみたいじゃないですか!」
「ラルトが無事に大臣の仕事が全うできるかどうかの瀬戸際なので、もはや大事件です」
「勝手にとばっちりじゃないですか!」
シャーリー女王、謁見の間で大胆な嘘を言ったんだね。そりゃ母さんも怒るよね。
「というか何でここまで兵士を呼んでるの?」
俺の質問にシャルロットが答えてくれた。
「うーん、私の想像だけど、ガルフ王が近寄らないようにじゃないかしら? あの発言が嘘だったってバレたら大変だもんね」
それで兵士全員を呼んで警備に当たってる訳ね。それにしても大規模な警備だなー。視界に絶対一人は兵士がいるもん。
「せっかく慈善事業が徐々に改善されてると思ったら、今度は大臣の補佐ですか? ワタチは便利屋じゃないのですよ」
そう言って母さんは台所の棚から小さな便を取り出した。中は緑色の液体が入っている。
「店主様、それは?」
「これはあるスジから手に入れた『前魔術研究所の館長』が作った『魔法薬』です。これを飲んでもう一度ワタチに同じお願いをしてみてください」
「それだけですか?」
「はい。ですがもし貴女が心の底から願っていることでは無ければ、激しい苦痛と共に死にます」
は!?
母さんが話した直後、兵たちは全員剣を取り出した。
「女王様! いけません! それを飲んでは!」
「不敬罪で捕らえましょう!」
騒ぎが大きくなる中、女王は手を挙げた。すると兵たちは一気に静かになった。
「兵たちの無礼、失礼しました。まずは謝罪を」
「そんな些細なことはどうでも良いです。飲みますか? それとも飲みませんか?」
「飲みます」
「「女王様!?」」
母さんから瓶を受け取り、シャーリー女王はそれを空ける。
「仮に私がここで息絶えた場合、次の女王はそこのシャルロットに任せます。そしてこれは個人的なお願いです。息絶えたとしてもラルトの大臣の補佐を引き受けてください」
「本心であれば別に死にませんよ。ですが、もし少しでもワタチを頼りたくなければ、禁忌『蘇生魔術』と同等の苦しみを味わう事になります。その覚悟があるならどうぞ」
シャーリー女王は躊躇すること無くその薬を飲んだ。
「女王様!」
「母上!」
正直俺も驚いた。母さんがそんな極悪な薬を持っていた事に。
そしてそれを躊躇すること無く飲むシャーリー女王に驚いた。
そして。
「ブフッ!」
シャーリー女王は口を手で抑えてその場でしゃがみ込んだ。
「女王様!」
「ガッ……グフッ!」
止まらない咳。流石に見てられなかった。
「母さん! 解毒薬!」
「ありませんよそんなの」
「でもこのままだと女王は!」
シャーリー女王は涙を流しながらもがき苦しんでいる。これはヤバイ!
「我慢できん! この店主を捕らえろ!」
兵の一人が声を上げた。次の瞬間。
「待ちなさい」
シャルロットが声を出した。
「もう少し待ちなさい。それに場所はどうあれ今この場で行われているのは今後のガラン王国を左右する交渉よ。ガラン王国兵として、力でねじ伏せるのではなく、状況をしっかり判断した上で行動しなさい」
「ですが」
「もう一度言うわよ。『もう少し待ちなさい』」
シャルロットの一言で兵たち全員が固まった。
しかし女王の状況は変わらず咳き込みながら涙を流して苦しんでいた。
それを母さんはただただ見守っていた。
そして……。
「はあ、はあ……えっと……長年苦しんでいた肩こりが無くなった?」
突然シャーリー女王はむくっと立ち上がった。
「女王様! ご無事で!」
「え、ええ。いや、むしろ目の調子が良くなったし、肩こり腰痛も無くなって……あれ?」
何が起こったか理解できていないシャーリー女王。そして要約母さんが話始めた。
「『魔法薬』なんて嘘に決まってます。これはワタチが全力で調合した『ただただ苦いを追求したリエンお仕置き薬』です。究極に苦い分、すこぶる体に良い薬草が凝縮してます」
「待って母さん! リエンお仕置き薬って何!?」




