少年の過ち
教会の中には『関係者立ち入り禁止』と書かれてある部屋があり、そこへ案内された。
部屋に入ると色々な本はあるが……部屋なのに布団は無いのか。
静寂の鈴を聞きながら延命しているミルダ様。同時に母さんもその鈴の音を聞いているんだっけ。今思えばどんな気持ちでやっているのだろう。
「さて、話してもらいます。『どうやって空腹の小悪魔』の召喚方法を知りましたか?」
まあ、そうなるよね。
「えっと、話したら怒る?」
「状況次第では怒ります。あ、『このワタチ』は人間なので嘘は言わないでくださいね」
「うーん、わかった」
そう言って俺は深呼吸。『本当の事』を間違えないように慎重に答える。
「俺の前で『空腹の小悪魔』を何度も召喚してたら何となく予想できるよねー」
「ワタチの所為だったあああああああああああ!」
なーにが説教だよ。というか俺はそもそも『空腹の小悪魔』の目玉は好きになれないし、悪魔は危険な存在ってことをしっかり頭に入れてきたんだよ? それを一番に教えた人は何処のどなたでしょーね! 母さんは『三大魔術師』という肩書もあるし、悪魔を召喚して闇を切り開く人なのかもしれないけど、俺はそもそも普通の人間だし悪魔を召喚するほど魔力に困ってない。さらに言えば俺は今魔術ではなく剣術の特訓をしているし、正直『悪魔術』は俺の中でそこまで重要な知識でもない。対処方法さえ知っていればそれ以上の情報はいらないと言っても過言では無い。あ、あと
「リエン……もう……わかりました」
「ん? あ、『心情読破』使ってたんだっけ。うっかり色々と溜まってたうっぷんが頭の中でゴチャゴチャしてたよ」
母さんがフラフラしているということは、結構な情報量が流れ込んだのかな?
「ワタチの教育の所為で今回あんな事件が起こってしまうとは。今後空腹の小悪魔を召喚する時は本当に一人の時にしないといけませんね」
いや手遅れでしょ。もう知ってるし。
「そもそも教育に悪魔を使うってどういう教育方針なの?」
「教育者は悪魔なのでその言葉は筋が通りません」
「屁理屈じゃね?」
「ぐっ!」
わーい。全然嬉しくないけど大陸屈指の魔術の専門家の『魔術研究所の館長(母さん)』を魔術関連で言い負かしてるぞー。
「一か月ほど反省部屋に籠りたいくらいですが、そうもしていられません。そして今回の事件で改めて『心情読破』の恐ろしさがわかってしまいました」
「そりゃ……」
相手の考えを読み取る術。俺の中で一番無害だと思っていた術式だけど、俺は色々な事を知ってしまった。
「実は説教というのは建前です。本当はこれをするために呼びました」
「いや絶対説教する気満々だったでしょう。一応言うけど『今の母さん』には俺も『心情読破』を使えるんだからね? とりあえず試しに今使ってみるかー」
「ゆるじでぐだざい。今日のご飯は特別にリエンの好きなおかずを沢山用意じまずがら」
最近の母さん泣きすぎじゃない?
いや、好きで泣かしているわけじゃないよ? 俺は思ったことを言っただけなんだよ?
「ぐすん。実は先ほどこれをシャルロット様から借りました」
「それは……『蛍光の筆』?」
先端が光り輝く筆。近くで見るのは初めてだ。
「悪魔のワタチではこれを持つことはできません。あ、できれば寒がり店主の休憩所へ行く際はこれを何かの箱に入れてください」
「そうか……母さんにとっては苦手な魔力だもんね」
母さんは小さい鉄の板を机から出した。
「実験用にゴルド様から多めにお願いして正解でした。紙だと劣化するので、これだと大丈夫でしょう」
そう言って鉄の板に文字を書く。
「ふう、これで大丈夫です。はい、リエン。今後はこれを常に持っていてください」
「これは?」
「ワタチからのお守りと思ってくれればいいですよ。実際の効果は軽い『心情偽装』をこの鉄の板に仕込みました。一般的な魔術師くらいの人だったらリエンに『心情読破』を使っても大丈夫でしょう。マオ様くらいになると破られますけどね」
陣を描くことで同等の術式が使える『札術』。それすらも母さんは知っているんだ。
「ありがとう。大事にするね」
「はい。それと……」
母さんは扉に向って話しかけた。
「パムレ様。貴女には呪いを付与させます」
ゆっくり開く扉にパムレが立っていた。後ろにはシャルロットも?
「パムレ様は問題解決のために悪魔術を使った。ワタチとしてはパムレ様は信頼しているので大丈夫だとは思いますが、万が一もありますので」
「店主殿、その、パムレちゃんはカッシュのために使ったので、厳しい罰は」
「……シャルロット。大丈夫。これはパムレが望んだ事。フーリエに呪いをかけて欲しいとさっき言った」
「そうなの?」
やはりそういう部分は『三大魔術師』なんだろう。自分の置かれた責任や力を理解した上で自分の過ちをしっかりと償い、対処方法も自分で考える。改めて凄いと思った。
「……うっかり寝ている間に悪魔出したらミルダ大陸滅ぶからね」
「うん。強めの呪いをかけて母さん!」
前言撤回。
フワッと言ってるけど本当にやりかねないからねこの子は!
「強めと言っても条件は簡素なものです。『悪魔術を使おうとしたら一時的に痺れて動けなくなる』という呪いです」
フワッと青白い光がパムレを包む。
「……ん。これで夜もぐっすり。ありがとフーリエ」
「いえ。ということでこれはシャルロット様にお返しします」
蛍光の筆。俺たちが旅に出て次に探す予定だった秘宝。長かったような短かったような。
『うむ、創造の編み棒よりは期間的に短いがのう。あとは『タマテバコ』じゃったか?』
「そうだね。手がかりが無い以上どうすれば良いかわからないけど」
パムレが壊しちゃったという話しもあるし、どうしたものか。
「今シャムロエ様に連絡をしました。ゆっくりで良いのでガラン王国に一度来てほしいとのことです」
出た。母さんの便利お話伝言。
「じゃあ今日は一日ゲイルド魔術国家で休憩しようか。明日出発くらいな感じで最低でも明後日出発で」
その言葉と同時にポーラが部屋に入ってきた。
「失礼します。ミルダ様から許可はいただいてます」
「何の御用でしょうか?」
「いえ、一通りお話も終わったところで、今日は是非ワタシの城でお食事をと思いまして。色々とお詫びもかねておもてなしをしようかと」
うーん、事の発端は母さんと言い切りたいけど、俺も責任はあるしお詫びされても少し申し訳ないと言うか。
「良いじゃない? リエンもせっかくの王族の料理を食べてみたら? きっと面白いわよ」
「でも……」
母さんをちらっと見る。
「ふふ。たまにはご友人のお家でご飯も良いと思いますよ。ポーラ様、リエンをお願いします」
「承知しましたフーリエ様。では馬車を用意したので、そちらで向かいましょう」
☆
そして二つの馬車に二手に分かれて乗ったのだけど、男女で別れて乗ったため、俺とカッシュの二人だけの空間が生まれてしまった。
一言で表現するなら『気まずい』。
「リエンさん……その……」
「あー、いや、忘れよう。というか俺も悪かったし、そもそもカッシュは生きるために頑張ってたんだし、俺からは何も責めたりしないよ」
「本当にごめんなさい。リエンさんの期待を裏切る行為だとは知っていて、でもこの先のゲイルド魔術国家の未来を見てみたいと思った欲が先走りました。もっとちゃんと考えて誰かに相談すれば良かったのに」
まあ、シャルロットが解決方法を思いついたんだし、もしかしたら魔術研究所の誰かなら同じ結論を出せた人がいるんじゃないかな? それこそ母さんとか。
『のうリエン様よ』
おお、そういえば精霊たちは俺の近くにいるんだし、人数合わせに召喚するのはありだったな。
ポンっとセシリーとフェリーを呼び出す。
『ふぇ!? ご主人ー、ウチフブキを暖めてなくて良いのー?』
あ、忘れてた。うっかりこっちに呼び出したけど、ずっとフブキの頭に乗せてたんだった。
「ごめん、自力で戻れる?」
『了解―』
ポンっと消えるフェリー。
多分今の呼び出しでフブキは一気に凍えたんじゃ無いかな。うん、心の中で思いっきり謝罪しよう。
「それで、セシリー。どうしたの?」
『うむ、精霊は死と言う概念から遠い。無いわけでは無いが、普通に生活していればまず死なぬ。じゃが人間は必ず存在する。時間と共に訪れる死という概念はおそらく我々精霊には想像できぬほどの恐怖じゃろう』
そう言ってカッシュを見た。
『我はカッシュを尊敬するぞ。やり方はどうあれ人間にしかできぬ生きる努力を見せてくれた。後発精霊の言葉なぞ王族のしがらみに比べれば軽いかもしれぬが、それでも我はカッシュを忘れぬであろう』
「セルシウス様」
『よせ。過去の名は嫌いではないが、今はリエン様の配下となった『セシリー』じゃよ』
「うん。ありがとうございます。セシリー様」
『うむ』
そう言ってポンと音を立てて消えた。『ポン』って登場したり消えたりするの少し気に入ってるのかな? 本当は『スッ』と登場することもできると思うけど。
(空気を読めリエン様よ。我なりに色々相違工夫をじゃ!)
頭の中でセシリーが叫んできた。
「まあそういう事。むしろ大きな悩みを抱えていたのに察することができなくてごめんな」
「リエンさん……いえ、リエン兄さん」
『ガフッ!』
『ちょっとシャルロット! 急に鼻血を出してどうしましたの!?』
『いえ、ちょっとした発作よ。気にしないで』
『大変! 今治癒術で治します!』
『こんなことで王家の秘伝の治癒術を使わないで……』
何か隣で走っている馬車は賑やかそうだ。ははは。




