尋問会
「今回俺もこっちに立つんだね」
「何か変な感じね。リエンがこっち側にいるなんて」
「というか久しぶりだね。元気してた?」
「反省部屋でひたすら作文よ。母上はこういうの得意だから一瞬で部屋から出て行った時は拳が飛びかけたわ」
反省文得意って、シャーリー女王ってもしかして結構反省しまくってる? と言うか女王も反省文書いたことあるんだ。しかも娘の隣で。
それにしても何度も訪れた謁見の間とはいえ、状況は少し変わっていた。ところどころ木の板で補強されていて、未だ修復中ではあるが扉はすでに新しい物に変わっていた。
最初訪れた時は中央。その後は向かって右側に兵たちの前に整列。そして今日は女王の椅子の横。だんだん俺偉くなってね?
『貴族四家入室します』
ラルト兵長が声を出して扉が開く。椅子にはシャーリー女王とシャムロエ様とトスカさんが座っていて、俺とシャルロットとパムレと母さんは女王の隣で横に並んでいた。
四人の貴族が入ってきて、それぞれ立派な服を着ていた。
「急なお呼び出しに戸惑いました。如何なさいましたか?」
「事前連絡をしていただければミッドガルフ貿易国から良い品を取り寄せましたよ」
「シャルロット様は以前よりもさらに美しくなられましたね」
「トスカ様。転生されたこと、遅くなりましたがお祝い申し上げます」
いかにも貴族って感じ。シャルロットは褒められたのに表情一つ変えないということはお約束の言葉なのだろうか。
シャーリー女王が椅子から立ち上がり話し始めた。
「今日呼んだのは他でもありません。貴族に与えた任務の報告をしてください」
「突然ですね。資料を準備する暇をくださればより詳細な情報を」
「抜き打ちなのです。常に現状を把握している貴方達なら資料も不必要でしょう」
「はあ、では何から説明をすれば」
「集団墓地の清掃業務。これは誰が行っていますか?」
シャーリー女王の質問に貴族たちが顔を合わせた。
「私です」
「三か所あるはずですが、昨日はどこを?」
「えっと……確か南側です」
その発言に母さんが口をはさんだ。
「西側ですね。確かベリル様の墓地が少々崩れかけていたので墓石を取り替えました」
「し、失礼。方角は勘違いでした。そうです、確か墓石を取り寄せました」
「そのお金は?」
「も、もちろん支給された資金から」
「いえ、ワタチの慈善事業資金から捻出ですよ」
そんなことまでしてたの!?
「さっきから何ですかそこの布でぐるぐる巻きのガキは!」
墓地担当の貴族が母さんに怒り始めた。
「身の程をわきまえなさい。貴方が指を刺した人は本来姿を隠している三大魔術師の一人、魔術研究所の館長です」
「え!? 嘘だ……誰もその姿を見たことは無いとされるあの?」
そしてその貴族はパムレを見た。
「恐れ入りますがそちらの銀髪の方は……マオ様? どうして三大魔術師の二名がここに?」
「変ですね。貴方達の側近にはすでにマオ様が来ていることは伝えているはずです。失礼が無いように事前に伝えていましたが、知らなかったのですか?」
こっそりと『心情読破』を使ってみた。どうやらこの墓地担当の貴族は毎晩酒を浴びるように飲んでいたようだ。そして昨日は珍しい酒だーと言って飲み、奥さんたちが止めに入るもお構い無しに飲んでいたみたい。
「まさか四名全員が貴方達に伝えていないという偶然が起こりうるのでしょうか? そうでなくてもこの城が穴だらけの状況を見て『急なお呼び出しに戸惑いました。如何なさいましたか?』と言いましたね。穴空いてるんですよ? すっっっっごく謁見の間の風通し良いんですよ?」
ブフッ。ゴホンゴホン。
そんな咳がトスカ様から聞こえた。うん、今のってすごく滑稽だよね。俺も笑いかけたよ。笑えないんだけどね!
「あ、いや、緊急時故にすぐに駆け付けることはできず申し訳ございません」
「ちなみに先代王トスカが城下町で説明して回っていましたが、もちろん知っていますよね?」
「なっ!」
知らない! と言わんばかりの表情を四人そろってし始めたぞ。大丈夫かガラン王国の貴族。
「今貴方達は横領罪の疑いがかけられています。もちろん貴方達の父や祖父の代も横領しているのであれば、さらに罪は重くなります」
「お待ちください!」
と、シャルロットを褒めた貴族が前へ出た。
「私は横領などしておりません。木材の運搬に船の製造。職人以外も仕事ができるよう環境を整えており、昨晩ガラン王国港から帰ってきたばかりで状況の把握ができませんでした」
「貴様! その割には酒を持ってきたであろう!」
「あれはゲイルド魔術国家の薬に詳しい先生から特別に調合してもらった傷薬だ。作業員が怪我をした時の薬で、酒と似た匂いがする……が、どうしてそれを知っている?」
「なっ! いや、それは」
瞬時に母さんは『心情読破』を使っているのが見えた。人間の母さんだからできることなんだけど、目が金色に輝く母さんは珍しいよね。
「ふむ、薬に詳しい先生というのはワタチの部下のシグレットですね。その話は本当で治癒効果のある薬を製造していたのはワタチも容認しています。そして貴方は盗賊を使って情報を得ましたね?」
「なっ! あ、いや、それは偶然で」
盗賊を使った偶然って何?
「素人の怪我人は多く、手当が遅ければ仕事ができなくなる!」
「人を変えれば良いだろう! 国費を何だと思っている!」
「貴方がそれを言うか! それにそれでは人材育成と後世に繋がらない! シャーリー女王様、投資金額が多かったことに対しては申し開きもございませんが、後々のガラン王国を考えれば必要なこと。ゲイルド魔術国家の魔術の技術継承も利益よりも別なところに価値を生み出し続けている。私はこれらを学び今に至ります」
深々と頭を下げる一人の貴族。
「では一つ、試練を与えましょう」
「試練?」
そう言って母さんは裾から小さな瓶を四つ取り出した。
「これは魔術研究所で作った特別な薬で、ワタチ以外は持ちだし厳禁の薬です。これを飲んだ後にシャーリー女王様には一つだけ質問をしてもらいます。もし真実を話せば何も起きません。ですが、嘘であれば生涯味わうことができない苦しみと共に死が待ち受けてます」
「「「なっ!」」」
三名が驚いた。
「分かりました。館長様、一つ頂ければと」
「はい」
そう言って船を担当していた貴族が深呼吸をして、中の薬を一気に飲んだ。
「では質問です。貴方は横領をしていますか?」
「交渉時、商人を説得する際に国費を使用しました。後程こちらはお返しするつもりで執事もこれは存じています。それ以外は存じて……ぐぶっ!」
え!? 口から血が出たんだけど!
「失礼、しました。重傷者に対して働き口が見つかるまでの少しの間、国費から捻出しておりました。この行為がガラン王国の意図にそぐわない物であればこのまま」
「フーリエ、解毒剤はある?」
「こちらです。早く飲んでください」
「ッ! はっ!」
それを急いで飲む貴族。
「横領には変わりないとはいえ、そういう意図での支払いは許します。ですが今後そういう情報も正確に伝えるように」
「はっ!」
てっきり四人駄目かなーと思ったけど、シャルロットを褒めた貴族は誠実に仕事をしていたんだな。
「さて、他三名も」
「「「申し訳ございません!」」」
その場で地面に頭をつける貴族三名。
「許されることではありません。ですがこの通り!」
「今後誠心誠意を込めて業務を行います!」
「この場はどうか我々に一つ慈悲を!」
その姿を見たシャーリー女王は。
「ふーん。横領は認めると。じゃあ質問を変えるわ。それを飲んで今の言葉をもう一度言ってくれる?」
「え?」
「嘘を言えば死。つまり今の言葉に偽りが無いなら死なないわよ」
「ま、待ってください! そんな悪魔のような薬を飲んで話すなんて」
「言い分はわかりました。ではこの三名は貴族位の剥奪と返済の命令。そしてその罪を償うために不味い飯を一生味わいなさい。ラルト隊長、この三名を連れて行きなさい」
「はっ!」
「待ってください! もう一度!」
「どうか! どうかあああ!」
「いやだ、貴族になったのに、嫌だあああああ!」
悲鳴だけが聴こえて扉が閉まった。
「マオ様、お手数おかけしますが、そちらの貴族に治癒術を」
「……不必要。あれは害が無い飲み物」
「え?」
思いっきり血出してたけど?
「シグレットの怪しい実験で生まれた尋問道具ですよ。口の中の唾液に反応すると赤く染まり、同時に喉に少し刺激を与えるため絶対にむせるのです」
「そうなの!?」
その説明に貴族が膝をついた。
「はあ、はあ、では私は」
「安心してください。死にはしません。一週間ほど口の中が赤くなるだけです」
私生活に実害出るじゃん!
「唯一貴族の中で貴方だけがまともに働いてくれていたのね。引き続きお願いするわ」
「はっ。では私はここで」
そう言って謁見の間から立ち去った。
「俺いた意味ある?」
「私もいた意味ある?」




