死後の世界4
「リエン? 一応聞くけど、これはあれかしら。何かやらかしたからお仕置きかしら? いや、この状況でお仕置きと称するのはミルダ様に失礼だから発言の撤回をするけれど」
パムレがいつ帰って来るかわからないし、とりあえずミリアムさんの家に帰ってきた俺とミルダさんは、椅子に座ったシャルロットを発見した後、流れるように俺はミルダさんを持ち上げてシャルロットの膝の上に乗っけて俺は空いている椅子に座った。
というかミルダさんって母さんやパムレと同じく背が小さいから子供を持ち上げる感覚でひょいっと簡単に持ちあがってしまった。持ち上げた後に『うん、小さいと言っても女性だよね』って思い出してちょっと照れたのは心にしまっておこう。
「ミルダ大陸では膝に乗っけるというのが流行っているの?」
目が点になっているミリアムさんがお茶を片手に俺に質問してきた。
「いえ、親交のためです。あ、ミリアムさんは普通にしていてください」
状況をいまいち把握できないミリアムさんをとりあえず軽くなだめる。
「……ただまー。ふう、この大陸の地形がおおよそわかった。あとは……ん? え、ん? ごめん。超常識人なパムレでもミルダがシャルロットの膝の上に乗っかってる状況に脳が追い付かない」
超常識人という部分はかなりの疑問を感じるけれど、まああのミルダさんが膝に乗っかってるのはびっくりだよね。
「シャルロットさんは姫という立場上ミルダを特別扱いしないといけないかもしれないですが、この場においては平等に行きましょう。ということで『様』禁止です。マオさんと同じ扱いを要求します」
「ええ!? あ、いや、良いですけど。えっと、『ミルダさん』?」
「え、ミルダ『ちゃん』じゃないのですか?」
「ちょっと待ってください。一発リエンをぶっ飛ばしてから考えて良いでしょうか? 絶対リエンの入れ知恵よね? そうよね!?」
おいおいシャルロットさんやい。人のせいにするのは良くないよ? まあ俺が言い始めたことなんだけどね。
「じゃあさシャルロット、三大魔術師マオの事は何て呼んでる?」
「ぱ……『パムレ様』」
「……ダウト。一回も呼ばれたこと無い」
いつも膝の上に乗っけて頭撫でている存在に対して『様』って呼んでたら、それこそどういう上下関係かわからなくなるよ。いや、上下関係も何も無いんだけどね!
「ということで決まりです。『ミルダちゃん』でお願いします」
「わかりました! でも敬語だけは許してください! こればっかりは無理ですから!」
「まあ良いでしょう。ふふ、これでマオさんと並びました。怖いものはありませんね」
「……ほほう、三大魔術師マオという名は伊達では無いと言う事を思い知らせよう」
いや、『魔力お化けマオ』でしょ。
「賑やかなのは楽しいですね。そうそう、シャルロットさんから聞きましたけど三大魔術師と言うのはミルダさんとパムレさんとフーリエの三人の事なんですよね?」
「『静寂の鈴の巫女』と『魔術研究所の館長』と『魔力お化け』って異名もあります」
「……異議あり。パムレだけ全然格好よくない!」
いや、事実じゃん。精霊達にもそう呼ばれてるし。
「ふむ。食後の運動もかねて少しだけ運動しませんか? 私もここしばらく力を使って無かったので」
「え、何の?」
そう言うと、ミリアムさんは『空腹の小悪魔』を二体ほど召喚した。
「ちょっとした魔術の戯れですよ」
☆
ということで家から少し離れた公園。というかさっきミルダ様がいた公園に再度来て、軽く魔術の手合わせをするとの事。
「ねえリエン」
「ん?」
「三大魔術師と先代魔術研究所の館長の『軽く』ってどの程度? 『火球』で焚火をするくらい?」
「なわけないでしょ。あ、魔術の壁張るから後ろ下がってて」
ということで中央には審判役のミルダさん。そして左右にはミリアムさんとパムレが立っていた。
「では行きますよー。はじめ!」
ミルダさんの合図でパムレは速攻で『火球』を繰り出した。
「一発がすさまじいですね。これは……つ、強いですね!」
それを振り払うミリアムさん。
苦しい表情をしつつもパムレの『火球』を避けずに全て魔力壁で防いでいる。
「ミリアムさんが押されているのかしら? さすがはパムレちゃんね」
「そうだけど……そもそもミリアムさんがパムレの攻撃に耐えているのが凄いね」
「そうなの?」
うん。なんというか。
「もし間違ってパムレの『火球』がこっちに飛んで来たら、俺たち吹っ飛ぶからね」
「リエンの魔力壁の意味は!?」
「気休め? 余裕で貫通するからね! 強いて言えばパムレに位置を教えてるって感じかな!」
涙を流しながらシャルロットに言った。ごめんね頼らなくて!
でも言い訳させて! 相手は三大魔術師のマオだよ? そもそも攻撃を防ぐという事自体無理難題だから!
それにしてもミリアムさんは先代魔術研究所の館長というだけあってやっぱり強い。パムレもまだまだ余裕そうに見えるけど、やはり防がれているのが少し気になっている感じだ。
「ちょっと無理をしますよ!『地中の大蛇』!」
ミリアムさんの足元の地面が少しうごめき、何かがパムレに向って地中を伝って向っている。
「……『光球』!」
『ビギャアアアアアアアアア!』
地中に当てた『光球』により、何かが悲鳴を上げて止まった。きっと悪魔的何かを召喚していたのだろう。
「『空腹の小悪魔』!」
「……『光球』」
『ギャアアアアアアアアア!』
今度は空中に『空腹の小悪魔』を召喚したが、パムレはすぐにそれを消し去る。
「悪魔術はほぼ効きませんか。では、『フォルトナ、行ってください』」
「ええ! まあ、良いですけど!」
そう言ってフォルトナさんがすさまじい勢いでパムレに突っ込んだ。
「……ちょ、それは……卑怯!」
「っと! 避けられましたか。でもこれはどうですか?『運命的に命中する火球』!」
「……『因果を超越する魔力壁』!」
「はあ!? ちょっとそれズルい! 原初の魔力を使わないでどうやってるんですか!」
神様が驚いてる。フォルトナさんの弾幕を全て防ぐパムレを見て、シャルロットは一言。
「わー。すごい」
「もっと良い感想無いの!?」
「しょうがないじゃない! こんなバンバン魔術を撃って守っての戦闘、細かい解説をする方が無理よ!」
まあそれもそうなんだけどね!
「……弱体化でも神はズルい。『プル・グラビティ』!」
「うぉおおあ! 地面に!?」
フォルトナさんが倒れ、そのまま地面に埋まった。あれは重力を強める魔術を使ったのだろう。
「フォルトナは私の召喚精霊みたいなもので、ズルくはありません。さて、場は整いましたよ。来てください『深海の怪物』!」
ばああああああああああああああああん!
ミリアムさんの背中には三本の大きな触手が現れた。あれは母さんの必殺技であり、俺が禁止した『深海の怪物』!
「……残念。フーリエと何度か手合わせしてたから、それくらいの対策はしている。『認識阻害』」
パムレが神術『認識阻害』を唱える。その瞬間俺の視界からパムレは消えた。
「なっ! ど、どこですか!?『深海の怪物』、あの子を探し出しなさい!」
周囲に魔術の弾幕を放つも手ごたえはなさそうだ。
「ぐう、これでは『運命の神』の名折れですね。今こそその力を見せてあげますよ」
フォルトナさんが地面に埋もれつつも右手を上げた。
「くらえ!『運命的な出会い』! これで『認識阻害』を無効にして相手を見つけます!」
光り輝くフォルトナさんの右手。その光が周囲を照らし、やがて消えていたパムレの気配が現れる。
そして、パムレを見つけた『深海の怪物』はすさまじい勢いで襲い掛かる。
が。
「……いいの? ミリアムも一緒に捕まっちゃうよ?」
パムレはミリアムに思いっきり抱き着いていた。
「は、離してください!」
ぶんぶんとミリアムさんはパムレを引きはがそうとするも、全然びくともしない。
「勝負ありです!」
と、そこでミルダさんが手合わせ終了の合図を送った。
その合図にシャルロットら疑問を抱いた。
「え、まだミリアムさんは一撃も魔術を受けてないと思うけど」
「うーん、パムレの『火球』の連打を考えると、抱き着いた状態で一秒で十発は撃てるかな。『深海の怪物』も召喚者を人質にされて動けないし、フォルトナさんも同じ感じ。さすがと言うか、やっぱりパムレは強いな」
何度見ても驚愕。そもそも二対一という不利な状況に余裕で敵の間合いに入る。しかも片方は力が制限されていると言っても神様。魔術師的な戦いでは無いけど、もし俺にも同じことをやられたら、知ってても防げないだろうな。
ぴょんとミリアムさんから降りてシャルロットの方へ走って来るパムレ。先ほどすさまじい戦闘をした少女とは思えない。
「ご褒美のナデナデかしら?」
「……あ、いや、別にそれは所望してない。ただ勝った後どうして良いかわからなくて行き場を失ったから来ただけなんだけど」
「つまりナデナデして欲しいのね。ほーらよーしよしよし」
「……ちが、う、ああー」
そしてすさまじい戦闘を終えた少女も、シャルロットの前では無力であった。




