時の少女クロノちゃん
「ふっ! はあ!」
「ふむ、今の太刀筋は良いのう」
「やっぱりフブキは強いな。全然勝てる気がしない」
「そうかのう? 元々魔術を専門としていた者がこれほど剣を使いこなせるとなると、人によっては脅威じゃぞ?」
「あはは。お世辞でも嬉しいよ。ちょっと休憩していい?」
「うむ。休憩というより今日はこの辺にしよう。そっちでお主の母親が見ているからのう」
ふと後ろを振り向くと母さんがタオルを持って立っていた。
「母さん、怪我は大丈夫?」
「はい。そもそも悪魔なのでご飯をしっかり食べれば治りは早いのです」
「それは良かった。パムレは?」
「……リエンの背中」
「うお!」
どうやら『認識阻害』を使って後ろに回り込んでいたみたい。
「……パムレも暗殺の才能ある?」
「魔力お化けは暗殺よりも爆破させた方が早いじゃろうて」
「……そっか」
「あははー」
「ふふふー」
『のうリエン様よ。かれこれこの訓練何日目じゃ? もう三日は経ってるぞ?』
うん。
シャルロットがクロノの服を引っ張って客室の一室を貸し切ってがっつりと教育をすると言ってから三日。
ご飯もミズハさんが持っていくだけでそれ以外の外との接触は全く無し。今までほぼ毎日会っていたシャルロットだが、この三日間は近くにいるのに一度も顔を見ていなかった。
「……あの『暴君の女神クロノ』が監禁されて三日。パムレは生きた心地がしない」
「一応ご飯は部屋の前に置いて、再度通ると綺麗に無くなっているので大丈夫ですよ?」
一応目の前の少女は魔力お化けと恐れられているんだけどね。それと安否の確認が母さんのご飯というのはなかなか面白い。
と、何やら奥の方から人の気配。
「三日ぶりね。リエン」
シャルロットの姿があった。そして……。
「ねえ、その『頭の上に乗っかってる女の子』は何?」
黒髪でちっちゃい人形。まるで小さいセシリーやフェリーみたいだけど。
「クロノちゃんよ」
「「「『『クロノ!?』』」」」
何をどうしたらそうなったの!? 一応神様だよね!?
『シャル姉様、私は皆様の前でもこの姿なのでしょうか?』
「「「『『シャル姉様!?』』」」」
完全に上下関係が生まれちゃってるよ!
「興味深い上下関係ですね。ワタチの宿で働く従業員と良い勝負ができそうです」
「母さんも何突然言い出すの。というかクロノといい勝負ができる従業員って誰だよ!」
「アルカンムケイル様です」
「そうだったね! チャーハン職人兼鉱石の神だったねあの人! と言うか正式に雇ってるの!?」
この世界に来る神様ってことごとく支配されてない?
「とりあえずこの三日間みっちりと教育したわ。言葉も多少良くなったし、何より小っちゃくなったことで怖くないわね」
『完全にしてやられたです。あの本は世界を壊す脅威。『魔法』なんて本来あってはならない存在なのに、油断したです』
本当に口調や声質まで変わってるよ。そして全然怖くない。
「ちょっと気になったんだけど、『魔法』って何? 『魔術』と違うの?」
『魔術は人や精霊が実力で生み出す技なのです。魔法は自然現象や無から有を生み出す奇跡という感じなのです。あの本はそんなありえない現象ともいえる魔法を可能とするものなのです』
すっごいしっかり説明してくれてるけど、時々クロノをシャルロットがわしゃわしゃと持ち上げたりするから集中して聞けない。
「と、とりあえず三日経っちゃったけど本題に入ろうか」
「本題?」
「え、タマテバコの事を本人に聞こうかと」
「あ……ああ。そうね。それをしやすい様に環境を整えてあげたわ。三日もかかっちゃったけど、まあ終わりよければ何とやらよね」
絶対忘れてただろうこの常識知らずのパムレ大好きど天然少女!
「ということでクロノちゃん。タマテバコ修理してくれない?」
『無理なのです。ちっちゃくなった今、力が足りないのです。何とか世界を保つ力だけを残しているのでこれ以上の負担は危険なのです』
どうやらタマテバコの現状は理解していたみたい。それにしても力が足りないから無理?
あと後半結構重要な事言わなかった?
『原初の魔力を何かの道具に付与するには相当な魔力が必要なのです。今の私ではタマテバコ程の力の道具を生成することはできないのです』
うむ。それは困った。
「そう。じゃあ仕方が無いわね」
「え、シャルロット、あきらめるの?」
そう聞くとシャルロットは俺の目を見て答えた。
「え、そもそも原初の魔力『時間』の塊りが目の前(私の頭の上)にある以上、目的は達成してない?」
そうだね! その通りだね!
『話はおおよそ聞いたのです。あの問題児のレイジが何やら原初の魔力の道具を集めているということで回収しているのですよね?』
ピョコピョコとしてていまいち調子が狂うんだけど、とりあえず知ってそうだし聞いてみようかな。
「えっとクロノ? その、原初の魔力の道具を集めると、何ができるのかな?」
その質問にクロノは少し悩んで答えた。
『一言で言えば何でもできるのです。ただ、付け足して言えば何もできないのです。原初の魔力はこの世界が誕生と同時に誕生した魔力。つまり魔力が五つ集まったところで何も起こらないし何でもできる。そんな不安定な魔力なのです』
いまいち言っていることがよくわからない。
「とにかく、この件に関しては大叔母様にも相談してみましょう。店主殿、すみませんが先に大叔母様へ伝言をしてもらっても良いでしょうか?」
「それが、すでに先ほどお話したのです。同時にワタチはシャムロエ様からお願いをされました」
「お願い?」
そう言うと母さんは頭の被り物を取って俺たち一人一人を見て話し始めた。
「緊急招集です。今すぐ孤島へ向かって下さい。ミルダ様やゴルド様もそこへ集まるようにとの事です」
その時の母さんは、いつもの母さんでは無く、『三大魔術師の魔術研究所の館長』としての顔だった。
☆
夕ご飯を終え、お風呂上りに椅子に座って涼んでいるとシャルロットもお風呂上りなのか少し濡れた髪のまま近くに寄ってきた。
「風邪ひくよ? 風魔術使って乾かしてあげようか?」
「え、良いの?」
「ほら、座って」
そう言って正面の椅子にシャルロットを座らせて風魔術『風球』をシャルロットに向って放った。
「ふおおおおお。これは良いわね。若干温かい空気なのは何故?」
「フェリーの力も借りてるからね」
『この火加減が結構難しいー』
「ああ……二人きりじゃ無かったのね」
え、少し残念そうな表情をしているけど、何故?
『うむ、フェリーよ。少し席を外そうかのう。フブキ殿も我らと散歩にでも出ぬか?』
そう言うとフブキがどこからともなく現れてこくりと頷いた。
「少々風に当たって来る」
「ありがと。皆」
そして俺とシャルロットの二人だけとなった。
「えっと、この状態で髪を乾かすと冷風しか来ないよ?」
「あはは、大丈夫。もう結構乾いたから」
まあ、確かに濡れている感じはしなかった。
しばらく沈黙が続き、そしてシャルロットは俺の目を見た。
「なんだか最後の魔力はあっけなく見つかっちゃったね」
「そうだね。もっと色々と旅に出るのかと思ったけど、こうしてみるとミルダ大陸って結構狭いのかもね」
実際三か国と孤島とリュウグウジョウと砂の地と海の地。意外とパッと思いつくほどの数しかないのかもしれない。
「孤島で原初の魔力が勢ぞろいしたとき、正直何が起こるかわからないけど、確かなことは一つ。私達の旅はこれで終わりということかしらね」
「それは……」
最初はシャルロットを魔術学校へ通わせるための護衛。そして今回はその延長戦の秘宝集め。これが終われば俺たちの旅は終わりである。
「これが終わったら私はおそらく城の外に出るのは十年くらい先かしら。リエンはきっとガラン王国剣術を学ぶのでしょうね」
「まあ少しは学んだつもりだけどね」
「奥が深いのよ? まだ今の時点でガラン王国剣術の指南は半分くらいかしら」
結構道は長そうだ。
「ねえリエン、ガラン王国剣術を完全に取得したらガラン王国軍に入団しない?」
シャルロットの目は真剣だった。
「ちょ、急だね。この話母さんが見てたらまた怒り出すと思うよ? 人の人生勝手に決めるな―って」
『ギャ。いや、リエンが決めるならワタチはべべべべつに文句は』
覗いてやがったぞこの親!
「もちろん入団試験は不公平無しで行うわよ。あくまでもガラン王国の軍に来て欲しいなーという私の願望ね」
「何かズルくね?」
「まあね。でも姫だし」
ニカっと笑うシャルロット。
「返事はもう少し先で良いかな? 俺はまだ十六だしさ」
「それもそうね。ふふ、考えている間に魔術で上回っても嫉妬しないでね?」
大丈夫。それは無いから。




