過去の記憶と今
宿から出て少し離れた砂浜に到着。周囲は暗かったので、松明に火をつけて気持ち程度の明かりを灯した。
さりげなくシャルロットが松明の火種を魔術で灯し、成長を見せてくる。着ける度に自慢げに見てくるのはもう慣れてしまった。いや、気持ちはわかるけどね。
「リエン殿、済まぬが短剣を借りれないじゃろうか」
「これを? あ、ちょっと待って」
「む?」
いや、一応これ俺も借りてるんだよね。ガラン王国の所有物だし、俺も許可を取った方が良いよね。
「シャルロット、短剣を『フブちゃん』に貸して良い?」
「良いわよ」
「松明でブッ叩くぞ。空気を読まんか!」
シャルロットは主だから許されて俺は駄目なんだね。
「それにしても短剣も使うの?」
「相手は二人じゃ。刀では無理じゃな」
「え、二人同時に相手するの?」
てっきりヒョウケツさんだけかと思ったけど。
「む? あ奴が両親ならほんの数秒で儂を倒せるじゃろう」
そう言ってフブキは砂浜の中央に向って歩いて行った。そこにはヒョウケツさんとサクラさんが待っていた。
「数年ぶりか。いや、時々獣を狩っていたから全く鈍っているわけでは無いな」
「どれくらい成長したかしら、楽しみね」
そして二人は軽く頭を下げて、一歩下がる。
(これって合図とかあるの?)
(知らないわよ。もしかしたらお互い何か通じるものがあって、それが合図になるんじゃない?)
さすがシャルロット。それっぽいなー。
というか夜の海って結構寒いな。あ、何か鼻がムズムズと……。
「はくしょん!」
ぎいいいいいん!
ちょっと待って。今俺のくしゃみが戦いの合図になってなかった!?
「リエンのくしゃみがお互いの通じる何かだったのね。因果というのは不思議ね」
「何か全然格好つかないんだけど! って、今どうなって」
砂埃が舞い上がり、それが晴れていく。
「貴方、ごめん。後は頼んだわ」
「サクラ!」
サクラさんが倒れた。
「リエン殿の短剣を鞘ごと借りてて正解じゃった。腹に一本と言ったところじゃのう」
「俺の刀を流しつつサクラに一本。何という速さ」
「解析するほど猶予を与えるなぞせぬ。ふおおおりゃああ!」
何度も鉄がぶつかり合う音が聴こえる。
「父の腕はそんなものでは無かった! 誉ある技術を捨ておったか!」
「なっ、小娘が!」
鋭い薙ぎ払い。しかしフブキはそれを避ける。
「勝負ありじゃ」
「待てフブキ。まだ勝負は」
「良い事を教えてやろう。儂の刀はあまりの速さに目に見えぬ刃が生まれるそうじゃ」
その言葉を言った瞬間。
ヒョウケツさんの髪が一気に落ちた。
「髪程度の物は耐えきれずきれいに切れるそうじゃ」
「かみがあああああああああああああ!」
☆
「ととさま、かみきえた」
「コハル……頭をペチペチ叩かないでくれ」
部屋に到着すると、結構広い部屋に案内された。どうやら王族や特別なお客様専用の部屋らしい。
「母さん、良いの? こんな立派な部屋で。王族とかが使う部屋でしょ」
「一応リエンの隣にいる人は王族ですよ? 今更ですけど今のは侮辱罪で牢屋入りレベルの発言ですからね?」
そうだった。
「私としては普通の部屋の方が新鮮味もあるんだけど」
「すみません。今日はどこも満室でして、イガグリ様の一人部屋だけ一つ用意だけはしていたのですが、他はここでお過ごしください。あ、この部屋は従業員が二人つくので、何かあったら声をかけてくださいね」
それでヒョウケツさんとサクラさんも部屋にいるのか。
「公私混同は致しません。遠慮なくおっしゃってくださいリエン様」
「ご飯のご用意でしたらすぐお持ちします」
切り替わり早いなー。ちなみにフブキは影の護衛らしくどこかで見張っているみたい。その方が落ち着くらしい。
「じゃあコハルちゃん抱っこさせて」
「は、え!? いや、姫様にそんな」
「大丈夫ですよ。可愛い物好きなだけですから」
「はあ、でしたら。ほらコハル、お姉さんが抱っこしたいって」
「あい。って、わー! おねえさんきれいなかみ!」
「ありがとうコハルちゃん。コハルちゃんの黒髪もきれいよー」
シャルロットって子供に対してすさまじい実力を発揮するよね。純粋な子供はシャルロットの笑顔に恐怖を感じないのだろうか。
『一応言っておくぞ? 我ら子供じゃないぞ?』
『小っちゃいだけでおばちゃんにもなれるよ。なんならご主人のお母さんっぽい感じにもなれるよー』
マジで!? じゃあ母さんが疲れた時とか入れ替われるじゃん!
『精霊ぞ? 店番とかさせないで欲しいぞ?』
『やはり親子だねー』
ぐ、言い返せない。
「おねえさん、どこからきたのー?」
「ガラン王国よー。大きなお家があるの!」
「おおきいの!? すごい!」
「ふふ、そうだ。今度コハルちゃんと同じくらいの年齢の女の子を紹介するわね。アリシアちゃんって言うのよ」
「ありしあちゃん? おともだちになれるかな?」
「良い子だからなれるわね。今度集まって遊びましょう!」
「わー! たのしみ!」
そして流れるようにアリシアちゃんを紹介しようとしているよ。
『リエン様よ。絶対アレはアリシアとやらとコハルとやらを両ひざに乗せて一人浮かれるつもりじゃぞ?』
『ウチには見えるー。無邪気な子供を手のひらならぬ膝の上で転がす姿をー』
俺もなんとなく見えたけどね。とりあえずお腹もすいたな。
「ご飯いただけますか?」
「今お持ちしますね」
☆
ご飯を食べ終えて、シャルロットは夜風に当たると言って外に出て行った。フブキもこっそり耳打ちでそっちにつくと教えてくれた。
で、今部屋の中には俺とフブキのお父さんのヒョウケツさんというわけで非常に居心地が悪い。
「お客様にこちらから質問をするのは大変恐れ多いのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「フブキは……元気にしてますか?」
娘を心配する親。まるで母さんみたいだな。
「元気ではあります。初めて出会った時よりも笑顔が多くなったと思います」
「そうですか。いやはや、父として剣術しか教えることができなかったため、ずっと心残りでした」
「その、本当に母さんの料理が美味しくて村から出たのですか?」
理由としては正直バカげていた。料理一つであの厳しい集落から出るなんて全く考えられない。実は何か嘘をついていたのでは?
「あ、それは本当です。一口食べて感動しました」
「そりゃフブキも怒るよね」
本当なのかよ。嘘でも何かそれっぽい事言ってほしかったなー。
「ですが、強いて言えば任務中にある男と出会いました」
「男?」
「酷く老けたおいぼれの男性。しかしなぜか底計り知れない力を感じる男が現れ、仕事の依頼を持ちかけてきました」
「もしかして『レイジ』と名乗っていましたか?」
「……よくご存じで」
そんな特徴の男は一人しか知らない。
「彼にとって我々『影の者』は邪魔な存在。しかも当時領主とその妻の実力は裏の世界では名をはせていました。ある時、私と妻に忠告をしたのです。しばらく貴様たちは任務を受けるな。もし受ければ娘を消すと」
「そんなことが」
「彼の狙いはわかりませんでした。しかしフブキを守るためにも集落を出る必要があり、集落の活動を止めるには実力の無い者が領主になるしかなかったのです」
「そうで……え、ん? 実力の無いって、フブキめっちゃ強くね?」
「私もびっくりです。強かったです」
調子狂うよ! 何このお父さん!
「ですが、領主は辞めないといけない。突然辞めるとなれば怪しまれる。それで死んだことにしたのです。海の地の料理に惚れこんでいた私はその足で店主殿に就職の志願をしたのです。家の事情を言わずに受け入れてくれたのは感謝しています」
うーん。納得いかない説明ばかりなんだけど納得するしかないの!?
結果イガグリさんは色々手を回して村からガチで追い出されて大変な目に合ったわけだし、良いのかな?
そうだ、イガグリさん!
「イガグリさんが結婚するって本当でしょうか?」
「あ、先ほど聞いてきましたが本当みたいです。城下町の花屋の娘さんだそうですよ」
「何気に適当な性格していると思ってるけど、しっかりしているんだなー」
「その花屋、来月には破綻するそうです」
「やばいじゃん! その結婚大丈夫なの!?」
「真実を言うべきか……言わないべきか……」
うん。ここは一つあの人に解決してもらおう。




