それぞれの思惑
「何か深い事情があったのですか?」
「ええ。あれは数百年前の事。私はあの魔力お化けと軽い腕試しをしたの」
パムレと腕試し。というとこのミズハさんは結構強いのだろう。
「どちらも本気で挑み、そして悲劇が起こりました」
俺とシャルロットは唾を飲み込んだ。
「パムレが放ったビーム的な奴が『タマテバコ』を保管していた祠に命中して粉砕しました」
「ビーム的なってなんだよ! というかそんな貴重なものが置いてある場所の近くで手合わせしたの!?」
うん。きっとこの人もちょっと残念な人なんだね!
「び、びーむ? えっと、リエン。びーむって何?」
「えっと、光線的な奴かな。たまに母さんがそんな単語を使ってたから語源はわからないけど!」
フブキも時々俺の話す言葉に疑問を浮かべたりするけど、もしかして母さんの話す単語ってところどころおかしな部分があるのかな?
「ミズハさん、そのタマテバコに変わる何かはありませんか? 時の魔力が付与されている道具だったら何でも良いのですが」
「原初の魔力自体が特殊ですからね。私も時の女神クロノから渡されたから使ってただけで、他に代用品となる物はないですね」
時の神クロノ。そういえばセシリーはなんとなく知っている感じでもあったし、ミズハさんも知ってる神だったか。
「じゃあクロノという神様に会う方法は無いかしら?」
と、シャルロットが質問した。
「不可能に近いです。神々の中で一番真面目そうで一番気まぐれなクロノは『今』という概念が存在しないどこかにいます。未来に居るかもしれないし過去にいるかもしれない状況で、探し当てるのはまず無理でしょうね」
時間を司る神だからこそ『今どこにいる』というのは難しいのか。そう考えると鉱石を司る神様はチャーハン作ってるからすぐに場所わかるし、お手軽だよね。
「俺たちの僅かな希望としては『タマテバコ』が修復されているかもしれないという可能性を信じてたけど、やっぱり駄目でしたか」
「そうですね。私としてもタマテバコは大切な人との約束の品でもあったので修理ができるならしてみたいですけど、まあ無理でしょう」
悲しそうな表情をするミズハさん。俺たちからすれば時の魔力を保持している秘宝だけど、彼女にとっては特別な品なのだろうか。
「湿っぽい話しはこの辺にしてどうぞおくつろぎください。リエン殿と契約している二体の精霊もこの竜宮城内であれば自由に動けるくらいには魔力を持て余してますよ」
『なんと! リエン様よ。ちょっと遠くまで行って良いかのう?』
『言われてみれば―、体軽いー』
「いいよ。精霊って疲れることは無いと思うけど、まあこういう時間も大事だよね」
『一応言っておくが時々リエン様の母上がくしゃみをするたびに腰痛に悩まされてるぞ?』
『時々呼吸困難になるー』
「俺の母さんがいつもごめんね! ほら、自由に飛び回って良いよ!」
我慢してないで言ってくれればいいのに。
と、いつの間にかシャルロットと俺だけになった。この広い場所で二人だけというのもなかなか居心地が悪い。
「ちょっと私達も散歩してみる?」
「そうだね」
そう言って部屋を出て庭へ向かって歩いて行った。
☆
庭に出ると海の中なのに池があったり、橋がかけられていたりと、なかなか不思議な光景が目の前にあった。
「これは橋として役割を果たしているのかしら?」
池はただ水が溜まっているだけ。いや、魚が数匹泳いではいるけれど、回って歩けるほどの大きさしかない。
「娯楽施設って言ってたし、本来の行き来する橋というよりも見て楽しむ橋って感じかな?」
「なかなか興味深いわね。そう言われると噴水とかも待ち合わせ場所としての役割以外はあまり活躍していないし、ここの風景は少し参考になるかもしれないわね」
じーっと周囲を見るシャルロット。その目は真剣だった。
「今更なんだけど、どうして大叔母様は原初の魔力の秘宝を集めようとしているのかしら?」
「え、レイジが悪用するから先に回収するためじゃないの?」
「確かにそうなんだけど、そうなるとレイジという男の企みを大叔母様は知っていることになるわよね?」
確かに。そもそも秘宝回収はシャムロエ様の命令であり、レイジが悪用するから。つまり悪用するその内容をシャムロエ様は知っているから俺たちにその任務を伝えた。秘宝を二つ集めた今、かなり遅いとは思うけれど変と言えば変である。
「リエンって原初の魔力はどこまで知っているんだっけ?」
「えっと、世界が誕生して最初に存在した魔力って言われているくらいかな」
「それって、凄いの?」
「珍しいとは思う。実際音の魔力の脅威は対策しきれないし、鉱石だって魔力で生成した物がずっと残るって考えると結構凄い事だとは思うよ」
「でもふと考えたの。蛍光の筆は確かに聖術が効かない悪魔を生成できたり、創造の編み棒は材料さえあれば何でも作れる。けど、それらの力って微々たる物じゃないかしら?」
言われてみれば……確かに。
「事実としてレイジは確かにこれらの秘宝を狙ってはいるけど、大叔母様も何か企んでいるんじゃないかなって思っちゃったんだよね」
苦笑するシャルロット。
「どうしたの? 今までシャムロエ様の事は一番に信じていたのに、まるで何か怪しんでいる感じだけど」
「私はそこまで賢くないからリエンが思っている事ほど大げさなことは考えていないけど、このまま旅を続けて大丈夫なのかなって思っただけ」
いつも元気なシャルロットらしくない言動にちょっと驚いた。
「あはは、ごめんね。ちょっとひとっ走りしてくるね」
「う、うん」
そう言ってシャルロットは一人で走って行った。
「……もしかしてパムレ達は最悪な状況に遭遇した? リエンの失恋に立ち会った?」
「うむ、魔術とやらは苦手じゃが記憶消去をお願いするかもしれぬのう」
「何深読みしてるの。別に普通に会話してただけだよ! というか何こっそり見てるの!」
物陰からパムレとフブキがひょっこり登場。どちらも身長が低いから子供がかくれんぼしているようにしか見えない。
「……超失礼。一応パムレはリエンの年上。おねえさんだよ」
「年齢が全てとは限らないよ。よっぽどフブキの方がお姉さんに見えるよ!」
「ふむ、評価は嬉しいが魔力お化けの姉というのは末恐ろしいのう」
ふと思ったけど、パムレって精霊達やフブキには『魔力お化け』って呼ばれているよね。
「魔力お化けってあだ名は共通なの?」
「……あまり可愛くない。パムレは『静寂の鈴の巫女』や『魔術研究所の館長』という感じの二つ名が無いからとりあえずつけられた。それが広まり今に至る。フブキがそれを言うとは思わなかった」
有名故に広まったあだ名なのか。
「……それよりもシャルロットは少し悩んでいるみたいだね。親族に不信を抱くのは不穏な状況の前触れ。ちょっと気を付けたほうが良い」
「パムレはシャムロエ様と親しいんだよね? この秘宝集めについて本当の目的とか隠された真実とか知ってる?」
「……さあ。少なくともレイジが何かしようとしているという情報はフブキから聞き出して、大陸を守るためにリエンを旅に出したくらいしかわからない」
「うむ。奴は神出鬼没じゃからのう。儂が見つけてもすぐに姿を隠し消える。一体何を考えているかわからぬが、シャムロエ殿はおよそ何かが起こる前に止めるくらいの考えじゃろう」
何かとは一体。
「……それはシャムロエもマオも分からない。けどレイジの考えはいつも破壊的で残虐的な物。何かが訪れてからでは遅いから全てにおいて対策をしているのだと思う」
先代女王としての責任がどこまで大きいのかはわからないけれど、あのシャムロエ様ですら注意する人物なんだよな。俺も何度か襲われたし、気を引き締めないとな。
「とはいえ、問題はタマテバコが無い以上どうするか。時の神様に会う方法もない以上どうすれば」
と、そこでパムレが少し考えて話し始めた。
「……無くはない」
「え?」
「……隠すつもりは無かった。言わなかったパムレが悪かった。けど、これは最後の手段でありリスクは大きい」
そう言ってパムレはローブの中から一冊の本を取り出した。それって確か以前レイジに襲われた時に奪った本?
「……禁書『ネクロノミコン』。これにはありとあらゆる魔術や神術が記されていて、どんな人物でも使用することができる。そしてこの中には時間に関する記述もある」
「ちょっと待って、どうしてそれを言わなかったの?」
「そうじゃのう。これがあればリエン殿の旅は苦労せず、この書物を手に入れた時にすでに次の道しるべくらいにはなったじゃろう」
もちろん時間に関する記述がどれほどの内容かはわからないけれど、そんな便利な本があるなら先に教えてくれればよかったのに。
「……これの本は何のリスクもなく誰でも魔術が使える『魔法』の本。と言われているけど、正直なところこの本が本当に人体に影響がないのかどうかがわからないから簡単に提案ができなかった」
「ふむ、例えばじゃが魔力とは無縁の儂でも魔術が使えるのか?」
フブキからは魔力の『ま』の字も無いほどの人間である。まさかとは思うけど。
「……可能」
マジか。
「ほう。それは……すごいな」
驚くフブキ。いや、魔力を持って無い人も魔術が使えるってやばくね?
「……何の代償も無く何でもできる禁書。言ってしまえばこの本を理解すればリエンは簡単にパムレの領域に立つこともできる」
「パムレの領域?」
「……かつてこの本を使って自分自身を大量に増やした女の子がいた。実際その術式を使うと一体か二体増やせれば魔力が尽きて死に至る。けど、その少女は一度に数十体増やした」
「それって」
母さん……だよな。
こくりと頷くパムレ。
「……あくまで聞いた話だけどね。魔力を必要とせずに術が使えるのは色々な法則を破っている。絶対にどこかで何かが失っていると思う。だからこれはパムレが預かっていた」
レイジから奪ってからそのまま放置していただけだと思っていたけど、パムレなりの考えがあったのか。
「じゃが、それで何をする?」
「……簡単。これで軽く過去に飛んで過去改変を行う。クロノはそれで現れる。時間に厳しいクロノとは敵対することになるけど、一応会える」
強引だが、確かにその手を使えば会えるのか。
「いや、相手は神様だし、時間の魔力を保持した秘宝が必要なんだよね。敵対したら時間の魔力を付与した秘宝や力は貰えないんじゃ」
「……そこが問題。だから簡単ではない」
悩むパムレ。
と、そこでぐるっと一周してきたシャルロットが息を切らしてこっちに来た。
「はあ、はあ、結構広いのねここ。ん? パムレちゃん、その本は?」
「……ネクロノミコン。一言で言えば何でもできる本」
「へえ。ちょっと見せて。うわ! 何書いてあるかわからないわね。うーん、もう手っ取り早く『時の女神召喚』的な術式があればいいのにね」
ぽん!
……。
目の前に黒髪の女性が立っていた。
すげー眠そうな表情で歯磨きしてるんだけど……。
「ふむ、セシリー殿が居ないから口調がそっくりな儂が特別に言ってやろう。『ぬおおおお! リエン様よ、またしてもこの姫は空気を読まずにやらかしたっぽいぞ!』」
「うん、俺も同じこと思ったよ!」
歯磨きしている女性は歯ブラシをとりあえずポケットに入れて魔術で口を洗って、顔をパンパンと二度叩き、一言放った。
「ぶっ飛ばすから歯を食いしばりなさい!」




