二代目魔術研究所館長ミリアム
二代目魔術研究所の館長ミリアム。
詳しい話は知らないけど、母さんの姉にして悪魔術を最初に無害で使用した人物だっけ。
ゲイルド魔術国家で魔術学校にいた時に、ちょっとだけ気になって図書室で魔術研究所で本を読んだけど、文献はかなり少なかった。
しかし人の領域を超えた初代が唯一認めた二代目で、魔術研究所の運営が止まらなかったというだけでも凄まじい事という記述があった。
三代目に変わって学校の設立や各部署で優秀な人材を配置する運営に変わり、問題はいくつかあったもののそれぞれが上に立つという目標ができあがりさらに魔術研究所は大きくなったらしい。
それとなく母さんに仕事どうなの? って聞いたら、『リエンの夜泣きの方が千倍大変でした』って言ってたっけ。でも今思えば息子だからこそ実際の事は言わなかったのかな。
「はい店主殿。お茶です」
「すみませんシャルロット様」
母さんはエルの話を聞いてその場で地に膝をついた。
それからエルとの会話は途切れてしまい、シャルロットが何度問いかけても返事が返ってこなかった。
「もしかして音の神様のエルって気まぐれ?」
「色々な記憶があるって言ってたし、気まぐれな人もいたんじゃない? ちなみにシャルロットの祖母のシャンデリカ様はどういう性格だったの?」
「気まぐれね」
「それだね」
うん。解決しちゃった。いや、解決して無いけどね。
「個人的にはシャンデリカ様にも音の魔力を保持していたとは思わなかったけれど、私が色濃く出すぎたという感じと言われれば納得も行くわね。母上も音の魔力を使って何かしたようにも見えないし」
「今更だけど原初の魔力って本当に不思議な存在と言うか、変な存在というか。パムレは何か知ってるの?」
そう聞くと、孤島限定のパムレットを食べながら答えた。
「……もぐもぐ。げんひょのまほふはもぐもぐ、やもぐもぐてすもぐもぐ」
「食べるか話すかにしようか。お行儀が悪いよ!」
「……もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「ごめん。話して。パムレにパムレットを渡したら、最優先事項はパムレットになるもんね!」
くう、ジッと見られながらモグモグ食べやがって。
「……原初の魔力はパムレにもよくわからない。そもそもパムレは使えないし、それほど興味は無い」
「原初の魔力でパムレットが食べ放題になるってなったら?」
「……神に抗いその力をパムレの手に」
『うおおおお、リエン様よ。この魔力お化けの魔力がとんでもないぞ! 良いか、ちょっとでも魔術を使ったらお互いの魔力が反応してこの孤島が消えるぞ!』
『孤島だけで済めば良いねー。多分ミルダ大陸が半分に割れるー』
もはや爆弾だよ!
そこへシャルロットがパムレの頭に手を置いた。
「鉄の味のパムレットとか食べたい? もしくは『神』味のパムレット食べたい? 神の味だし、アルカンムケイルをかじればいいかもしれないわね」
「……美味しくなさそう」
『うぉおおおお。一気に魔力が消えたぞ!』
『絶対海の魚とか新種が生まれる勢いの膨張と縮小ー』
魚料理の種類が増えちゃうじゃん。新しい魚が増えると大変なんだぞ。
「ふう、ご心配をおかけしました。だいぶ落ち着きました」
「母さん、無理しないでもいいんだよ?」
コップを机に置き、深く深呼吸をする。
「ワタチごとき人間が神様に生意気なことを言ったからでしょうね。やはりあの領域は高すぎますね」
ここまで無理をした笑顔の母さんを見たことは無かった。
「その、母さんはお姉さんに会いたい?」
「会えるなら……と言いたいですが、正直あわせる顔はありません。ミリアム姉様は全てにおいて完璧。マリー様に次ぐ最強の魔術師にして魔術研究所の館長でしたから、それを引き継いでも超えられない壁であることに変わりありません。千年以上その地位で頑張っても、ミリアム姉様の力はまさしく天才でしたから」
それほどの人なのか。
「パムレちゃんは知ってる人なの?」
「……ミリアムという人は知らない。多分パムレがここに来る前に亡くなっている。多分知っている人はミルダとゴルドくらい」
それほど昔の人なのになお超えられない壁というのは、一体どんな人物だろう。
「ともあれ、姉様が生きているのを知ったので良しとします。いえ、別世界なので会えないことを前提にこれからも普通に過ごすしかありませんね。それよりもお腹が空きませんか? ちょっとご飯を作りますね!」
そう言って母さんは厨房へ行った。
「大丈夫かな。なんか無理している気がするな」
「そうね。リエン、厨房に行ってあげたら?」
「……うん。これはリエンのお仕事」
「え? う、うん」
何故かセシリーとフェリーも消えずにその場に残った。俺は言われるがままに厨房へ向かった。するとそこには涙を流しながらゆっくりと包丁で野菜を切る母さんの姿があった。
「ミリアム姉様……会えるならあいだいでず……うう……あああ」
何をして良いのかわからなかったけど、とりあえず母さんの隣に立って俺は野菜を一緒に切った。
☆
一日母さんの話し相手をしている間にシャルロットたちは船の修理を行ってくれたらしく、翌朝船を見てみるときれいに海の上に船は浮かんでいた。
「すげー。というかあの大穴を一日で何とかできるんだね」
もしかしてガラン王国の建築技術ってすごいのかな。
「……あの船ずっと持ち上げて、その間に木材をいい感じに切ってそれを張り付けて、水が入らないように塗装をして海に投げつけた」
「簡単に言うとパムレちゃん一人で全部やっちゃった。私達の出る幕が無くて本当に情けなく思うわ。これはあれね。パムレちゃんにもしパムレットを要求されたらすぐに届けないといけないわね」
完全な上下関係ができてるじゃん。いつも膝の上に乗せてるけど、今回ばかりは完全に反省したのだろう。
「……気にしなくていい。これくらい朝飯前」
「パムレちゃん!」
ウルウルと目に涙を浮かべるシャルロット。
「……あ、パムレット急に食べたくなった」
「今持ってくるわ」
おおおおい!
凄まじい速さで宿屋に走ってったんだけど!
「……ふう、とりあえず端的に話す。フーリエ、エルとの会話の記憶を消すことは可能。どうするか任せる」
「うっ!」
母さんがパムレを見て一歩引いた。
「確かにミリアム姉様の話の所為で色々と集中できていないのは事実ですが、それでもこれは一つの希望として残しておきます」
「……そう」
やはりパムレは凄いと思った。普通はできない記憶の消去の提案もサラッとする辺りは三大魔術師なんだなと改めて実感する。
と、そんなことを思いながらパムレを見たら手招きをされて少し母さんから離れた。
「……パムレができるのは記憶の消去や捏造。でもそれは相手を相手でなくすること。フーリエの心の傷を癒せるのは三大魔術師では無理。唯一できるのはリエンだけだよ」
「!」
微かに微笑むパムレ。
「うん。分かった。少し時間はかかるだろうけど頑張る」
「……ん」
と、そこへ凄い勢いで走って来るシャルロット。
「ガナリちゃんにお願いしてパムレットを作ってもらったわ! ということで船が出発したら一緒に食べましょう!」
太陽のような笑顔のシャルロット。それを見た母さんはつられて笑い、それを見た俺もつい笑っていたのだった。




