地下洞窟
「それではシャル様、そしてリエン殿。お気をつけて。領主様も元気で」
「魔獣が少ないとはいえ気をつけなさいよ。まあ、大丈夫だとは思うけど」
「はい!」
そう言って馬車を引いてイガグリさんは帰って行った。
「あやつが結婚か。両親と引きはがすのが最善じゃったのか、それとも両親のわずかな心を見るべきか。なかなか考え物じゃよ」
「どういうこと?」
「シャルロット殿の提案は確かにイガグリとその娘とやらの幸せを優先に考えた提案じゃが、生みの親とのつながりというのはそうそう簡単に切り離して良い物かと思ってのう」
そう言って休憩所で見送るヒョウケツさんとサクラさんをちらっと見た。
「えっと、フブキはもう少し残る? 色々話したいこととかあるんじゃない?」
「たわけ。いつ刀が飛び出るかわからぬ状況を維持しているんじゃ。ここは温かく良いところじゃが、早く出て行きたい場所じゃな」
そう言ってフワッと姿を消した。隠れて護衛をし始めたのだろう。
「さて、聞いた話だと確か海の中なのよね。店主殿、どうやって行くのですか? 何か海の中でも呼吸ができるようになる場所があるのですか?」
「え、無いですよ? がんばるだけですよ?」
ここに来て頑張って海の中潜るの!?
と、驚いていると、空から一筋の光の球が見えた。
それはこっちに近づいて来て。
海の中に思いっきり落ちてきた。
「す……凄い音と波が押し寄せてるけど大丈夫?」
「うん、大波に悲鳴がすごく聞こえてくるけど」
「問題ありません。多少の大波は海の上で板に乗る『サーフィン』という運動には大歓迎の物です。あ、ちなみに時々お祭りでワタチが魔術を放って大波を作ったりするのですよ?」
つまり日常茶飯事なの?
「あ、落下地点の海の中から何かがこっちに来たわね」
「……痛い。こう……水面と体がちょうど『パーン』ってなるように落ちちゃった」
予想はしてたけどもう少しゆっくり落ちれなかったのかな?
「お帰りパムレちゃん! ということで抱っこね」
「……今海水で水だらけ。濡れちゃうよ?」
「それがどうしたの?」
「……お、おう」
すげー。パムレって髪も長いからすごくビショビショなのにかまわず抱き着いて行ったよ。そのまっすぐな行動にパムレは無抵抗に抱き着かれていったよ
「さて、パムレ様も来たところですし本当の方法を教えましょう」
「嘘だったの!? 結構覚悟してたんだけど!」
時々母さんの冗談は冗談に聞こえないんだから事前に冗談を言いますって言って欲しい。
「ここに来たのは単純にパムレ様が来るかなーくらいな軽い考えで来ただけで、実際そこへ行くには寒がり店主の休憩所の地下から行けます。と言ってもしばらく使っていないので、崩れないか心配ですけどね」
そう言って母さんの案内により寒がり店主の休憩所へ向かい、フブキのご両親に見送られたのにまた挨拶をするというちょっと気まずい空気を体験しつつ、地下へ続く階段を下りて行った。
☆
「あーあー」
シャルロットが声を出すとグワングワンと音が響き渡る。
「凄いわね。音って行き止まりがあると戻ってくるんだけど、これはずっと続いているみたいね」
「そんなに続いているんだ。というか暗いな。『火……』」
「あ、リエン。ここで火は危険です。できれば『光球』で進んでください」
「そうなの?」
「はい。ここは洞窟よりも深く、そして出口がかなり遠いので、火を使うと人体に影響を及ぼす空気が充満するのです。ワタチはここでお見送りとなりますので、どうかお気をつけて」
「わかった。行ってくるよ」
そう言って母さんは手を振って扉を閉めた。同時にパムレが『光球』を出して辺りを照らした。
が、そこでシャルロットがパムレの頭に手を置いた。
「ねえパムレちゃん。ここは私がやるわ」
「……結構遠いよ?」
「それでも、いつまでもパムレちゃんに頼ってたらリエンが認める魔術師になれないもの。それにパムレちゃんにも認めてもらいたいしね」
「……わかった。じゃあお願い。でも辛くなったら言って」
「わかった! 『光球』!』
☆
「ごめん。むり」
パタリと倒れるシャルロット。魔力切れである。
「まさかここまで遠いとは思わなかった。今どれくらい?」
「……まだ半分も来てない。途中で休憩所があるくらいここは長い」
どんだけ長いの!? さすがに俺がもし『光球』を出し続けてても辛いんじゃなかったかな!
「シャルロット殿は儂が持とう。主を背負うなんぞあまり無いからな」
「フブキお願い」
小っちゃい体なのにシャルロットを簡単に持ち上げるフブキ。
「ヤバイはリエン……」
「どうしたの? もしかして魔力切れで気分悪い?」
「歩きながらフブちゃんを抱っこできるなんて、画期的じゃないかしら?」
「フブキ、こいつ元気だ。落として大丈夫だ」
「あ、いや、さすがに主は落とせぬって」
心配して損したよ!
「……ちなみにパムレの魔力を与えれば一瞬で回復するけどね」
「パムレちゃんの手を煩わせるなんてできないわ!(フブちゃんを合法的に抱っこしながら移動できるこの体制を逃すなんてもったいない!)」
「うん。『心情読破』を使ったら見事言っていることと話していることが異なっているね」
「……ちなみにパムレは相手の心と会話をしているから、本心しか聞き取れない。まあ、『魔力譲渡』も悪影響は無いと言っても負担はあるからこのままの方が良いかな」
……え。
「いや、パムレの『魔力譲渡』って結構やってもらったけど、俺の体大丈夫なの?」
恐る恐る聞くとパムレはニコッと笑った。
「……魔力がちょっとパムレットの味になるくらいには変化する。あとは大丈夫」
大丈夫なのそれ!?
甘い物食べ過ぎて太っちゃう奴じゃないの!?
「……『パムレは』大丈夫。」
「俺は!?」
改めて三大魔術師の魔力の怖さを知ったよ。いや、怖い方向性が全然違うんだけどね!
「あ、なんだか少し音が変化して返ってきたわ。目的地かしら?」
「……多分休憩地点。少し広い空間になっているから、まっすぐ飛ぶ音がここで少し変化するんだと思う」
シャルロットの言う通り、少し歩くと休憩できそうな広めの空間に到着した。と言っても空間だけだし座って休むくらいしかできない。
「しかし落ち着かぬの。天井の上は海なのじゃろう? 壊れたりはせぬのか?」
「……ここは土の精霊が作った洞窟。加工はしていると思う」
土の精霊が作った洞窟の割には人間のための大きさに加工されているような?
「……かつてここの洞窟はパムレやトスカやシャムロエが歩いた道。トスカはノームにお願いをして作ってもらった洞窟でもある」
「さすが大叔父様ね! 土の精霊とも仲良しなんて、やっぱりガラン王国の人たちは皆凄いわね。私も見習わないと!」
実際トスカさんやシャムロエ様の偉業は色々な文献に掲載されている。ミルダ大陸を救った英雄ともされているこの二人の名前は今後も残るだろう。
母さんの名前は『魔術研究所の館長』という形で残るのが少しだけ残念にも思える。せっかくだし『フーリエ』で残ればいいのに。
「シャルロットが最初に出会った時に母さんの名前を呼んだけど、そもそもどうして名前で呼ばれるのを嫌ったのかな?」
「どういうこと?」
「いや、ゲイルド魔術国家でも『魔術研究所の館長』って呼ばれているし、『フーリエ』って呼ばれても問題ないんじゃないかなって思ったんだよね」
「……文献を探せばその名前は見つかる。そしてフーリエが魔術研究所の館長であり寒がり店主の休憩所の店主という繋がりがミルダ大陸全土に伝われば、三大魔術師の規約である『内部干渉しない』というルールが解釈次第では破ることになる」
「そこまで母さんって考えているのかな?」
他にもっと考えていると思うな。例えば、『なんとなく秘密にしたかった』とか。あの母さんだし。
「ちなみにフブちゃんは知ってたの?」
「む? 何がじゃ?」
「リエンの母親が魔術研究所の館長であり、本名が『フーリエ』だったってこと」
「そうじゃな。血のつながりが無いご子息が居ることくらいは知っておったが、任務には影響が無いと思いリエン殿の事は知らなかったのう。本名についてはいくつか候補があって、その中にフーリエという名前はあったのう」
流石は大陸屈指の暗殺集団。そういう情報は掴んでいるんだね。
「さて、私も魔力がいい感じに回復したし、そろそろ進もうかしら!」
「……光玉どうする?」
「パムレちゃんお願い!」
「……あい」
そしてパムレがまた『光球』を出して暗い洞窟を進むのだった。




