リエンと言う存在2
午後の剣の修行を終え夕食を済ませた後、俺はガラン王国の秘宝の短剣の手入れをしていた。
まあ、この剣がさび付いたり汚れたりすることは無いんだけど、気持ちの問題だよね。
『リエン、ワタチです。入って良いですか?』
と、母さんの声がした。
「いいよー」
そして母さんは部屋に入ってきた。
「あれ、顔の布取っちゃって珍しいね。もしかして三大魔術師としてお話しに?」
「息子の前で素顔を出さない方が変でしょう。それに今のワタチは『元』三大魔術師です」
そうでした。
「リエンは自分についてどこまでを知りたいですか?」
「突然だね」
「そうですね。ですが、いずれ話さないといけないとは思っていました。実は話そうと思った日が一日だけあるんですよ?」
「そうなの? いつ?」
「本当の親じゃないと言った日です」
「結構前じゃん!」
あの日だったの!?
「まさかその後シャルロット様と出会って旅に出るとは思いませんでした。その後に原初の魔力の道具を集めたりして忙しくなりうやむやになってしまいましたが、まあそろそろ良いでしょう」
そして母さんは一冊の本を取り出した。
「今は魔術研究所の館長ではありませんが、引き継ぎとかもあって副館長として色々マリー様のお手伝いをしています。と言っても基本座っているだけですけどね。ちょっとお願いをして本を一冊お借りできました」
「あ、一応今でも魔術研究所で働いているんだ」
「ワタチがいないと回らない部署もあるんですよ。シグレットとか本当に面倒事しか起こさないので」
苦労しているんだね……『シグレット先生が』。
「さて、ゴルド様の手紙にあった様に原初の魔力や後発魔力以外の魔力について現在調査していますが、確定した魔力として『運命』と『望遠』という魔力が存在します」
すげー、パラパラと本をめくる姿はそれっぽい。やっぱり魔術研究所の元館長なんだな。
「運命はフォルトナさんとかが関係していそうだよね」
「ワタチはそのフォルトナ様という方を知りませんが、運命を司る神様というのであれば間違いありません。これらの魔力は原初の魔力とは異なり、後から突然発生した魔力となります。そしてその魔力は地球を滅ぼすまで影響を及ぼしました」
地球を? 俺たちが行った場所だよね?
「地球の人間が魔術を研究し、そして魔術を使える人間を作り出し、それらが暴走して人類は滅びました」
「え? でもチキュウに行ったけど全然普通だったよ?」
人間もいたし、催し物とかもやってたよね?
「クロノ様が片腕を失って地球の時間が過去に戻ったのです。今は修復作業に励んでいるみたいですが、完全に戻るかわかりませんね」
そう言えばそんなこと言ってたっけ。
「話を戻します。パムレ様は本来そこで戦争の道具として戦うはずでしたが、生みの親である博士がパムレ様をミルダ大陸に飛ばしました。逃したと言う表現が正しいですね」
「博士……もしかしてサイトウって人?」
「ご存じでしたか」
「いや、チキュウに行った時にマリーさんがパムレに『今はここにその人はいない』って言っていたから」
確かミリアムさんがクアンの事を紹介する時、科学者と聴いて少し興味を持っていたこともあったよね。
「サイトウ様はワタチが地球に行った時にお世話になった人です。彼は人間なのに全てを知り尽くす天才であり、また将来を予想する能力に長けていました」
「会ったことあるんだ」
「はい。そしてサイトウ様は自力で原初の魔力の存在を見つけ出し、ワタチに答え合わせを求めてきました」
何も無いところから原初の魔力の存在を見つけ出す? それって相当頭良いよな。
「そこで出たのが『運命』と『望遠』です。そして他の魔力を見つけるべく彼は旅に出ました」
「待って、他の魔力を見つけてサイトウという人は何がしたかったの?」
「簡単です。戦争によって滅んだ地球をもとに戻す。それだけです」
滅んだチキュウを元に戻す。それを一人の人間が行おうとしていたってこと?
「そしてある日、物資の確保から帰ってきたワタチは机を見ると、そこにはサイトウ様が書かれた一つの置き手紙がありました。そこには場所が書かれてあり、ワタチはそこへ向かいました」
「まさかそれって」
「おそらくリエンが夢で見た通りでしょう。ワタチが到着するとそこには大きな箱があり、中から人が出てきました。その瞬間人類を滅ぼした機械……生物と言いましょう。それらが襲い掛かり、ワタチは瞬時に箱から出てきた人をネクロノミコンを使って転移させました。しかし一つ失敗しました」
失敗……それは一体。
「うっかり『転移』じゃなくて『転生』をさせちゃって、ミルダ大陸に落ちてきた人は赤子になっちゃって、子育て経験の無いワタチは終始パニックでしたね。いやー、夜泣きが本当に大変で辛かったです」
「ここまで長々と引っ張ってきて最終的に夜泣きが大変だったって話なのこれ!?」
真剣に聞いて損したよ!
「あはは、半分は冗談です。夜泣きは大変でしたが、それでもリエンが別の世界の人だったという事には変わりありません。そしてリエンが何なのかという真実にたどり着くにはサイトウ様について知る……いえ、会うしかありません」
「と言っても……それって何年前の話?」
「かなり昔です。人間ならもう衰弱して亡くなっていてもおかしくありません。ですが、聞き出す方法はいくつかあると思いますよ?」
それは……。
「ふう、長話してしまいましたね。明日も忙しくなるでしょうし今日はこの辺にしますか。あ、ちゃんと布団かけて寝てくださいね。明日は雨降りそうなので」
「はーい」
そう言って母さんは部屋を出ようとした。
と、立ち止まって俺をもう一度見た。
「残念ながらワタチはリエンの全てを知っているわけではありません。ですが、転生して赤子の時からのリエンは知っています。母親としてこれだけは言います。リエンがもしも自分の事で何か知りたいと思い旅に出たいというなら、全力で応援しますよ」
「最強の応援団だね。ありがと」
ニコッと笑って母さんは部屋を出た。
☆
「たあ! はあ!」
「剣がいい感じにブレてない。元々旅で姫さんから教えて貰ってたみたいだし、成長が早いねえ」
翌日の午後、いつも通りティータさんに剣を教えて貰っていた。
母さんの言う通り少し雨が降っているものの、屋根のある小屋で素振り程度なら問題は無い。
「だが、昨日よりも隙がある。何か考え事かい?」
「バレちゃいますか」
「どうせリエンの事だ。自分がどういう存在なのかを知りたいとでも思ったんじゃないのかい?」
おお、凄い。剣だけでわかるんだ。
「一応アタシはエルフと人間のハーフだし、『心情読破』は使えるよ」
「期待した俺がバカみたいじゃん!」
ぐぬぬ、なんか手のひらの上みたいだな。
「そうやって感情が浮き沈みする間は良いさ。ちなみに今のは嘘だよ。リエンには何か特殊な結界があって『心情読破』が通らない。マオくらいの魔術師じゃないと心は読めないさね」
「あ」
そう言えばマリーさんからお守り貰ってたんだっけ。すっかり忘れてたし、首にかけるのがもはや日常になってたから効果を忘れてた。
というかしっかり機能してたんだ。周囲の魔術師が強すぎて全然わからなかったけどね!
「正直なところ、自分がどういう人物かを知りたいとは……そこまで思わない。けど、母さんがわざわざ話してきたという事は、探さないといけないのかなって思ってさ」
「ならもう一度旅に出れば良いさ」
「え?」
ティータさんを見ると、すでに剣を方付けていた。
「お前さんはもうだいぶ成長している。あとは実戦で成長させるほか無いね。それにアタシも野暮用ができてしまってちょいと隣の村と話をしに行かないといけなくなったのさ」
「そうなんだ」
そしてティータさんは俺の肩に手を置く。
「ここに残って平凡に過ごすのも良し。でもお前さんの母さんがどういう心境で話したのかをもう一度考えて、この先どうするか決めるが良いさ」
そしてティータさんは自分の家に帰って行った。
「ふむ。やはりあの村長はなかなか強いのう」
「フブちゃん?」
「おい、一応言っておくがリエン殿が『フブちゃん』と呼ぶのは許してないぞ?」
「違う。いつもシャルロットがそう呼んでるからマジで間違っただけだって。刀をしまってくれる?」
怖いよ。俺の『なぜか攻撃を瞬時に防御できる能力』が無かったら首が飛んでたよ。
「まあ今のお主なら精霊二体もいるし、今一度旅に出るのもありだと思うぞ? ゴルドとやらの手紙も気になるのであれば、最初はミッドガルフ貿易国へ行くと良いと思うしのう」
まあ、もしゴルドさんを訪ねて何もなかったら帰れば良いしね。
「わかった。じゃあ今夜は母さんに相談してみるよ」
☆
「ということでちょっと出かけたいんだけど、良い?」
「え!? リエン旅に出るの!?」
一番驚いているのが居候をしている姫というのがなかなか新鮮である。
「ワタチは止めませんよ。ティータ様からリエンの実力はすでに聞いているので、精霊もいれば大丈夫でしょう」
『責任重大じゃな』
『万が一の事があったら悪魔に取り込まれそー』
まあ、その悪魔が母さんなんだろうけどね。
「な、なら私もついていく!」
シャルロット?
「そもそも今城に帰れない以上、どこかで時間をつぶさないといけないわけだし、だったらリエンの護衛くらいはするわよ!」
「姫という立場上本当は俺が護衛をする感じにならないといけないんだけどね」
「ついでに魔術も教えて貰うわ! あ、剣術はティータさんよりは劣るけど、それでも教えれることは教えるわよ」
「ふむ。精霊はいますが魔力の問題もありますし、リエン一人で行かせるのは少しだけ心配でしたが、シャルロット様が付いてくれるなら少し安心でしょうか」
「ですよね!」
目を輝かせるシャルロット。
と、そこで母さんは一つの提案を出した。
「そうですね。万が一も考えて、これからワタチと手合わせをしましょう」




